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特集:2019年参議院選挙の見どころ、勘どころ

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ハッと気がついたら、今週末7月21日は参議院選挙です。とはいえ、どこへ行っても選挙戦は盛り上がっていない様子。このままいくとさしたるドラマもなく、緊張感のない政治情勢が続くことになりそうです。

安倍内閣はここまで「安全策」をとり、選挙に影響しそうな案件はことごとく先送りしてきました。しかし選挙が終わったら、いくつもの課題が押し寄せてきそうです。外交では日韓関係、日米経済協議、ホルムズ有志連合など。内政では財政再検証が「お待ちかね」状態で、年後半には年金問題が再燃しかねません。

やっぱり本誌としては「選挙ネタ」は見逃せないところ。2019年参院選の見どころや、その後の国内政治について考えてみました。

●2019年参院選挙の最終盤情勢

今月の筆者は全国のいろんな場所を訪れている。福島(7/6-7)、札幌(7/10-12)、大阪と神戸(7/17-18)などだが、どこへ行っても、こちらから聞かない限り選挙の話は出てこない1。いや、それを言い出したら、そもそも足元の首都圏も同様なのである。選挙期間中に、人がまったく集まらない候補者を何回見かけたことか。

メディアによる情勢分析では、序盤戦では「自公改選過半数の勢い」(朝日新聞7月6日)であったが、中盤戦では「改憲勢力3分の2迫る」(日経新聞7月15日)となっている。与党側としては、このまま何事もなくゴールしたいところであろう。こうなると気になるのは投票率で、前回2016年の参院選挙では54.7%であった。せめて5割を割らないことを祈るばかりである。

かつてメディアが序盤戦で「与党が優勢」と報道すると、その後に野党が大きく票を伸ばすことがよくあった。有権者が劣勢な側に味方する、いわゆる「アンダードッグ」現象(またはアナウンスメント効果)により、世論調査の予測はしばしば大きく外れたものだ。

しかしここ数年の国政選挙では、選挙期間中に大きな変動が起きなくなっている。最初に与党優勢、という情勢分析が出たらそれは最後まで変わらない。有権者は勝ち馬に乗る、すなわち「バンドワゴン」現象が多くなった。だから近年の世論調査はよく当たる。

フジテレビの平井文夫氏によれば、「アンダードッグ現象が起きるのは、与野党逆転のチャンスがあるときだけ」なのだそうだ2。つまり橋本内閣退陣の引き金となった1998年参院選や、小泉政権が過半数割れした2003年衆院選は、「二大政党制への期待感」が働いていた。言い換えれば、次の選挙は天下分け目の戦いで、自分の投票行動が現実の政治を変えるかもしれない、という手応えがあるときに、無党派層は家を出て投票所に向かう。そういうときに予想は大きく外れるものである。

ところが、2019年参院選挙は波乱が起きそうにない。なんといっても、最大野党で与党経験もある民進党が、2017年に分裂してしまっている。立憲民主党と国民民主党はともに少数勢力であるにもかかわらず、互いに足を引っ張り合っており、選挙協力ができる地域も限られている。特に立憲民主党にとって、今回の参院選の真のテーマは「野党第一党の地位を固めること」であろう。だとしたら、敵は与党よりも国民民主党ということになる。結果として、今や「二大政党制への期待感」は雲散霧消してしまった。これでは無党派層は、「家で寝ている」ことになってしまう。

野党が全体に元気がない中で、気を吐いているのが元俳優の山本太郎参議院議員が立ち上げた「れいわ新選組」であろう。真の弱者に焦点を定め、消費税の廃止(増税延期ではない)、最低賃金1500円、奨学金徳政令など、威勢のいい公約をぶち上げている。その路線は、バーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオコルテスに重なって見える。日本に初めて誕生した左派ポピュリスト政党と言っていいだろう。

