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iPhone工場が中国からインドに移る背景

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iPhoneの組み立てなどを請け負っている台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、製造工場を中国からインドなどに移し始めている。米中貿易戦争を背景に、台湾企業の「中国離れ」が進んでいるのだ。アジアの製造業で起きている壮大なシャッフルについて、ジャーナリストの姫田小夏氏がリポートする――。


中国・深圳にある鴻海(ホンハイ)精密工業の中国製造子会社フォックスコンの工場。=2010年5月26日(写真=ロイター/アフロ)

中国全土に拠点を広げてきたホンハイが、台湾に戻ってきた

「台湾には100年に1回のチャンスが到来している」――台湾・高雄市の中小企業経営者・陳忠義さん(仮名)は興奮気味に話す。米中貿易戦争が長期化するという見通しから、大陸に進出した台湾企業が続々と戻ってきているのだ。

そのひとつが、シャープの親会社である鴻海(ホンハイ)科技集団だ。1988年に深圳で中国初のパソコン部品生産工場を稼働させて以来、中国全土に拠点を広げてきた。だが今春、深圳と天津で行っている通信機器やサーバー関連の生産設備の一部を台湾の高雄市に移転させると発表した。

高雄市の「和発産業園区」の公式サイトは、ホンハイの新工場は高度に自動化された1万2000坪のスマート工場であり、5月24日の段階ですでに手付金も指定口座に振り込まれていると伝えた。

こうした動きを台湾の人たちはどう受け止めているのか。筆者は陳さんに電話で話を聞いた。「100年に1回のチャンス」という話に続けて、陳さんは「大陸から台湾に企業が戻ってくれば、私の生まれ故郷の高雄市もこれから大いに発展しますよ」と声を弾ませていた。

「産業も人も大陸にのみ込まれるのではないか」という不安

2000年以降、多くの台湾企業が中国に拠点を移し、台湾から輸入した電子部品をモバイルやパソコンなどの最終製品にして欧米市場に出荷するというサプライチェーンを構築してきた。その反面、高雄市では、稼働を停止した工場が続出、若い台湾人も雇用を求めて大陸を目指すという「空洞化」が進んだ。

高雄市のみならず、空洞化は台湾全体における長年の懸案だった。いま台湾市民を大きく支配しつつあるのは、「このまま行けば産業も人も大陸にのみ込まれるのではないか」という不安感だからだ。前出の陳さんのように「今後製造業の台湾回帰が進めば、経済は活気を取り戻し、就職難も解消し、住宅やオフィスの不動産需要も生まれ、台湾経済全体に好循環が生まれる」という声はよく聞かれる。

台湾を「ハイテク・アイランド」として成長させる

台湾の蔡英文政権は2019年1月から、「歓迎台商回台投資行動方案(台湾企業の台湾回帰投資行動を歓迎する計画)」を実施している。その狙いは、米中貿易戦争をチャンスととらえて、中国本土に進出していた台湾の製造業を呼び戻すことだ。

計画では、「米中間の衝突は国際的なサプライチェーンを再編させ、従来の貿易秩序に衝撃を与えるもの」としたうえで、「投資回帰を促すことで、台湾を世界のサプライチェーンの中心にする」と謳っている。

台湾政府は大陸から回帰する企業に対し、最初の2年間の工業用地の賃料を無料とするほか、電力や工業用水の供給を安定化させるため設備増強を打ち出した。技術を持つ高度人材や生産ラインに立つ労働者などのスムーズな確保を進めるため、複数にわかれていた窓口もひとつに統一。資金調達については、台湾政府がイノベーション支援のために設立した「行政院国家発展基金」を母体として低利の融資を行う。

この計画のもうひとつのポイントは、立地を1カ所に集中させるのではなく、台湾全土に分散させる青図を描いていることだ。陳腐化した設備を、ただ移転させるのではなく、大陸で予定されていた最新設備の投資を台湾に振り向けさせることで、台湾を“ハイテク・アイランド”として成長させることを狙う。

台湾の最終的な客先は、中国ではなく欧米

台湾経済部によると、6月末時点で台湾企業81社が大陸からの投資シフトを表明している。たとえば電子機器のEMS大手の仁宝電脳工業(コンパル)は米国向けルーターの生産の一部を戻した。光宝科技(ライトン)はサーバー向け電源装置の生産を拡大させる。和碩聯合科技(ペガトロン)、広達電脳(クアンタ)、台達電子工業(デルタ電子)、台郡科技(フレキシウム)など、台湾のIT機器メーカーも移転を進めている。

2019年末までの投資金額の目標は5000億台湾ドルだが、上半期だけで4000億台湾ドルに達しているという。台湾企業の投資シフトがこれだけ早いのはなぜだろうか。ひとつの理由は「政府の打つ手の早さ」だろう。さらに、もうひとつの理由として、台湾製造業の最終的な客先は中国ではなく欧米だったという点が挙げられる。

台湾経済部の発表によると、海外に進出した台湾企業の販売割合は、「第三国向け販売」が74.6%で、「現地向け販売」は20.7%だ。たとえばホンハイは、中国全土に30を超える生産拠点を持っているが、主要顧客は米アップルであり、その生産活動は主に米国向けだった。

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