記事

弁護士「東京一極集中」と「改革」の矛盾

 弁護士は、顕著に東京一極集中で存在している資格業です。今でも、このことを否定的にとらえる論調に接することがありますが、結論からいえば、この東京一極集中という現象は、司法改革の法曹人口増員政策の前後をとってみても、ほぼ変わっていません。

 日弁連ホームぺージにあるデータによれば、今年7月1日現在の全国の弁護士数4万1109人中、東京の三弁護士会に所属するのは47.6%に当たる1万9585人。「弁護士白書」に基づいて、過去の5年間の同様の数値(各年3月31日現在)を見ると、この間、弁護士の数は全体で毎年1000人―1300人ずつ増えていますが、東京三弁護士会所属弁護士の全体に占める割合は、2014年45.8%、2015年46.3%、2016年46.6%、2017年46.8%、2018年47.1%で、わずかながらですが一貫して増えています。

 ちなみに29年前の「改革」以前、司法試験年間合格者も、弁護士人口も、ともに現在の約3分の1だった1990年をみても、同割合は45.8%。つまり、いくら司法試験合格者を増やし、弁護士の数を増やしたところで、東京一極集中という現実は全く変わっていないことが分かります。

 そもそも「改革」の増員政策の発想には、東京一極集中を含めた弁護士の偏在に関して、ある種の矛盾を引きずってきたといえます。弁護士会内でも、ずっといわれてきた疑問ですが、「改革」の発想は、この弁護士偏在を生んでいる、極めて現実的な弁護士の状況をどこまで踏まえているのか、別の言い方をすれば、これが需要を踏まえた弁護士の合理的な選択結果であるということを、どこまで勘案して、弁護士偏在を解消しようとしているのか、ということです。

 「改革」のバイブルとなった司法制度改革審議会意見書は、「法曹の数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定される」という立場をとり、当時の目標だった司法試験年間合格者3000人についても、あえて「上限ではない」と付け加えています。一方で、同意見書は、「『法の支配』を全国あまねく実現する」というレトリックで、その前提として弁護士人口の地域的偏在の是正、いわゆる「ゼロ・ワン地域」(弁護士がゼロか1人地域)解消の必要性を掲げました。

 問題はこの両者の関係です。市場原理によって数を決定するという立場であれば、その市場原理に基づいて生じる(生じている)偏在はどう考えるのか、ということです。あくまで「改革」の発想を成り立たせることを考えれば、とにかく現在の弁護士が目を向けていない(気付いていない)、大量の有償のニーズが、いわば市場原理によって、地方に弁護士が流出するほど眠っている、もしくはそれを増員弁護士が開拓するという前提に立つ必要があります。

 当時、「改革」推進派のなかには、正面から建て前として、こうした前提に立つ人もいましたが、同派の中にも、それに懐疑的な人が相当いました。そして、そういう人たちが言う、弁護士が地方に流れる描き方は、若干違っていました。それは、いわば「押し出し式」というような考え方。つまり、大都市集中で弁護士は飽和状態になり、コップの水が溢れるように、いやでも(採算性、収益性を犠牲にしてでも)弁護士は地方に流れる(だろう)、というものでした。いうまでもなく、それが成立すると描く前提は、それでも弁護士は生きられる(はず)、現状散々儲けている(はず)なのだから、という、相当に感覚的な先入観のようなものも背景にあったといえます。

 いまでも弁護士偏在解消には増員政策が必要であった、とか、増員政策によって偏在は解消に向かった、と括られることがあります。確かに弁護士会の精力的な取り組みによって、前記「ゼロ・ワン」は解消されました。しかし、それを実現に導いたのは、少なくとも前記推進派のいずれの前提によるものでもなかった。以前にも書いたように、これを支えたのは偏在そのものへの純粋な問題意識からくる、弁護士たちの犠牲的な有志の精神といわなければなりません(「弁護士過疎と増員の本当の関係」)。

 強いて増員を関連付けるのであれば、増員によって、そうしたチャレンジャーが相対的に増えたということがいえるのかもしれませんが、それは市場原理が前提ではない。つまり、もっと言ってしまえば、弁護士の偏在解消に社会的な必要性がある、という前提に立つのであれば、市場原理には委ねられない、別の経済的な手当てが必要、という発想に立たなければならない、ということが、「改革」の結果として既にはっきりした、ということなのです。

 東京など大都市に弁護士が集中するのは、経済的な安定性や有利性が見込める大規模事務所が存在していることや、人口の多さに比例して、特定の階層や分野に絞った活動ができる(というか、そうした活動で生存できる)などの理由がいれています。それこそ市場原理に立てば、こうしたメリットを上回るものを地方にどれだけ求められるか、ということにもなりますし、そもそも東京一極集中そのものが解消しなければならない対象なのか、という話にもなります。

 最近もある弁護士ブログが、弁護士の東京一極集中大都市と、地方での就職減に関する、某法科大学院在学生・修了生のキャリアプランニング支援サイトによる評価の混乱を指摘していますが(「Schulze BLOG」)、これも「改革」路線の引きずる前提の矛盾が反映しているようにみえます。

 法曹を地域で生んで地域で活用する、いわば「地産地消」を描き込んだ地方法科大学院の失敗(「法科大学院制度「執着」が切り捨てているもの」 「『改革』の発想の呪縛」)も含めて、「市場原理」を建て前にした「改革」が、何を無視し、どういう無理な前提で成功を描いたのかが、改めて問われるべきです。

あわせて読みたい

「弁護士」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    医師が勧める「孤独のグルメ」

    PRESIDENT Online

  2. 2

    コロナ不安も福島県が検査を拒否

    鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

  3. 3

    新型肺炎の専門家見解「信じて」

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    店員はマスク禁止 マック違法か

    田中龍作

  5. 5

    河野太郎氏 SNSで器の小ささ露呈

    文春オンライン

  6. 6

    Perfume公演行かず 命守る行動を

    常見陽平

  7. 7

    破産者マップ再びか 識者が警鐘

    町村泰貴

  8. 8

    保育士グラドルの姿は心理的虐待

    田中俊英

  9. 9

    肺炎で安倍政権が守りに 米報道

    飯田香織

  10. 10

    電通で感染者 全社員が在宅勤務

    キャリコネニュース

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。