- 2019年07月15日 10:48
日本郵便横山社長の姿勢への重大な疑問~「日本郵政のガバナンス問題」としての保険不適切販売問題
1/2日本郵政傘下のかんぽ生命保険の最大9万3000件に上る不適切販売が明らかになった問題で、かんぽ生命株式会社(以下、「かんぽ生命」)の植平光彦社長と、販売委託先の日本郵便株式会社(以下、「日本郵便」)の横山邦男社長が、7月10日に記者会見を開き、今後の対応や第三者委員会設置などの方針を明らかにした。
持ち株会社日本郵政の100%子会社の日本郵便は、かんぽ生命の保険商品の約9割を、全国津々浦々の郵便局員に販売させている。保険商品自体ではなく「不適切販売」が問題となったのが今回の不祥事であり、それは、主として日本郵便の問題だ。
両社長は記者会見で謝罪したが、その後も、郵便局員への厳しいノルマ設定が原因であることへの内部からの批判を、日本郵便が「SNS厳禁」の通達で封じ込めようとして強い反発を招くなど混乱が続いており、経営陣に対する批判は一層強まっている。
「郵政民営化」は、平成の時代における国家的事業の一つとして成し遂げられ、それによって「日本郵政」を中心とする企業グループが生まれた。しかし、現時点でも国が63%の株式を保有し、ユニバーサルサービスの提供の役割も担う「公共の財産」の一つだ。その日本郵政グループの主要2社が、令和という新たな時代に入って間もなく、国民の信頼を失いかねない重大な不祥事を引き起こした。それは、平成から令和に至る日本の歴史上も重要な事象と言うべきであろう。
「かんぽの宿問題」等に関する日本郵政ガバナンス検証委員会
私は、郵政民営化直後の西川善文日本郵政社長時代に起きた「かんぽの宿」問題などの一連の不祥事を受けて2010年に総務省が設置した「日本郵政ガバナンス検証委員会」(以下、「検証委員会」)の委員長を務めた (【総務省HP】)。その際、不祥事の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の策定を行い、成果として公表したのが「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書」(以下、「専門委員会報告書」)である。
今回、日本郵便の社長として謝罪会見に臨んだ横山氏は、当時、西川社長の側近として日本郵政の専務執行役員を務めており、日本郵便に900億円を超える損害を生じさせた「JPEX問題」などにおいて中心的な役割を果たした人物だ。
西川社長時代の日本郵政をめぐる一連の不祥事は、小泉政権以降の自民党政権下での郵政民営化を象徴する不祥事でもあり、問題を徹底追及してきた野党が政権の座についたのであるから、旧政権時代の問題について責任追及が行われるのは自然な流れとも言えた。郵政民営化反対の中心的立場であった亀井静香金融担当大臣は西川社長らに対する厳罰を強く求めていた。
しかし、当時、原口総務大臣の下で総務省顧問の立場にあった私は、政治的な意図から離れて、責任追及ではなく、西川社長時代の日本郵政で起きた問題を通して、日本郵政のガバナンスそのものを検証し、組織改革に結び付けていくことを提案した。そこで、事実関係の調査と原因分析・再発防止策の提言を行うために設置されたのが検証委員会だった。
検証委員会を「政治的つるし上げ」の場にするのではなく、日本郵政の将来に向けての建設的な議論を場にするため、政治家もメンバーに入っていた検証委員会から切り離された組織として、橘川武郎一橋大学教授(当時)、水嶋利夫元新日本監査法人理事長などの有識者、調査専門家だけをメンバーとする「調査専門委員会」を設置し、その調査結果を専門委員会報告書として公表することにした。そこでは、責任追及の根拠となり得る事実は具体的には記述せず、代表者以外の会社幹部はすべて匿名にした。
西川氏、横山氏らに対しても、総務省を通じて、そして、委員長の私から直接、中立的・客観的な立場で、日本郵政のガバナンスを議論するための調査であり、委員会の設置目的が責任追及ではないことを説明してヒアリングへの協力を求める文書を送ったが、結局、協力は得られなかった
その横山氏が、2016年に日本郵便の社長に就任するなどとは、夢にも思わなかった(横山社長就任に関する問題について報じた記事として、FACTA【日本郵政「横山復帰」で内紛再燃】、日経ビジネス【日本郵便、トップ人事が象徴する「国営郵政」】がある)。そして、今、一層深刻な不祥事が表面化し、日本郵政グループは再び国民の信頼を失いかねない事態に直面している。
今回、記者会見映像で、その「横山邦男日本郵便社長」の姿を初めて見ることとなった。経営トップとして重大な責任があるからこそ、会見冒頭で深々と頭を下げて「謝罪」をしたのだと思うが、横山氏には、「反省」という言葉もなく、今回の事態を招いたことへの「社長としての責任」についての言及もなかった。
9年前、一連の不祥事への対処を、責任追及ではなくガバナンス問題についての建設的な議論中心にすることを強く提案したのは私だった。それが、その後、横山氏の日本郵政グループへの復帰、日本郵便社長就任を許す結果につながり、今回のような事態に至ったとすれば。私にも、その責任の一端はあると言うべきかもしれない。
そのことへの「反省」も踏まえ、今回の不祥事の経過を概観し、改めて日本郵政のガバナンス問題を考えてみたい。
「契約者負担増」問題へのかんぽ生命の対応
6月24日、かんぽ生命は、2018年11月分の契約を調査した結果、同時期の約2万1千件の契約乗り換えのうち、約5800件で契約者の負担が増えていたことが判明したと公表した。
一般的にいって、同種類の保険を一度解約して再契約する「乗換契約」は、保障内容を見直せるメリットがある一方、再契約時に保険料が上昇するケースが多く、顧客にとって不利益となる可能性が高いため、保険業法では、特に「不利益となるべき事実を告げずに」乗換契約を行うことを明示的に禁じており(300条1項4号)、顧客本位の観点からも、顧客へのより丁寧な説明が求められる。
しかし、かんぽ生命によれば、解約によって契約者の年齢が上がることなどから保険料が増えるといった事例があったが、契約時には新旧の契約内容の比較を示すなどの対応をしており、「不適切な募集とは認識していない」と説明していた。日本郵政の長門正貢社長も、24日の定例記者会見では、かんぽ保険の乗り換え販売について「明確な法令違反があったとは思っていないが、反省している」と述べるにとどまっていた。
さらに、6月27日、24日の問題公表後の顧客の苦情や照会を受け、過去5年分の契約を調査したところ、顧客が保険契約の乗り換えにより不利益を受けた事例が約2万4千件にのぼることが判明したと発表した。既往症などの理由で顧客が旧契約から新契約に乗り換えできなかったのは1万5800件で、乗り換え時に既往症などの告知義務に違反し契約解除されたり、新契約前の病気を理由に保険金が支払われなかった事例が約3100件、本来は契約乗り換えの必要がなく、特約の切り替えで済んだ可能性がある契約が約5千件である。
かんぽ生命は、顧客に対して乗り換え前の契約に戻す意向があるかどうかなどを調べ、乗り換え前の契約に復元するなどの対応を取ると謝罪したが、この時点でも「募集の手続き自体はきちんとしている」(室隆志執行役)と説明したうえで「不適切な販売にはあたらない」との考えをあらためて示していた。



