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衝撃だった川崎殺傷事件の真相解明と社会の対応は果たしてどこまで進むのか

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川崎事件の現場で手をあわせる母子(筆者撮影)

 5月28日に起きた川崎で児童らが無差別殺傷された事件からもう1カ月半が経過した。マスコミの続報もほとんど途絶え、容疑者も現場で自殺したため、今後、真相がどこまで明らかになるのか危惧する声が広がっている。真相が解明されないと、言い知れぬ恐怖だけが存続することになる。しかも、社会も再犯を防ぐ手立てが何ら講じられないことになる。

 連続幼女殺害事件の宮崎勤死刑囚(既に執行)や相模原障害者殺傷事件の植松聖被告など、凶悪事件の当事者と何人もつきあってきて思うのは、この30年ほどの社会のシステムが時代の変化に十分対応できなくなっているのではないかという危惧だ。死刑が究極の刑罰とされるが、川崎事件のように死を覚悟して無差別殺傷を行う人間に、死刑は何の抑止効果も持ち得ていない。

 今回、川崎事件とその後に起きた農水省元次官の事件で、多くの人が認識を新たにしたのは。中高年の引きこもりという存在だった。考えてみれば引きこもりの存在が議論され始めてかなり年月が経つのだから、高齢化が起きていて不思議はない。でも、今回クローズアップされたのは、そういう時代の変化に社会の側が対応できていない現実だった。東京都が引きこもり対策の部署を青少年治安対策本部から移管させたのも、内閣府が引きこもりの調査から対象年齢38歳以下という条件をはずしたのも、比較的最近のことだという。

 私の編集する月刊『創』(つくる)8月号は、表紙を川崎事件の犯行現場写真にし、この事件と引きこもりの問題を特集している。ここではそこで提起されたことを幾つか紹介したいと思う。登場いただいたのは、精神科医として引きこもりの問題に関わってきた斎藤環さんと、KHJ全国ひきこもり家族会連合会の広報担当理事の池上正樹さんだ。池上さんは今回の事件では家族会連合会理事としてマスコミの取材を受けているが、もともとフリーランスのライターで、引きこもりの問題をずっと追い続けてきた。『創』にも何度も執筆してきたライターだ。

 それぞれ二人の話から主な部分を紹介しよう。

引きこもりの高年齢化を象徴した事件

 まずは斎藤環さんの話だ。

《川崎の事件で注目されたのは、これまで引きこもりの人物による通り魔殺人というのは20~30代の若者の犯罪と思われていたのが、今回は51歳という中高年だったことです。これは、引きこもりの高年齢化、いわゆる「8050問題」を象徴するような出来事だったといえるかもしれません。

 3月に内閣府がシニア引きこもりの人口が61万人という発表をしたのですが、その2カ月後にこういう事件が起きたというのは極めて象徴的です。引きこもりに対する社会的関心が高まっており、きちんと議論しないといけないと思います。》

《実は、引きこもりの高齢化については、内閣府の調査データが発表される前から、いろいろな人が指摘していたし、私も学会で発表していました。その意味では、別に目新しい問題ではなかったのです。厚労省は、引きこもりの新しい見方が必要だとか、そういう見解を表明していますが、認識が遅すぎるだろうと思いました。

 高齢化の問題も含めて、今回、引きこもりについていろいろな議論が起きています。川崎の事件の容疑者は、雀荘で働いた経験もあり、社会性がそれなりにある人だったようなので、典型的な引きこもりとは少し違うのかなという気もしています。

 テレビ報道は、彼の部屋にテレビとゲームがあったという間抜けな報道をして失笑を買っていましたが、むしろ驚くべきは、テレビとゲームしかなかったことです。どうしてこの人にはこんなに趣味的な世界が少ないんだろう、何もない生活を送っていたんだろうかと疑問を感じました。一般的に言えば、引きこもっている人には、もう少し物を溜め込んでいたり、ゴミ屋敷に住んでいたりとか、そういうところがあるのですけれども、この人には本当に何もない。

 スマホもパソコンも使っていなかったことも意外だという報道がなされていますが、それは引きこもりに対する誤解です。インターネットを全然使っていない引きこもりの人は少なくないのです。テレビも見ない、本も読まない、ネットもやらない。一日呆然としている人は結構います。》

《彼は両親と早くに死別し、伯父夫婦の家で暮らしていたというのですが、この環境の違いは非常に重要だと思っています。伯父夫婦のもとで彼らの実子と差別を受けて辛い思いをしていた可能性があるとも言われていますが、通常の引きこもりに比べても孤立感は強かったのではと感じざるを得ません。

 一般的に言えば、引きこもっている人のほとんどが犯罪に至らないのは、家族の存在が歯止めになるからです。家族への想いがあることが大きいのです。でも虐待を受けていたり、絆が希薄だったりした場合、家族の縛りがないことが背中を押してしまう。あるいは、そういう気持ちが湧いてきた時に歯止めをかける要因が少ない。事実関係も十分わからないし、伯父夫婦に責任があるなどと言うつもりは全くありませんが、彼がどんなふうに孤立感を深めていたかは気になります。》

家族内暴力と通り魔的犯罪のベクトルは全然違う

《今回の事件では、幼い子どもたちを無差別に殺傷したという点が、社会に大きな衝撃を与えたことは間違いありません。でも、これは分けて考えていただきたいのですが、彼は伯父夫婦には暴力をふるっていなくて、外側で暴発させた。家庭内暴力と通り魔的犯罪のベクトルは全然違うんです。

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