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中国側から見た、上海高島屋の撤退 - 立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

「上海高島屋はやはり、無理だった」。――6月26日付けの中国国内経済紙「第一財経オンライン」記事「高島屋閉店へ、有名日系百貨店敗退の背後」の書き出し。カルフールの話(参照『カルフール中国撤退、時代の寵児はこうして墜落した』)に続き、高島屋中国撤退に触れてみたい。


上海高島屋(Imaginechina/アフロ)

米中貿易戦争による内需低迷が撤退の原因か?

高島屋は6月25日、中国から撤退すると発表した。上海高島屋の店舗を8月に閉店する。

6月25日付の日本経済新聞電子版は、「米中貿易摩擦の影響などで消費が減速しており、運営継続は困難と判断した。海外ではベトナム・ハノイで教育施設を柱とする不動産開発事業に参画する。海外事業では成長の見込める東南アジアに経営資源を集中する」と報じた。

SankeiBizも6月26日付の記事で、「長引く米中貿易摩擦の影響で業績改善は見込めない」と背景を説明し、高島屋の中国撤退を報じた。このくだりは、おそらく二紙とも高島屋広報部のプレスリリースをそのまま掲載したと思われる。

撤退の原因だが、「米中貿易摩擦の影響による消費減速」とされたところに強く違和感を抱く。米中貿易問題が浮上したのは、昨年の夏。貿易戦争の本格化は昨年末から今年の前半にかけての出来事であり、その影響による消費の減速は確かに徐々に表れ始めたものの、ただそれがすなわち高島屋の中国撤退に直結する要因とは思えない。

私の知る限り、高島屋上海は開業の2012年当時からずっと恒常的な経営不振が続いた。高島屋上海といえば、レストラン街を除いて、スタッフが客よりも多いという閑古鳥が鳴く惨状。もはや上海現地在住の日本人なら知らない人がいないほど有名な話だった。冒頭の第一財経の記事は、こう述べている――。

「上海高島屋は残念ながら、開業以来、人気がなかった。本紙記者が何度か店頭を取材したものの、巨大な店舗に客はわずかだった。このたびの閉店の主因は業績不振によるものであった」

非常に単純明快な解説だった。「米中貿易摩擦の影響による消費減速」はいずれ業績の更なる悪化を引き起こす原因にはなり得るが、撤退の直接原因ではないはずだ。では、高島屋の敗因とは何だったのか?

中国人は高島屋をどう見ているのか?

2012年12月、上海市虹橋・古北地区の高級住宅街に、高島屋上海店が静かに、いや正確にいうとこっそりと開業した。通常百貨店の開業に見られる派手な告知やイベントもなければ、バーゲンセールもない。明らかに反日運動のリスクを意識した防御策なのであろう。

同年9月、日本が尖閣諸島を国有化したことに抗議する反日デモが中国各地で始まり、それが次第拡大し、2005年の反日活動を上回る最大規模のデモとなり、デモ隊が暴徒化し大規模な破壊・略奪行為に発展した。日系の商業施設だけでなく、日本大使館まで投石され、襲撃の対象となった。そんななかで日系百貨店が盛大に開業キャンペーンを打つことは無理だった。まさに不運の滑り出しであった。

反日運動が一段落ついたところ、情勢が落ち着きを見せ始めた2013年になっても、高島屋上海の経営不振は一向に好転しない。

現地メディアによれば、売上目標は初年度の130億円から80億円、さらに50~60億円へと引き下げられ、経営陣の交替やブランドの入れ替え、商品ラインナップの調整などできる限りのことをすべてやった。しかし、業績は一向に改善されない。あらゆる試みは失敗に終わったということのようだ。

上海高島屋が閉店と中国撤退を発表すると、中国のメディアが待ってましたかのように世間を賑わせた。一部の報道を取り上げよう――。

6月26日付、第一財経網記事『上海高島屋閉店、有名日系百貨店敗退の背後』(http://news.sina.com.cn/o/2019-06-26/doc-ihytcitk7708407.shtml) 「日系百貨店のいわゆる日本の『高品質』は中国市場で知名度も高くなければ、そももそ中国人消費者には認められていない。だから、買わない。たとえば家庭日用品、日本では実用性が認められても、中国人消費者からみれば買う必要がない。だから、何回商品ラインナップを変えても効果は得られない」

6月27日付、財経網記事『中国参入7年も現地化できず、日系百貨店上海高島屋赤字閉店へ』(http://industry.caijing.com.cn/20190627/4598254.shtml)「『ハイエンド主力で多くのブランドは日本発ですが、いま日本は行きやすいし、日本へ行って買えばいい。だから、上海高島屋の優位性は薄い。私が離職した頃、一部のブランドがすでに撤退し始めていました』。某元高島屋従業員が国際金融報の取材にこう答えた」

