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人間の活動は原発以上に有害? 事故から33年経ったチェルノブイリで見られる野生動物の繁殖の様子

ソビエト連邦時代にチェルノブイリにある原子力発電所が史上最悪の大爆発を起こしたことは、現在40代以上の人たちなら強烈な印象として残っているのではないだろうか。「生物の砂漠(desert for life)」になると考えられていた「立ち入り禁止区域」の意外な現状について、スペイン・オビエド大学の研究者ゲルマン・オリザオラが 独立系ニュースメディア『The Conversation』に寄稿した。

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© Pixabay

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1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所の4号炉が技術試験中に爆発事故を起こした。この事故で放出された放射能は、広島に落とされた原爆の400倍以上。いまだに史上最悪の原発事故である。 事故直後から始まった除染作業。半径30km圏内は「立ち入り禁止区域」とされ、35万人以上の人々が避難を余儀なくされた。避難した人たちはいまだに戻ることができておらず、このエリアは現在でも「人間の定住」が厳しく制限されている。明確な数字はないものの多くの人命が失われ、生理学的にも莫大な影響をもたらした。ただし、死亡者数は統計によって大きく異なる(*)。

* イギリスの新聞社「The Guardian」によると、“国際原子力機関および世界保健機関は、直接的な被害者は50人、その後の被害者は多くても4千人としている一方、科学者や医師らはこれまでに50万人が死亡、放射線被害によるがんで3万人が命を落とすだろうと予測している”と報道した。

https://www.theguardian.com/environment/2006/mar/25/energy.ukraine

環境への初期影響もすさまじかった。原発近くの松林は深刻な放射能汚染にさらされ、木々は一瞬にして枯れ、葉は赤色に。生き残った動物もほとんどいなかった。以来、”赤い森” の名で知られる。放射能が消え去るのに要する時間を考えると、このエリアには今後何百年も野生生物は生息できず、「生物の砂漠」になると考えられていた。

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© Pixabay

チェルノブイリに返ってきた野生生物


2019年3月、チェルノブイリに生息する野生生物の主要研究グループが英国ポーツマスに集まり、約30人の研究者(英国、アイルランド、フランス、ベルギー、ノルウェー、スペイン、ウクライナ)が最新の研究成果を発表した。研究対象は、大型哺乳類、巣作りをおこなう鳥類、両生類、魚類、マルハナバチ、ミミズ、バクテリア、植物分解物など多岐に渡る。その結果、立ち入り禁止区域内に多くの生物が生息・繁殖していること、生息が確認された生物に関しては、現時点の放射能レベルは大きな影響を与えていないことが明らかとなった。

例えば、英国水文学研究所のニック・ベレスフォード率いる「TREE (TRansfer-Exposure-Effects)プロジェクト」では、立ち入り禁止区域内の複数地点に動体検知カメラを数年間設置。撮影された写真からは、放射能レベルが異なる地点で、さまざまな動物の生息が確認された。ウクライナ側ではヒグマやヨーロッパバイソンを初観測、オオカミやモウコノウマの数も増えていた。

我々オビエド大学の研究でも、放射能レベルが高いエリアを含め、立ち入り禁止区域内に多くの両生類の生息を確認。放射能環境に「順応」しているかのような様子も見られた。例えば、立ち入り禁止区域内に生息するカエルはその他の地域のものより色が濃く、これは放射線に対する「防御反応」と考えられる。

その一方、全生息数に影響を及ぼすほどではないものの、個体レベルでは「負の影響」も見られた。例えば、昆虫は寿命が短く、高放射線区域で寄生虫の影響を受けやすかった。鳥類の中にも、本来備えているはずの色素がなくなってしまう「白化症」にかかったもの、高放射線区域で生理的・遺伝的変異がみられたものがいた。

今回観測された野生生物に関して、現在の放射能レベルが悪影響を及ぼしていないという点については、いくつかの要因があると考えられる。

まず、野生生物は放射能への耐性が想定よりも高いこと。そして、放射能に「順応」することで、立ち入り禁止区域内の放射能環境のなかでも生き延びることができる種がいたということ。さらには、立ち入り禁止区域内に人間がいないことも、多くの種(特に大型哺乳類)にとって好条件となっていたようだ。

つまり中期的にみると、今回観測された野生生物にとっては、原発事故よりも人間の活動によって生まれる圧力のほうが大きなダメージを及ぼすということ。人間が自然環境に与えるインパクトを如実に示している。

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写真:Henrik Isamrker/Flickr Creative Commons

チェルノブイリの今後

2016年には、立ち入り禁止区域のウクライナ側が、政府によって「放射性物質および環境保護の生物圏保存地域」に指定された。

「極限環境における生物の進化」を研究するうえで、チェルノブイリはまたとない 「天然実験室」となってきた。ここで分かってきたことは、世界的に急ピッチで進む環境変化を考える上でも参考にしていけるだろう。

人間の活動を再開させようとする試みも始まっている。観光業も盛り上がっており、2018年には7万人以上の観光客がチェルノブイリを訪れた。太陽光発電所の設置、森林拡大などの動きもある。事故以来、無人となっているウクライナ北部の町プリピャチでは、2018年にインスタレーションアートとテクノ音楽の祭典も開催された(参考)。

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写真:Ian Bancroft/Flickr Creative Commons

この33年で「生物の砂漠」から「生物多様性保全」で注目を集める場に変貌したチェルノブイリ。チェルノブイリが今後も野生生物の楽園であり続けるには、立ち入り禁止区域を「自然保護区」として守っていく必要があるのかもしれない。

By Germán Orizaola(スペイン・オビエド大学所属の研究者)

Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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