欧州では既存の二大政党が衰退し、左右のポピュリスト政党が伸びる現象がみられている。そういう意味では右派のポピュリスト政党、日本維新の会の動向も気になるところである。全国的にはともかく、大阪ではあいかわらずの人気を誇っている。

本号の「今週のThe Economist誌」で紹介した”The satisfaction paradox”によれば、弱者がポピュリストになびくのは景気のどん底ではなく、良くなり始めたときであるという。世界経済は2008年のリーマンショックから長い低迷期を経て、それがやっと良くなり始めた2016年になって、英国はEU離脱を決め、米国はドナルド・トランプを選出した。だから「不人気な体制にとって最も危険なのは、物事がうまく回り出したとき」だという。

この法則を日本経済に当てはめると、近年の大阪における「インバウンド景気」と「維新の人気」が重なって見える。2019年の参議院選挙では、左右のポピュリスト政党がどこまで伸びるかが注目点と言えよう。

●「韓国叩き」は与党の票を伸ばせるか

通常、「外交は票にならない」と言われるが、2019年参院選では「日韓関係」が大テーマとなっている。6月末に大阪G20首脳会議が終わったら、全世界の注目を集めていた米中貿易戦争が急に静かになり、7月はもっぱら日韓の通商問題が耳目を集めている。

私事で恐縮だが、東洋経済オンライン「市場深読み劇場」7月13日付で「『日韓貿易戦争』で日本が絶対有利とは限らない」というコラムを寄稿した3。本誌の前号でも軽く触れたとおり、韓国向けの輸出優遇措置の解除について、筆者は懐疑的な見方をしている。ところが東洋経済オンラインの拙稿には、既に120本以上のコメントがついていて、そのほとんどが否定的な内容である。もちろん批判やご意見は歓迎するところだが、どうやらタイトルだけ見て反発したらしい単純な罵倒もかなりの数を占めている。ネット上の「反韓感情」がいかに強いか、垣間見えた気がしている。

この件について、韓国側には「安倍政権は選挙を意識しているから、参院選を過ぎれば軟化するだろう」との期待があるらしい。しかし参院選挙後の日程に注意が必要である。

現在、経済産業省では、「輸出貿易管理令の一部を改正する政令案に対する意見」を募集している4。いわゆる「パブリックコメント」だが、その受付締切日が来週7月24日なのだ。日本国内から、膨大な「アンチ・コリア」の意見が寄せられていることは想像に難くない。パブコメは必ず公開されるので、来週以降にこの中身が表に出た後で日韓の政府がどう反応するか。お互いに「引くに引けなく」なってしまうのではないだろうか。

週明けには、参院選の「出口調査」も発表される。その中では、日韓関係に関する設問も入っているはずだ。多くの有権者が反応していた、ということが分かれば、「韓国叩きは票になる」という選挙の新定跡が誕生するかもしれない。逆に騒がしいのはネット上だけで、普通の有権者はあまり反応していなかった、ということも十分考えられる。韓国問題がどの程度、選挙結果に影響しているかは、正直なところ蓋を開けてみないとわからない。日本政治において、ほとんど初めてのケースであるからだ。

今回の措置に対し、安倍首相は当初「徴用工問題での韓国政府への対抗措置」であると説明していた。ところが翌週からはトーンダウンして、菅官房長官なども「純粋に輸出管理の問題」と説明している。すなわち、対外的にはテクニカルな問題であるとしながら、国内的には「あの韓国に対してガツンとやってやりました」とアピールしている。やはり参院選を意識しているとしか思われない。

しかし、内外で説明にブレがあることは、今後の日韓の「対外宣伝戦」においては傷となる。今後、WTOなどで日韓が対立する際に、韓国側は「今回の措置は政治的な意図を持つ恣意的な運用だ」と指摘するだろう。いずれにせよ、参院選後の韓国との関係が困難なものになることは避けられまい。

ところでサムスン電子やSKハイニックスの株価は、7月第1週に下げた後、第2週にはほぼ戻している。「これで半導体市況が回復するかもしれない」との市場の思惑を招いているからだが、経済活動はかくも思いがけない方向に反応するものである。

