経営権を巡って混乱が続いている住宅関連総合企業LIXILグループの株主総会が6月25日に開かれ、形の上では株主側提案が賛成多数で会社側提案に勝利するという注目すべき結果になっています。そこで本稿では、本件に関する私なりに考える、あるべき理解と、同社の今後に向けた課題点について触れておきたいと思います。
株主総会での”全面対決”に至った経緯

まずは混乱の経緯から。事の発端は、昨年10月。LIXIL会長でグループ中核企業であるトステム(旧トーヨーサッシ)創業家である潮田洋一郎氏が、同社指名委員会を動かして瀬戸欣哉社長を更迭し、自身が会長に就任する人事を決めたことにあります。
その後、株主である複数の海外機関投資家が、潮田氏自身が委員を務める指名委員会を意のままに動かしたこの人事はおかしいと、潮田氏の解任を求め臨時株主総会を開くことを要請します。
これを受けて、会社側は臨時総会を開かれては恐らく分が悪い、さらには悪化した企業イメージが一層悪くなると考えたのでしょう。潮田氏と瀬戸氏の後任社長である山梨広一氏が、急遽取締役を含めた全ての役職からの退任を発表します。
すると今度は、機関投資家の後ろ盾を得た瀬戸氏らが自身のCEO返り咲きを含めた株主提案として、取締役候補者案(8名)を会社側に提示し、会社側の候補者案(10名。うち2名は株主提案と重複し、独自提案は8名)と定時株主総会で全面対決するという流れに至ったわけなのです。
結果は、株主提案の取締役候補者8名はすべて承認。一方の会社側独自候補者は2名が否決され、結果6名のみが承認される形となり、形の上では株主提案が勝利しました。
このこと自体は専門家筋でも指摘されているとおり、至って保守的な日本の株主総会で、株主提案が会社提案に勝つという非常に稀なケースであり、会社都合優先のある意味で著しく公正性を欠く日本の株主総会のあり方、および会社と株主の関係に大きな一石を投じるものであった、と言っていいでしょう。しかしここに至る過程と同社の今後には、まだまだ多くの課題を残したとも言えます。
”社長返り咲き”を狙いガバナンスからリベンジへ論点すり替え
株主提案が勝利した最も大きな要因が、前社長であり昨年10月に解任された瀬戸氏が取締役候補者案のトップに名を連ねた、ということにあるのは疑いのないところです。すなわち、潮田氏の排除までは理にかなっていたものの、瀬戸氏が自身の復権を狙って再登場したことで、会社側と株主側の対決の趣旨が曲げられてしまったと私はみています。
すなわち、本来ガバナンス強化と経営のゴタゴタ終息を主眼として会社と株主どちらの提案がより効力を持って、同社の(成長軌道を描く)企業価値を高めることができるか、という観点で争われるべきところが、瀬戸氏のリベンジマッチという色合いが濃くなり、判官びいきを否めない日本人的体質が国内株主の多くを瀬戸支持に誘導してしまったのではないか、と思うのです。

そもそも、瀬戸氏の再登場には多分に首をかしげたくなるところがもあります。氏は同社指名委員会の決定を受けて取締役会で退任が決議され、10月31日に潮田氏と後任社長の山梨氏と共に会見に臨みます。その席上、瀬戸氏は「快く席を譲るのはプロ(経営者)の心得だ」(日経新聞)とまで話しており、すでにその段階で納得の退任だったことは明らかです。
瀬戸氏は、取締役会終了直後に「これはおかしい」と思ったと雑誌のインタビューで答えています。すなわち「おかしい」と思いながらも退任には納得したからこそ、その後の会見に同席し先の発言をしたわけです。プロ経営者たる瀬戸氏の行動ですから、この段階で組織決定に納得できていないのなら、会見への同席など絶対にありえません。
その後、海外の機関投資家がLIXILのガバナンスに問題ありと動き出し、潮田氏の退任を求め(求めたものはあくまで潮田氏の退任であり、取締役会決定の無効や瀬戸氏のトップ復帰ではありません)臨時総会の開催を要求したことで、潮田氏と山梨氏は自主的な退任を発表。
するとこの機に乗じて瀬戸氏が、一度は納得会見までしたはずの退任から急転、社長返り咲きへ俄然色気を見せ始めたのです。これが、株主総会の会社対株主提案の論点をガバナンスからリベンジへすり替えてしまった、最大のポイントになったと思います。
例え自身が社長の座を追われたとしてもプロ経営者ならば、同社のユルユルなガバナンスをこの機にしっかり強化し、経営のゴタゴタ終息を優先するべきと考え、ここは自らが出馬することの弊害を第一に行動すべきなのです。
私は瀬戸氏が株主案の役員候補に名を連ねた段階で、自身のリベンジを優先することがむしろ会社にとってマイナスに働く可能性があることを、分かってないのだなと思いました。
LIXIL再スタートには潮田・瀬戸両氏の退場が有効では?
そもそも、本来の論点であるガバナンス強化の観点で考えるならば、各業界の実力者9人が社外取締役を務める会社側提案の方が、株主提案よりも数段優れていると思いましたし、世間で言われる潮田氏の影響力懸念の問題も、経験豊富な社外取締役で埋め尽くされた状況であるなら、これは杞憂に過ぎない終わると考えるのが筋でしょう。
そして何より、前期大幅赤字の経営責任は潮田氏、瀬戸氏が共に負うべきものであり、行き過ぎた海外戦略の潮田路線と、国内強化への方向転換で体質転換を図る瀬戸路線のそのどちらもが、「帯に短し襷に長し」であった結果でもあるわけです。
唯我独尊の潮田氏は経営者として論外ですが、瀬戸氏に関してはも2年間の経営実績に鑑み海外の議決権助言会社2社が再任に反対したことも考えに入れれば、やはりその復帰には疑問符が付きます。
かつ、住友商事からモノタロウを立ち上げるなど物売り屋としては一流かもしれませんが、日本には珍しいコングロマリット的企業として海外企業も複数傘下に持つLIXILをリードしていくにふさわしい人物であるのか。
私は、経営者の意見の相違から生まれたこのイザコザに終止符を打ち、崩れたイメージを刷新して新たなスタートを切るためにも、この機会に潮田氏、瀬戸氏が揃って退場するのがよかったのではないか筋であったと思っています。
瀬戸氏の復帰が決まった以上、ここからは氏の経営手腕に委ねられることになります。コングロマリット経営に求められるものは、多分野における生きたノウハウと経験であり、今回の会社提案からものづくり経験のあるリコー元社長の三浦善司氏、元JVCケンウッド会長の河原春郎氏他、さらに国際的視点から元米国国務次官補カート・キャンベル氏が取締役に名を連ね、コニカミノルタ取締役会議長の松崎正年氏が取締役会議長を務める新布陣には、大いに期待が持てるとは思っております。
瀬戸氏が、この輝かしい経歴を持つ呉越同舟の新取締役方の資質を十分に引き出し、コングロマリット企業群の企業価値を高めることができるのか。プロ経営者としての本当の力量が問われるのは、まさにこれからです。
氏のリベンジ復帰を後押しした判官びいきに映る株主の選択が、果たして正しいものであったのか。新生LIXILの今後は、日本における会社と株主の関係をも左右しかねないという意味からも、大いに注目すべきものであると思います。