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特攻機にも安全を求めたスバルの設計思想

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SUBARU(スバル)の前身である中島飛行機は、第2次世界大戦期に最大26万人の従業員を擁する東洋最大の航空機メーカーだった。同社の信条は「乗員の安全を守る」。だが戦中は特攻機の開発も命じられた。同社は軍令にどう応じたのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉氏がその歴史をひもとく――。(第2回)

太田製作所での制作風景(提供=SUBARU)

日本は戦艦よりも航空機が向いている

中島飛行機の創業者は海軍で軍用機の設計をしていた中島知久平。1884年、中島知久平は群馬県新田郡尾島村押切の農家に5人兄弟の長男として生まれた。1900年、知久平は上京し、横須賀にあった海軍兵学校の機関科に入学。

中島知久平氏(提供=SUBARU)

1910年には、アメリカを経由してフランスに視察に出かけた。そして渡仏する前に、知久平はアメリカで操縦技術を学び、ライセンスを取得。フランスから帰国した後の1911年、知久平は日本で初めて飛行船の試験飛行に成功。その後も海軍のなかで着実に航空機の専門家としてのコースを進んでいった。

飛行機専門家の軍人として第1次大戦の戦況を見守っていた知久平は巨大戦艦よりも、軍用機を開発した方が資源のない日本には向いていると考えた。しかし、大艦巨砲主義に傾いていた海軍本部に若手士官の考えを受け入れる度量はなかった。そこで、知久平は決心する。

「何も海軍にいなくともよい」

在籍したまま航空兵力重視の主張を続けていこうとは思わずに、退官し、民間人となって、自力で飛行機を製造することにしたのである。

退官に際して、先輩、友人に次のような文面の「退職の辞」を送付している。

「欧米の航空機工業はもっぱら民営にゆだねられている。(略)民営航空機工業の確立は国民の義務であり、この発展のために最善の努力を払う」

蚕糸小屋に飛行機ベンチャーを立ち上げる

そうして1917年5月、知久平は生家のあった群馬県新田郡尾島町の蚕糸小屋に、飛行機研究所を設立した。日本初の民間による航空機製造会社である。従業員は6人。横須賀にあった海軍工廠から4人、小石川にあった陸軍の東京砲兵工廠から1人、そして二番目の弟、門吉が参加した。

いずれも技術者で、本人も含むエンジニアが7人集まったベンチャー企業といえよう。出資者は神戸の肥料問屋石川茂兵衛。発足してからすぐに陸軍から仕事が来た。航空機の専門家だった陸軍少将、井上幾太郎の好意で、知久平たちは陸軍機の生産に従事することになった。

翌1918年に、飛行機研究所は名称を中島飛行機製作所に改称。破産した石川に代わり、日本毛織の社長だった川西清兵衛から資本を得ることができた。大口のスポンサーが交代したという変化はあったが、陸軍から継続的な仕事を受注したこともあって、中島飛行機の業容は拡大し、社員も増えていった。

世界に類を見ないエンジンと機体の一貫生産

1923年、関東大震災が起こった年のこと、中島のライバルだった三菱が航空機エンジンの初の国産化に成功した。知久平はそのニュースに刺激され、豊多摩郡井荻上井草にエンジンを生産する東京工場を建設、自社生産に取り掛かった。

それまで中島飛行機は外国からエンジンを輸入し、機体に取り付けていたのだが、「日本人の手で日本の飛行機を作る」ためにはエンジンの国産化をどうしても実現しなくてはならなかった。ただ、日本では中島も三菱もエンジンと機体の両方を製造することをごく当然のこととして着手したが、世界的にはエンジン内製はむしろ少数派だったのである。

例えばヨーロッパではエンジンメーカーと機体のメーカーは分かれていた。前者にはロールス・ロイス、ダイムラー、BMWがあり、後者がメッサーシュミット、スーパーマリンといった会社である。現在でもボーイングやエアバスの機体にロールス・ロイスやプラット・アンド・ホイットニーのエンジンが搭載されているのは何もおかしなことではない。日本の航空機産業のひとつの特徴がエンジンと機体の一貫生産にあった。

草創期における中島飛行機や三菱、川崎における機体製造の状況だが、1920年、もっとも多く製造した中島でさえ年間に17機だった。ひと月に一機もしくは二機という勘定になる。それはひとつひとつの機体を工場に据え付け、図面に合わせて職工が組み立てる手作りの生産方式だったからだ。

当初は木製の骨組みでスタートした飛行機だったが、1914年にできたドイツのユンカースF13以後は全金属製が主流になる。日本では中島飛行機が作った九一式戦闘機(1931年制式採用)がその嚆矢(こうし)である。

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