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元気なときには見えにくい「社会」 社会課題に必要な支援とはなにか

元気なときには見えにくい「社会」

「社会課題」と聞いて、みなさんはどんな印象を受けるでしょうか。

私はここ数年、少年犯罪の再犯防止や子どもの貧困対策、虐待を防ぐ取組や、子育て支援など。さまざまな社会課題解決に取り組む人たちのお話を伺ってきました。また私自身も、Webメディアのウーマンエキサイトさんとともに、WEラブ赤ちゃんプロジェクト「泣いてもいいよ」ステッカーを作り、普及の活動を行っています。これは、一見赤ちゃんに不寛容な人が多いかのようにも見える社会で、優しい人たちの埋もれがちな思いを可視化しようという試みです。ある意味ではこれも、「社会課題」解決を目的としている、と言えるかもしれません。

ところが実を言うと、「社会課題」という言葉を聞いても私自身あまりピンときません。どうにも自分に関係のある言葉だと思えないのです。せめて「社会」だけだと、もう少し身近に感じられます。それは、私が離婚をしてシングルマザーになって、家族や私個人の力の弱さを、ヒリヒリと痛感した経験があるせいかもしれません。家族の体制が脆弱になったことで、誰からともなく後ろ指を刺されているかのような、疑心暗鬼の状態に陥ってしまったのです。冷たい敵か、意地悪な監視官か。私が初めて意識した社会というのはただただ、恐ろしい存在に感じられました。(けれどもその後、折に触れて社会の暖かさに触れる中で、漠然とした恐れは随分減りました)

Photo by John Cameron on Unsplash

逆に考えると、危機的な状況に陥ったことのない人達にとって、もしかしたら「社会」という存在は、どこかぼんやりとした、実態のないものと受け止められているかもしれない、そんな風に感じることもあります。そして、さまざまな社会課題解決に取り組むNPO職員の方、福祉に携わる方々とっては、ほかでもないこの点が、活動の推進を阻む、ひとつの大きな悩みの種となっているようです。

社会が見えない限り、社会課題は他人事

さまざまな社会課題の解決には、当然ながらお金がかかります。人手や場所も必要とします。それらを十分に得るためには、困難を抱える人達に向けられがちな誤解を丁寧に解いたり、理解を深めてもらったりすることが必要です。保育園や児童相談所など、子ども関連施設の新設に伴ってしばしば話題となる地域住民の方の反発。静かな生活を脅かされるのではないかという懸念も分からないではないけれども、そのような施設が増えることは、困難を抱える子どもたちだけのものではないのです。

日本財団が2015年に公開したレポートでは、子どもの貧困対策を十分に行わないことによって、社会に約2.9兆円の損失があるという試算がなされています。子どもの学力は家庭の経済力と相関があることがわかっているため、貧困対策を行うことで、子どもの進学率や就職率も上がり、自ずと社会の税収が上がる。一方、それを怠ると、税収が上がらないばかりか、生活保護などの社会保障費がかさんでしまうといいます。そして税収は、公共サービスやインフラなど、私達の生活の質を直接左右するものにも使われます。つまり、子どもの貧困対策は長期的にみれば、子どもやその親以外の人たちの暮らしにも影響を及ぼしているのです。

こんな風に、多くの社会課題は、実のところ困っている当事者だけの問題ではありません。ただ、自分が社会の中で生きているという自覚を持っていなければ、当然、社会課題が自分に直接関係のあることという意識を持つことも難しくなってしまいます。

悲しい事件が起きたとき、犯人を恨むだけで終わらせない

とはいえ、普段は見えにくい社会の存在を、多くの人が一斉に実感する機会が訪れることもあります。そのうちのひとつは、たとえば惨い虐待の末に幼い子どもが命を落とすというような、痛ましい事件が起きたときです。私達はテレビやインターネットなどのメディアを通じて、本来守られるべき命が守られなかったという不条理に直面し、強い悲しみや怒りといった感情を募らせます。そして、「どうして」と気持ちのやり場を探す中で、日ごろ見えない社会の存在を、普段より強く意識することになります。

もちろん、それが望ましいことと言っているわけではありません。以前、虐待をどう防ぐか、という勉強会に参加する中で、一人の専門家の方が「取り返しがつかない犠牲が出て、そこでやっと世の中が動くんですよね」と悔しさを滲ませながらお話されたことは、今でもとても印象に残っています。