ビジネスを使って外交的な圧力をかけようとする行為は、得てして想定外の結果をもたらす。2010年の中国による対日レアアース禁輸措置は、後でWTO違反と日程されたのみならず、豪州など他国の鉱山開拓やユーザーによる代替手段の開発競争を招き、損をしたのは中国自身ということになった。

現在の半導体産業は、そうでなくても米中貿易戦争による打撃を受けている。日韓間の対立をあおって新たな不透明性を持ち込むことは、アジア経済のリスクを高めることになりかねない、と再度強調しておきたい。

●年後半に控えるさまざまな政策課題

今回の参院選に備えて、安倍内閣はさまざまな「安全策」をとってきた。

今年は5年に1度の「財政再検証」の年で、年金制度の長期持続可能性のシミュレーションを公表しなければならない。ところが厚生労働省は口を閉ざしたままである。選挙前に、将来の年金支給への不安を増幅させたくないのであろう。

逆に言えば、年後半はどこかでこの財政再検証が公表される。年金問題が再び脚光を浴びることになるだろう。2020年の通常国会では、年金改革の法改正をスケジュールに乗せる必要がある。団塊の世代の先頭(1947年生まれ)が後期高齢者となる2022年までに、高齢者医療の給付と負担の在り方を見直さねばならないからだ。果たして安倍内閣には、その覚悟があるのだろうか。

カジノ解禁を認めた「複合リゾート法案」の定めでは、今年は実施に向けたルール作りを始めるべき時期なのだが、内閣府はその作業を夏以降に先送りしている。「カジノ反対」の世論が選挙に影響することを恐れているからだが、お蔭で大阪におけるカジノ開業は、2025年の万博開催に間に合わなくなるかもしれない。この作業も、選挙後に開始することになるはずだが、その過程ではもちろん物議を醸すことだろう。

こんな風に、安倍内閣は多くの問題を先送りして、選挙の危険を避けていた。それにもかかわらず、6月に噴出してしまったのが「老後資金2000万円問題」である。金融審議会が提出した答申が、「年金支給開始年齢までに、2000万円程度の金融資産が必要」と書いたことで、潜在的にあった年金制度への不安が高まった。特に「年金給付が将来、減額される可能性がある」と政府の文書が認めたことが波紋を投げかけた。

報告書をつらつらと読んでみれば、そんなに間違ったことが書いてあるとは思われない。わが国の家計部門には、2018年末時点で1830兆円の金融資産がある。その6割以上は高齢者が保有しているはずだが、その多くは銀行預金に滞留している。そこで金融商品を充実させ、悪質な業者は取り締まります。だから皆さん、上手に資産を運用してください、それが日本経済のためにもなります、というのが金融庁の問題意識であろう。

ところがわが国では、しばしば「年金ヒステリー現象」が生じてしまう。2007年には「消えた年金問題」で、第1次安倍内閣が吹っ飛んだこともある。それだけ国民の間に将来不安があり、年金制度への不信があるからだ、と言われる。

しかしここでは少し意地悪な見方をしてみたい。2016年の家計調査によれば、わが国の高齢者世帯の貯蓄額は平均値で2385万円、中央値でも1567万円ある。これならば、さほど心配する必要はないように思える。

しかるに400万円未満の世帯も18.6%ある。つまり高齢者の資産格差は非常に大きい。長寿時代が本格化すると、必然的に格差は拡大する。健康状態から家族状況、そして資産の多寡まで高齢者が置かれた状況はさまざまである。平均寿命が短かった頃には、それを気にする間もなくお迎えが来た。しかし予想外に余生が長くなると、嫌でも他人との差が気になってくる。集団ヒステリーが生じる真の理由は、ここにあるのではないか。

「2000万円問題」で火が付いた不安心理は、容易には収まらないだろう。今年後半の政治情勢はかなり不安定なものになるのではないだろうか。

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