- 2019年07月16日 20:10
衝撃だった川崎殺傷事件の真相解明と社会の対応は果たしてどこまで進むのか
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引きこもりの20年の歴史を振り返った時に、厚労省の定義に沿った引きこもりの人が犯罪を手掛けたことは多く見積もっても数例しかありません。母集団は、私の推計では200万人ですけれど、内閣府の調査だけでも100万人以上いる。ところが彼らが起こした凶悪犯罪は数件もないとなると、いかに頻度が少ないか。引きこもりを犯罪と結びつけるのは、かなり無理があると言わざるを得ないわけです。
マスメディアにも、ぜひその辺を考えて報道してほしいと思うわけですが、目立った部分だけピックアップすると、どうしても安易に結びつけてしまう傾向があると思います。
そんなふうに、外へ向かっての暴発は少ないのですが、引きこもりの場合、家庭内暴力は多い。全体の10%程度に慢性的な暴力が伴う、50%に一過性の暴力が伴うというデータもあります。家庭内暴力と引きこもりは親和性が高いということは、否定できません。
ですから、今後怖れるべきは、通り魔ではなくて家庭内暴力に困った家族が本人を殺してしまうとか、あるいは親が殺されてしまうとか、無理心中未遂をするとか、そういうケースです。そういうリスクが今、非常に高まっていることを考えるべきだと思います。
その意味で、農水省元次官の長男は引きこもりの典型例に近いと思います。ネットゲームをやっていたようで、ネットには知り合いがいたようですが、リアルな友人関係もなく、社会参加もしていない。ただ、ゲーム三昧というのは、「アクティブな引きこもり」という変な言い方ですが、そういう印象はあります。》
《本当に不幸な事件でしたが、せめてこの機会に、引きこもりに対する社会の関心が高まってほしいですね。引きこもりは若者問題というくくり方をされてきたことも大きな誤りなのです。
今回内閣府の調査が行われた理由の一つは、前回の調査が対象を39歳で切っていたことで相当、批判されたんです。平均年齢30代半ばという集団に対して39歳の上限で統計をとるとは何を考えているんだろう。どう考えても引きこもりは50代くらいにもいることはわかるわけですから。私の推計では、引きこもりは推定200万人はいると思われます。ちゃんと対策をとっていかないと、本当に深刻な状況になっていくと思います。》
背景にある引きこもりへの誤解と偏見
次に池上正樹さんの話だ。
《私が広報担当理事を務める「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」では、宮崎大学の境泉洋准教授が会員を対象に調査したデータを公表しています。その2017年度の調査によると、現在引きこもっている会員の中で家庭内暴力を起こしているのは3・3%。100人に3人強です。
この比率をどう見るかですが、今回の事件についてマスメディアは「事件を起こした=引きこもり=家庭内暴力」という感じで事実の一部を切り取った報道をしている。引きこもり状態の人が皆、暴力事件を起こすという誤解が流布されている印象があります。
引きこもる人に若い人が多いというイメージも誤りです。内閣府が3月に公表したデータで中高年の引きこもり状態の人が多いということが明らかにされていますが、私たちKHJ家族会ではかなり以前からそのことは指摘していたのです。40歳以上の割合が多いという実態は、全国53支部の会員を対象にした調査でも示されてきました。
内閣府の調査でも40歳以上の引きこもりが61万人、30歳以下を含めると百何万人とされています。これは本人調査なのですが、自分は引きこもりではないと思う人は回答していないので、実際には恐らくその2倍はいると思います。
中高年の引きこもりが増えているというのは、現場を知る専門家は以前から提言してきたし、地方自治体の調査でも40代以上の割合が5割とか6割とか言われていた。佐賀県の調査では7割を占めていて、高齢化が進んでいることは、国の認識が遅れていたわけで、地方自治体では以前から調査データを発表していたのです。》
なぜ追いつめられたか解明が必要
《容疑者は51歳だったと言われていますが、本人が現場で自殺してしまったこともあって、なぜあの事件を起こしたのか解明するのは簡単ではないと思います。
引きこもり当事者たちのこれまでの事例を考えると、社会とか学校とかで傷つけられたりして、争い事を回避していく、真面目で優しいタイプが多いんです。そういう人たちは「社会は怖い」と思っているので、社会から退避して、結果的に自分にとって一番安心である自宅が居場所だと感じて引きこもっているわけなのです。
だから、そういう人が理由もなく外へ飛び出していってあのような事件を起こすというのは、考えにくい。ということは、今回のケースは、本人の中で何かが起きていた、危機的な状況が起きていたということでしょう。「自分の命を脅かされるかもしれない」といった差し迫ったものが外部からもたらされると考えたとすれば、外に向かっていくということはあり得るかもしれません。
例えばいじめられた相手とか、守ってくれなかった親とかに対して、自分は死んでもいい、社会から必要とされない存在だと思った時に、自殺を考える。しかも親への復讐、あるいはいじめた相手への復讐ということを考えて、どういうやり方をすると一番彼らが嫌がるかということを考えて実行する。そういうことはあり得るとは思いますが、今回の事件がそうだったのかは、何ともわからないところです。》
「家族会」に外部から問い合わせが殺到
《私たちKHJ家族会は、引きこもりの家族の会としては唯一の全国組織で、川崎の事件の後、6月1日付で見解を出しています。それから、6月23日に全国から支部長が集まる会議がありまして、その会議後に、親の不安な心理に付け込んで、引きこもる子らにウソをついて騙すなどの暴力的な手法で家から外に連れ出す自立支援業者をテーマに、被害者やその親から手口を情報共有するためのメディア懇談会を行いました。



