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日本はなぜ極端な"不寛容社会"になったか

近年、自分に直接関係のないことにも「許せない」と過敏に反応する人々が増えている。不寛容な人が増え続けると、日本はどうなるのか。エコノミストの門倉貴史さんが経済の観点から考え、自分の主義・信条と合わない人たちとの共存方法を探った。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/recep-bg)

■当事者・関係者でもないのに徹底批判する人が増加

週刊誌のスクープで不倫が発覚したタレントが世間から大バッシングを浴びるなど、最近の日本社会では人々の寛容さが失われて、それとは逆に不寛容さが目立つようになってきた。

自分の主義・信条と合わない行動を取る他人を叩いたり批判したり、さらには人格否定までする不寛容な人が増えてくると、日本経済にも無視できないマイナスの影響がおよぶ可能性がある。

まず不倫の問題から考えてみよう。不倫は倫理や道徳からはずれた行為なので、不倫が発覚したタレントが配偶者や子どもなど関係者に謝罪するのは当然のことだろう。しかし、なんの迷惑もかかっていないテレビの視聴者や雑誌の読者が不倫していたタレントのSNSに「許せない!」などと書き込んで、辛辣に批判するのはちょっと行き過ぎのような気もする。

実は、モラルを抜きにして純粋に経済的な視点でとらえると、ラブホテルやレストラン、ギフト市場など男女の不倫が増えることで直接・間接に恩恵に浴するビジネスがたくさん存在する。

筆者の推計によると、日本の不倫の市場規模は年間約3兆5489億円に上る。さらに総務省の『産業連関業』を使って、商業・サービス部門を中心に約3兆5489億円の最終需要が新規に発生した場合に、二次的な経済波及効果(不倫デートに伴う消費支出の拡大によって、飲食店・娯楽施設・ラブホテルなどで働く人たちの雇用・所得環境が改善し、その人たちが消費を増やし、さらに生産の拡大が促される効果)がどれくらい発生するかを計算すると、約1兆9545億円となった。

最初に発生した最終需要(=約3兆5489億円)と二次的な経済波及効果(=約1兆9545億円)を合わせると、不倫によって動くお金の総額は年間約5兆5034億円にも達する。日本のGDP(国内総生産)が約500兆円なので、その1%強を不倫ビジネスが占めている計算だ。逆にいえば、社会全体が不寛容になって不倫・浮気を徹底的に排除することになれば、日本のGDPが約5兆5034億円も縮小してしまうということだ。

■拡大しつつある日本の国内市場に水を差すことも

次に、ニオイや香りについてはどうだろうか。「職場で先輩女性のつけている香水の匂いがきつくてガマンできない」など、ニオイや香りについても不寛容な人が増えているようだ。実際、「プレジデント ウーマン プレミア」(2019年6/28号)の管理職に関するアンケート調査の結果をみると、「許せないマナー」の第1位は「香水の香りが強い」だった。

日本人は、国民性として、もともと香りやニオイに敏感といわれるが、最近はその傾向に拍車がかかっており、ニオイや香りを徹底して拒絶する人も少なくない。

ニオイ・香りについての嗜好は人それぞれなので、香水をつける人が周囲に配慮することはもちろん必要だが、不寛容の度合いが増して、やみくもにニオイ・香りを排除しようという機運が高まると、日本のフレグランス市場の拡大に水を差すことにもなりかねない。ちなみに、市場調査会社の矢野経済研究所の推計によると、日本のフレグランス市場は年々拡大しており、2017年度で303億円(前年比1.2%増)となっている。

また、ニオイ・香りの排除は、外国人観光客の呼び込みにもマイナスの影響をおよぼす。香りの文化は欧州をはじめ海外で定着している。インバウンド消費が拡大する中、海外からの観光客が、日本で香りの文化が育たず、「日本では好みのフレグランスを購入できない」、「香水をつけていると多くの人からバッシングを浴びる」ということになれば、日本がインバウンド需要を取り込むチャンスを失うことにもなりかねない。

■共存社会に必要なのは、客観的視点に立つこと

喫煙者に対するバッシングの問題についてはどうだろうか。最近では、受動喫煙による健康被害が社会問題として大きく取り上げられるようになっており、飲食店での全面禁煙の動きも広がりつつある。

しかし、喫煙者が存在することで、タバコ税による税収が年間約2兆円も中央政府と地方政府の懐に入っている。社会の不寛容の度合いが増して、喫煙者を徹底的に排除してしまうと、そのぶん、政府の税収が減少することになり、最悪の場合、不足分の財源を確保するために将来的に増税が実施される可能性もある。

これまで見てきたとおり、自分の価値観とは異なる存在をむやみに排除してしまうと、それが最終的に景気の悪化や増税といった形で自分自身に不利益をもたらす可能性があることには十分な注意が必要だろう。

では、今の不寛容社会を寛容的な共存社会に変えるにはどうすればいいのか。やはり客観的視点に立った情報収集を通じて個々人の意識を変革していくことが必要だろう。人間は無意識のうちに、自分がそうあってほしいと願う情報、自分の信念に合致する情報を選び、自分が否定したい情報や自分にとって都合の悪い情報を排除する傾向がある。このような心理的な傾向は、一般に「確証バイアス」と呼ばれる。自分の信念に都合のいい情報ばかり集めて、都合の悪い情報は切り捨てるという行為が繰り返されていくと、誤った認識が歪んだ情報で補強されることを通じて、ますます強固なものになっていき、最後はその人の頭の中で、歪んだ情報が事実として受け止められ、自分の主義・信条に合わない価値観に対しては徹底して不寛容になってしまう。

■お互いの価値観や嗜好に寛容になれば、双方にプラスの効果が

誰でも自分の立場を支えてくれる情報に頼って、自分の考えと異なる情報は見なかったり、否定したりして済ませたほうが、認知的にはラクと言える。自分の信念と一致する記憶は思い出しやすい反面、イヤな出来事は記憶があいまいになっているというのも、記憶活動に「確証バイアス」が働いているからにほかならない。

したがって、他人の行動を気にしないために私たちがすべきことは、冷静に客観的な視点に立って、自分が認めたくない他人の習慣や嗜好についてマイナスの情報を集めるだけでなく、プラスの情報にも目を向けていくことだ。

喫煙の是非についていえば、嫌煙家には「ニオイがイヤ」「煙が嫌い」「有害物質が気になる」という声が多いが、ニオイはもちろん、有害物質をかなり軽減し、煙ではなく蒸気を出す加熱式タバコであれば、もう少し寛容な心で受け入れることができるのではないか。そうした加熱式への寛容な姿勢は、税収にもプラスに影響するだろう。嫌煙家の声が大きくなって喫煙者が減ると税収面では大きな痛手となるが、加熱式タバコへのシフトであれば税収は維持されるので、それが使途の限定されない一般会計に入ることで、国民生活に広く還元されるだけでなく、経済的にも良い方向に向かう。

喫煙者のほうも喫煙することの正当性を支持する情報を集めるだけでなく、タバコを吸わない人にとって何が迷惑なのか、客観的に知ることが必要だ。

今の日本社会に蔓延する極端な不寛容さを排して、価値観や嗜好が異なる者同士がうまく共存していくことができれば、双方にとってプラスの効果が発生することになるだろう。

(エコノミスト・BRICs経済研究所代表 門倉 貴史 写真=iStock.com)

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