恐れや怒り、悲しみがなくとも、普段から社会を自分のすぐ側に感じられるに越したことはないのだろうと思います。しかし、本当なら私達大人が守らなければならない子どもを、守ることができなかった。やりきれない思いを抱えたからこそ、再発を防ぐためにも、そのタイミングでより広く、より深く、実状を理解することに繋がると良いのでしょう。……が、ここにもひとつ難しさがあると感じように私は感じます。

そもそも私達は、不条理を長く抱え続けることがあまり得意ではありません。だから、惨い事件を前にふつふつと沸き上がる「どうして」という心からの疑問を、本当は一刻も早く、何らかの形で消化させ、重荷を降ろしたくなってしまいます。身勝手な親、職務を怠った非道な児童相談所、わかりやすい誰かを悪者にして、心の中にあるもやもやを正義としてぶつけて、自分の中の感情を処理したくなってしまいます。

けれども実際のところ、多くの事件は、そんな風にシンプルに誰か一人の過失で起きているわけではなく、女性の就労問題を一因とするひとり親家庭の貧困問題や、児童相談所の深刻な人員不足、地域との繋がりの希薄化など、さまざまな社会課題が相関することで起きてしまいます。だからこそ「どうして」に対する、ある程度正確な答えを出すには、それなりに時間をかけて、見えている社会の解像度を上げていかなくてはならないのだろうと思います。

社会課題への取り組みは、自分の問題を解決すること

先日、ある子育て支援NPOの代表の方に、“自分たちのやっていることが、とても特別なことのように思われてしまう”という悩みを打ち明けられました。

私の見る限り、社会課題解決に向けて活動する人たちは、「社会課題を解決してやるぞ!」という壮大な使命感を持っている人ばかりではありません。かといって、聖人のように自己犠牲の精神、奉仕の精神に満ち溢れているかというと、そうでもありません。ただ、彼らの目にはさまざまな社会課題が、きちんと自分の生活の延長線上に見えているのだと思うのです。だから、そこで解決されるべき困りごとというのも、半分は誰かのものだけど、もう半分は、ほかでもない自分のもの。そんな感覚で取り組んでいるように思えるのです。

写真AC

より多くの人たちが、彼らと同じような解像度で社会を見据え、彼らと同じように、社会課題を自分ごとの延長として捉えられるようになれば、社会の有り様は間違いなく大きく変わっていくのだろうと思います。そしてそのためには、個人と社会、あるいは家族と社会との距離が今よりもっと近づくこと。互いにもっと歩み寄ることが必要なのだろうと思います。

以前、東京の繁華街にある接待飲食店で働いた経験を持つ知人から、こんな話を聞きました。

「当時一緒に働いていた女性たちは、シングルマザーだったり、メンタルヘルスの問題を抱えていたり、今思えば何かしら社会的な支援を必要としていたけど、役所になんか怖くて行かないし、NPOなんて存在することも知りませんでした」

そんな彼女に、どうすれば彼女たちが必要な支援と接続できると思いますか? と尋ねたところ、驚くような答えが返ってきました。

「有名アーティストが上腕にNPOの電話番号をタトゥーで入れる、とか」

思わず唸りました。実現するのは難しいとは思いますが、こんなアプローチが機能すると考えられる世界はたしかにあるのです。そして、私自身が普段からいかにそういった世界への想像力を働かせてこなかったか。深く反省しました。

特に、行政の用意している福祉サービスについては、せっかく用意されていても、その存在が全く知られていない、使われていない、というものが各地に数多くあるように思います。せっかく意を決して社会へと救いの手を伸ばした人が、スムーズに必要な支援を受けられるように。ぜひ、本当に必要な人の目の届くところに、サービスへの入り口を設置しておいてほしいと思います。

将来、もしそんな風に、個人とNPO、あるいは個人と行政のサービス等がより短距離で繋がれるようになった際には、きっと、今のように手痛いドロップアウトを経験せずとも、多くの人が、社会を身近なものに感じられるのではないかと思います。社会を必要以上に冷たく、意地悪なものと感じたり、怖がったりする人がぐんと減って、困ったときに、身近な人に助けを求めたり、助けを求められたり。そんな風に他者との関係ももう少し気楽なものになると思います。そして私は、それでいいと思うんです。今のように、社会のなかで北風を強く吹きあって、人々がどんどん頑なになるのでなく、太陽の光でゆっくりと温めて、自ら進んで上着を脱がせてしまう。そんな、おおらかな社会が実現すれば、どんなに素晴らしいだろうと思うのです。

[ PR企画 / 日本財団 ]

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