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「クンロク大関」続出でも大相撲に公傷制度が復活しない理由 - 新田日明 (スポーツライター)

またしてもという感は否めない。大相撲の大関豪栄道が名古屋場所8日目から休場した。場所前から右肩を痛めており、強行出場した末に負傷箇所が悪化。日本相撲協会に「右肩腱板不全損傷で約1カ月間の休養加療を要する」との診断書を提出した。これで今場所は貴景勝、栃ノ心に続き3人目となる大関の休場で、3大関不在は2012年秋場所以来の異常事態だ。

4大関のうち、残された1人、大関の高安は8日目も玉鷲を下して1敗を堅持。土つかずの8連勝で突っ走る白鵬、鶴竜の両横綱を追っている。人気者の貴景勝はカド番で迎えた今場所を全休するため、新大関昇進からわずか2場所で陥落。栃ノ心、そして豪栄道も来場所はカド番となる。大関の面目にかけても、高安には初の幕内優勝を何とか成し遂げてほしいと願う人も多いだろう。何よりも毎度の繰り返しになっているかのような白鵬の独走に対し、いい加減に歯止めをかけてもらいたい――。そうした声も世の中からは聞こえてくる。

しかしながら高安は玉鷲との一番で左肘を痛め、9日目の出場が危ぶまれている。休場となれば史上最多の4大関休場という目も当てられない事態となってしまうだけに、今の大関の権威そのものにも疑問符が投げられかねない。これは決して大げさな見立てではないと考えている。

横綱昇進に一番近い位置にいるはずの大関陣には存在感が足りない。それは誰もが感じていることだと思う。確かに大関陣の中には、ひと昔前から「クンロク大関」だとか「ハチシチ大関」などとった蔑称で呼ばれる力士がいる。辛うじて勝ち越す星取で大関の地位を守るだけのような戦いぶりを繰り返していれば、そう蔑まれても仕方がない。ただ、近年の大関陣にはパッとしない成績を招く要因として、たとえ満身創痍のままであっても土俵に上がらざるを得なくなっている背景もある。

まずは今も数多く組まれている地方巡業への参加だ。もちろん大関に限ったことではなく全力士にとっての〝問題〟としてもよくとらえられているから、何かとネット上でも論争の対象となっている案件である。

ちなみに本場所のない期間に各地方で行われる巡業の日数は昨年、91日もあった。空前の相撲ブームで大いに沸いた1992年の93日に迫る勢いで、今年も最終的にはそん色ない数になるとみられている。過酷な日程を生み出し、力士のケガのリスクが高まることを考えれば地方巡業の数をどんどん減らしたいところだが、協会にとっては重要な資金源にもつながるので、そう簡単にやめるわけにもいかない。

当然、この地方巡業は体格の大きい力士にとって長期間ずっと同じ場所に滞在する本場所と違って連日に渡るタイトな移動を強いられるため、相当な疲労につながることが考えられる。

その上、力士は大型化が顕著になっている。昨年末に力士会が力士の体重計測を行い、そこで発表された幕内の平均体重は過去最高の166・2キロ。令和元年の5月場所の平均体重は少し下がって163・9キロだったが、それでも平成元年5月場所の146・68キロと比較すれば、約30年で20キロ近くも増えたことになる。

大型力士たちの揃う中でも番付上位、もしくは下位でも勢いのある実力派たちとの取組が連日組まれる横綱や三役以上の関取たちはひと昔前に比べると、確かにかなりのハードワークになっているはず。それにネームバリューがあって土俵外の方々からお呼びがかかりやすい横綱、大関陣はタダでさえ休む間もない日程がさらに忙殺されがちだ。

ただ、いくら休んでも安泰な横綱と違って大関は猶予は2場所のみ。そういう流れを世の中の人たちもよく把握しているからだろう。今場所が豪栄道の休場によって3大関不在となったこともあり、現在もネット上では「公傷制度を復活させるべきだ」とのコメントが数多く散見されるようになっている。

特に期待をかけていた貴景勝が大関昇進であれだけ盛り上がっていながら、先場所で痛めた右ひざ負傷の影響で今場所も休場に追い込まれ、あっさり関脇転落となってしまったことも公傷制度復活を唱える声を後押ししているようだ。だが、それも一筋縄ではいきそうもない。

軽傷でもインチキして公傷扱いにしてもらおうとする可能性

かつての公傷制度は「全治2カ月以上」の診断書があれば、その次の場所で全休しても同じ地位に留まれるという利点があったが、2003年の九州場所で廃止にされた。理由は公傷制度が乱発され、休場力士が激増してしまったことであった。明らかな仮病力士も増え、危機意識を高めた協会側が引き締めを図ったからである。

協会関係者の1人は「正直に言って公傷制度の復活は難しい」と口にすると苦悩に満ちた表情を浮かべながら、こう続けた。

「軽傷でもインチキして公傷扱いにしてもらおうとする力士が出てくる可能性がある。所属部屋に近い関係にある医師に頼めば、そんなことはいくらでも可能になるだろうし、以前も実際にそういうケースがたくさんあった。『今後は統一して協会側が指定の医師のみにチェックさせればいいのではないか』という指摘も出てはいるが、それは難しい。

なぜなら仮に古傷を痛めたり、もともとの持病を患ったりした際、その力士を普段から見ている専門の医師でないとうまく診断できず見落としが生まれてしまうリスクも考えられるからだ。

公傷制度を復活させたいという声が多いのも承知しているが、現状ではできることと、できないことがある点を分かってほしい」 

どうやら公傷制度の復活は現実的にかなりのハードルがあるようだ。とはいえ、この関係者は「公傷制度うんぬんというよりも結局は今の大関陣が、だらしないということ」とも言い切り、次のように指摘した。

2場所連続休場が横綱になってからの1度しかない白鵬

「大関よりも条件が厳しく、その頂点にいる横綱の白鵬が無類の強さを証明しているからね。横綱だから公傷制度の必要性はないけれど、ここまで白鵬は2場所連続休場が横綱になってからの1度(全休した一昨年九州場所と途中休場した昨年初場所)しかない。しかも、その休場明けとなった次の昨年春場所は2ケタ勝っている。

つまりは大関で陥落となっても返り咲けているということだ。その白鵬が一昨年から休場をコンスタントに重ねるようになっても出てくれば数多く優勝している現状があるわけだから、それに歯止めをかけられない大関陣は猛省しないと。公傷制度をスケープゴートにしてはいけないでしょう」

いくら品格がないと言われようとも無双横綱・白鵬という結果を残し続ける「手本」がいる限り、現在の大関陣は物足りなくて弱いと断じられてしまうのかもしれない。それならば、なおさら今場所は高安が初Vで大関の看板を死守し、鶴竜、そして白鵬の両横綱に意地を見せつけなければいけないはずだが……。結果を出せないばかりか、コンディション維持もままらぬ大関陣が次々と“休場渦”に巻き込まれるように総崩れとなってしまう現状では、やはりそれも絵に描いた餅で終わってしまうのだろうか。

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