6月27日付、新浪財経記事『日系百貨店上海高島屋中国撤退、なぜ現地に定着できなかったのか』(http://finance.sina.com.cn/roll/2019-06-27/doc-ihytcitk7939108.shtml?cre=tianyi&mod=pcpager_focus&loc=25&r=9&rfunc=100&tj=none&tr=9)は、上海高島屋で広報を担当していた某元従業員の取材を紹介した。

彼女は高島屋の失敗について、「高島屋はいわゆる日本の経営理念をそのまま中国に持ち込んだだけで、現地化しようとしかった。そうした意識もなかった。商圏の選択から、ターゲット顧客層に対する理解、ブランドのアピールまでいずれも現地意識が不足だった」と分析し、「中国人消費者は価格に大変敏感だが、高島屋の商品は価格競争力が乏しく、日本本国よりも高い」と語った。そのうえ、高島屋の社内管理についても、日中異文化の理念が対立し、コミュニケーションが不足していたなどの問題を指摘した。

7月11日付、36Kr 記事『上海高島屋閉店カウントダウン46日目からの実録』(https://36kr.com/p/5224720)「(上海高島屋の)経営陣は中国現地化の意識を持ち合わせておらず、中国人消費者が本当に求めているものについて認識が不足していた」。記事は小売業専門評論家・沈軍氏のコメントを引用し、「日系百貨店の場合、日本国内市場で善戦して、多くの独自ブランドで優位性を確立しても、残念ながら、消費の習慣や嗜好が異なる上海では歯が立たない。故にいくら商品構成の調整をしても奏功しない」と敗因を分析した。

中国国内ネット上にも多様な書き込みがあった。

例えば(https://www.pearvideo.com/video_1570304)、「一度だけ店に行ったことあるけど、内装が古臭くて高級感がない」「内装は陳腐感満点、特色をもつべき食品売り場もそれほど魅力がない」「バリューと価格の問題(コストパフォーマンスの問題)、なぜ買われないか、まだ分からないのか?」「国産でも十分品質がいい(日系で買う必要なし)」……など。内装の指摘は、私も驚いた。要するに日本式のエレガントな正統派はウケが悪かったのか。

日本ブランドへの過信はないか?

日本ブランドの海外への売り込みを「発信」と位置付ける。その前提には「日本の優位性」という自惚れはなかったのだろうか。私自身も上海やクアラルンプールに長く在住している。いささかそうした日本発信のものに「上から目線」を感じずにいられない。これは何も高島屋に限られた話ではない。「発信」に専念する余り、「受信」側の都合や状態を軽視ないし無視してきた。そうした「自惚れ型」のビジネスモデルに没頭し、多大な損失を被りながらも、その害悪に目覚めることなく今日に至った。

上海高島屋の撤退。中国現地の報道に指摘されたような敗因は日本国内でほとんど正式に報じられていない。このような敗因分析は、高島屋をはじめ日本企業一般にどう受け止められているのか。これから二度とこのような失敗を繰り返さないためにも、議論が必要ではないかと思う。

事業の成敗は組織内の「議論」、真の「議論」に依存する。残念ながら、その辺は日本企業の組織的弱点である(参照『日本企業が「議論」を封殺する本当の理由』)。いけいけどんどん海外進出に勢いがつき、前のめり時には結果ありきの戦略決定過程に、冷静かつ客観的に負のリスク要素を提示し、ブレーキ役となれる組織構成員は果たして存在し得るのか。

思考停止的な同調圧力が日本的組織に致命の破壊力をもたらす。これは何もいま始まったことではない。太平洋戦争に負けた日本軍の組織的本質をえぐり出す名著『失敗の本質』(戸部良一等著・中公文庫)に書かれたことは、現代日本にも脈々と伝承され、生々しく再現されている。状況は一向に改善される気配を見せない。

高島屋は中国撤退し、今度ベトナムのホーチミン店に加え、ハノイでも新規事業に乗り出す。これを報じる記事は、「海外事業では成長の見込める東南アジアに経営資源を集中する」としている。これを10年前の上海出店記事「今後の成長余地の大きい中国上海市を新規出店地と定めた」に重ねてみると、驚くほど一致している。何も変わっていない。

「成長の見込める市場」をビジネスの前提とするだけでは、悲劇は終わらない。ベトナムやアジアで中国という前車の轍を踏まない保証はどこにもない。高島屋だけの話ではない。

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