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「仕事は怒られながら覚えるんだよ!!」会社や家庭で怒鳴っている大人に思うこと 恐怖政治は、組織にとって「ゆるやかな自殺」です - 吉川 ばんび

 昔に比べると理解してもらえることがやや増えたように思いますが、私は大声や怒鳴り声が非常に苦手で、聞くと胸がドキドキしたり、体がこわばってしまうことがあります。

 だからこそトラブルになったり仕事でミスをして怒られたりしないよう日頃から気をつけてはいるものの、それでも運悪くそういう場面に出くわしてしまうこともしばしばです。

怒鳴られると本来のパフォーマンスが発揮できなくなるのでは?

 例えば漫才の中で、ツッコミ役が怒号を飛ばして相方を思い切り叩いている様子を見るだけでも「うわあ……」と反射的にテレビを消してしまいますが、一番しんどいのは、職場などにおいて、年長者が部下や後輩を大声で叱責しているところに居合わせたときです。そんなときに「ザーッ」というノイズのような耳鳴りに襲われたり、体がこわばったりするのは私だけかと思っていたのですが、周りで眉間にしわを寄せながら嵐が過ぎ去るのを待っている同僚たちを見る限り、私のような人が特別に「少数派である」というわけでもなさそうです。


©iStock.com

 あれ、どうして怒鳴っているんでしょうか。

 私が知らないだけで実は「怒鳴られた方が人間の能力はよく育つ」みたいな研究結果があるならまだしも、経験上、怒鳴られると「怖い」という感情が先行して萎縮してしまいますし、心身ともに緊張状態に置かれてしまうことで、その人が持っている本来のパフォーマンスが発揮できなくなるように思うのです。

 私が以前働いていた会社では、人手不足のため入社したての新人が必要な研修をほとんど受けられず、全く何も分からないまま電話に出なければならない状況で、担当者に内線で引き継ぐだけでなぜか「何だよ、今忙しいんだよ!! 適当に話つけとけよ!!」と怒鳴られる、理不尽極まりない環境に置かれていました。

野球部の顧問とかならまだしも

 昔からいる先輩社員たちは「仕事は怒られながら覚えるんだよ」と開き直っていましたが、怒鳴られていた当の新入社員に「大丈夫ですか?」と声をかけると「僕、さっき何て怒られてましたっけ……すみませんびっくりして頭が真っ白になってしまって……」と半泣きになっていて、ますます「これは良くないぞ」と不憫に思えてなりませんでした。

 仮に、怒鳴っているのが野球部の顧問とかであれば、まだ分かります。グラウンドの端から端まで聞こえるようにするには、大声を出さないと伝わらないと思いますし。でも、屋内で、しかも目の前にいる人に向かってあんなに大きな声を出さなくても、多分、ちゃんと聞こえると思うんですよね。であれば、今後のミスを防ぐためにも、オフィス全体の平穏を保つためにも、できれば怒鳴ったり大きな声で相手を威圧するのではなく、声のトーンを抑えて指導した方が、よほど効果的なのではないでしょうか。

失敗を隠してしまうように……

「恐怖政治」が長い目で見ると良い結果をもたらさない、というのは、個人的には子育てにおいても言えることだと思います。

 私が生まれ育った家庭は少し過激だったというか、少々ハードコアなところがありましたので、まだ幼い頃に誤って食事や飲み物をこぼしてしまうだけでも母親から怒鳴られたり、大ビンタをもらうことが多々ありました。「次は気をつけよう」と子どもながらに思っていても、手をすべらせてしまったり、不注意で失敗するたびにきつく叱られるので、そのうち私は母に対して恐怖を覚えるようになったのです。

 その結果、私は「失敗」を母に隠すようになりました。私がまだ5歳くらいのときに、母に連れられて行った母の友人宅で、食べていたカップ麺を容器ごと足の上に落としてしまったことがありました。熱湯がかかって水ぶくれができるほどの火傷を負ったにもかかわらず「こぼしたことを知られたらお母さんに怒られてしまう」と思った私は、太ももの上に落ちた麺やスープを払い落とすこともせず、熱さに耐えながら小刻みに体を震わせ、ぽろぽろと涙を流すことしかできなかったのです。

 私のことを心の底から嫌っていたシーズー犬のメリーちゃんが、プライドを捨てて私の太ももの上にあるラーメンを食べに来たことで事件が明るみになり、結局母には「どうして水ぶくれになるまで黙ってたの!」と激怒され、散々な目に遭ったあの日のことを私は一生忘れません。

幼少期の恐怖心が人格形成にまで影響

 そんな叱られ方をしていたせいか、私はいつもビクビクしていて、人の顔色を過剰にうかがうような子どもだったように思います。怒鳴り声や大声に対する恐怖心はそのうちなくなるだろうと思っていたのですが、私の予想とは裏腹に、恐怖心は月日が流れて薄れるどころかだんだん増幅され、とうとう大人になっても消えませんでした。

 私の場合は幼少期にダメージを受けたこともあり、人格形成にまで影響が出てしまいましたが、たとえば会社に入りたての新入社員であっても、まだ右も左もわからない中で先輩や上司から怒鳴られたり、感情的に大声を出されたりする「恐怖体験」は、その後の社会人生活に大きく影響するのではないでしょうか。

「叱ること」と「怒ること」

「叱ること」と「怒ること」はそもそもまったく違うわけであって、とりわけビジネスにおいては負の感情を相手にぶつけても事態が改善されることはなく、かえって相手の成長を止めてしまう要因になると思うのです。ましてや、怒られることを極度に恐れた新入社員が、すぐに報告してくれれば何とかなった小さなミスさえ隠すようになった結果、後になって取り返しのつかないクレームが勃発する最悪のケースもこれまで数々見てきました。あれが一番困る。

「怒鳴る」という行為は、相手の思考を停止させて思いのままに支配するには有効な手段かもしれませんが、できることを増やしたり、伸び代を伸ばしたりする効果はほとんど期待できないのです。

組織にとってのゆるやかな自殺

 権力者が、苛烈な手段によって人々を弾圧して反対意見を言えないようにする「恐怖政治」は、組織にとって革新的な声を殺し、時代に即さない悪しき慣習を生かすことにもつながるでしょう。私にとってこれは、組織全体の「ゆるやかな自殺」であるように思えます。

 恐怖政治と聞くと、フランス革命時にロベスピエール派が反対派を次々に処刑したように、国家など大きな集団の中で行われるとイメージされる方が多いかと思います。しかし、恐怖政治のような統治方法は、家庭や職場でも起こりうることです。力の強い者が、力の弱い者に恐怖心を持たせることで自分の権力を振りかざす組織のあり方は非常に原始的なものであり、個人の発言権を奪うどころか、虐待やパワハラ行為の常態化を肯定しています。

 おそらく、日常的に誰かを怒鳴ったり威圧している人はそこまで考えていないケースがほとんどだと思います。しかし、突発的な感情を相手にそのままぶつけてしまうのは、自分にとっても相手にとってもメリットが一つもないどころか事態が悪化してしまう可能性すらあることを、僭越ながら、改めて申し上げたいところです。

(吉川 ばんび)

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