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「教育虐待」を知っていますか?言葉だけでも致命傷に



「教育虐待」という言葉を知っているでしょうか。「あなたのため」という大義名分のもと、親が子に行ういきずぎた「しつけ」や「教育」のこと。2012年8月23日の毎日新聞に掲載された記事によれば、子どもの受容限度を超えて勉強させるのは教育虐待に当たるとのこと。

いまこの「教育虐待」という言葉がにわかに脚光を浴びています。2016年8月に、名古屋で、教育熱心な父親が、小学6年生で中学受験生の息子を包丁で刺し殺してしまうという事件があり、その裁判が現在名古屋地裁で開かれているからです。7月19日に判決が言い渡される予定です。たまたま7月12日に私も『ルポ教育虐待』という本を出したばかりで、連日のように「教育虐待」に関わる取材を受けています。

名古屋での事件のケースでは、父親が日常的に刃物で子どもを脅しながら勉強させており、最終的にその包丁が子どもの胸に刺さるという悲劇の結末を迎えました。私もこれまで2度ほど裁判の傍聴に行きましたが、特に母親の証言など、聞くに堪えないものがあります。ただし、父親は殺意を否定しており、包丁がわが子に刺さった瞬間のことは記憶にないと証言しています。

ここで誤解してほしくないのは、「刃物で刺したから教育虐待」ではないということです。刃物で脅してまで勉強をさせていることが教育虐待なのです。刃物を使用しなくても、叩く、蹴る、髪の毛を抜くなどの暴行を行っていたこともわかっていますが、子どもの受容限度を超えてまで勉強させていること自体がすでに教育虐待であり、暴行を加えたり暴言を浴びせたり刃物で脅したりすることは、副次的に発生している行為です。暴行しなければ教育虐待にならないという話ではありません。

逆に、刃物など使わなくても、子どもを傷つけることは簡単にできてしまいます。私が取材したある被害者は、母親の言葉が文字通りナイフのように自分の胸に刺さったと表現していました。心に致命傷を負うと、最悪の場合、自ら命を絶ってしまうこともあります。逆に、自分を守るために親に刃物を向けるケースもあります。
名古屋の事件では物理的に包丁が子どもを傷つけ、殺めてしまいましたが、物理的な道具を使わなくても、同様に傷つけられている子どもはおそらく全国にたくさんいます。その意味では、名古屋の事件は決して特異なケースではないのです。

教育虐待は、根本的には人権問題です。「どこまでがよくて、どこからが教育虐待か」という質問に明確な線引きができないのは、いじめやセクハラやパワハラ、各種差別行為に明確な線引きがないことと構造的にまったく同じです。

「教育虐待」という言葉がいまだけセンセーショナルに消費されることがあってはいけないと思います。かといって、安易な解決策を提示するのも不誠実です。これは日本の教育システムあるいは社会の価値観全体に関わる複雑な問題の歪みの象徴で、簡単に解決できるような問題ではないからです。
親が言動を変えるには親自身の自己肯定感も高めなければいけないし、そもそも学歴主義や正解主義、子どもの出来は親次第という風潮も変えていかなければいけません。

「こうすれば東大に入れる!」とか「頭のいい子の親がやっていたこと」とか、メディアが発信するそういうメッセージも、間接的に教育虐待の温床になっていることを、メディア側も、受け取る側も強く自覚してほしいと思います。

※2019年7月18日のFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。

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