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ホルムズ海峡有志連合構想とTPPに見る国際秩序の変容ーパックス・アミシティア(有志連合による秩序)の時代へー

国際秩序は誰が形成維持するのか?

国際政治学に覇権安定論という考えがある。国際秩序の形成維持を担う意思と能力を有する超大国(=覇権国)が、その責を担ってきたという考えである。

国際平和や自由貿易といった国際秩序は、その形成や維持には大きな政治的・経済的なコストがかかる。世界の多くの国は、そうした国際秩序から恩恵を受けるが、そのコストを進んで担う能力と意思を持たないため、フリーライダーであろうとする。

唯一、覇権国だけが、国際平和や自由貿易といった国際秩序の形成維持と自国の安定繁栄とを重ねて、自らコストを負担するというのである。

覇権国が相対的に力を落としたら、国際秩序はどうなるのか?

国際政治学の論壇で長らく議論されてきた命題だが、最終的な答えはでていない。国際秩序が覇権国によって維持されているとすれば、その力が相対的に落ちてくれば、国際秩序の形成維持は困難になろう。

しかし現実には、戦後の国際秩序の形成維持を担ってきたアメリカの経済力・軍事力の優位が1970年代以降長期にわたって相対的に低下してきたにもかかわらず、世界の安全保障や国際経済の秩序構造は基本的に変わらずにきたことから、一度形成された国際秩序にはそれ自体に持続性があると考える向きがある。

この点、筆者は、分野ごとの国際秩序維持コストの大小によって、覇権国衰退の影響も異なるだろうと考えている。

【自由貿易秩序の場合】

たとえば自由貿易にかかる国際秩序は、その維持にさほど大きなコストはかからないため、秩序形成に貢献した覇権国が衰退した後も、維持されやすいと考えらえる。

ただし、各国それぞれの立場の違いを抑え込んで新たなルールに合意を取り付けるには、反対者を黙らせるだけの政治・経済的な力が必要となるため、覇権国の力が落ちたら、さらなる新たなルール作りは進まない可能性が高い。

また、既存の自由貿易秩序が、覇権国の利益とあわなくなれば、覇権国自身がそれを否定することになるだろう。

戦後の自由貿易体制の構築をアメリカが主導したが、その相対的な力が落ちた後、WTOでの多国間交渉はいっこうに進展していない。

それでも過去に合意された自由貿易のルールは維持されてきたが、新興大国が自由貿易の下で台頭してきた現在、ついに覇権国たるアメリカの利益にそぐわない面が出てきた。今やアメリカは、かつて自分が形成した自由貿易の国際秩序を自ら否定しようとしている。

【安全保障秩序の場合】

一方、安全保障にかかる国際秩序は、その前提として軍事力の展開を必要とするため、その維持には経済コストがかかる。

加えて、他国のために自国の若者の血が流れかねないことを自国民に納得させねばならないという政治コストも小さくない。覇権国の力が落ちれば、そのコストの負担を重荷に感じることになるだろう。

アメリカには、もはや「世界の警察」のコストを自国だけで払う余裕はない。トランプ大統領がイランとの戦争を思いとどめ、日米安保条約に疑問を呈し、NATOに不満をぶちまけるのも当然である。

覇権国以外に誰が国際秩序のコストを払うのか?

覇権国が国際秩序の形成維持コストを負担をしなくなった場合、もはや他の国々はフリーライダーでいられない。

【有志連合による国際秩序】

国際秩序の形成維持を担う覇権は、必ずしも単一の国によって具備される必要はない。ある一国だけでは国際秩序の形成維持の任に十分な費用対効果を見出せない場合、複数の国がその意思と能力の範囲で集団的にコストを分担すればよい。有志国による集団覇権である。

【TPP:自由貿易の有志連合】

たとえば自由貿易について言えば、WTOでの多国間交渉に進展が見込めなくなった過去20年の間に、限定的なメンバーの間で何百もの二国間協定や地域協定が締結されてきた。

こうした二国間や地域の自由貿易協定は、限定された範囲でのみ国際秩序の形成維持を担いうる有志国による限定的覇権あるいは集団覇権の行使の結果と見ることができよう。

そうした地域協定の最たるものがTPPである。世界的な覇権国ではない日本も、アジア太平洋地域であれば大きな影響力を持つ。オーストラリアやニュージーランドなどの有志国とともに集団覇権を行使して、アメリカが交渉離脱した後のTPP11の締結を主導した。

【ホルムズ海峡:安全保障の有志連合】

安全保障分野で言えば、アメリカのホルムズ海峡有志連合構想は、かつてアメリカが一国で担ってきた同海域の秩序維持のコストを、有志国で集団的に負担することを提案しているものである。

パックス・アメリカーナからパックス・アミシティアへ

複数の有志国が集団的に覇権を行使することで秩序が形成されるならば、それは19世紀にイギリスが覇権国として築いたパックス・ブリタニカや20世紀にアメリカが築いたパックス・アメリカーナの秩序に続く、いわば21世紀の「パックス・アミシティア」(有志連合による秩序)と呼びうるものである。

今後は、アメリカであろうと中国であろうと、一国だけでは国際政治経済秩序を主導しうる超大国たりえない可能性も高い。

その場合、国際政治経済秩序は、貿易、金融、安全保障といった分野ごとに、秩序の形成と維持をする意思と能力を持った有志国が集まり、集団的に国際秩序の形成維持を担うようになるだろう。

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