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裁判員「量刑」傾向報道の読み方

 裁判員制度のように、司法に参加する市民に、量刑まで担わせる形については、専門家の間でも異論があります。いうまでもなく、多くの国民には過去の刑事裁判への知識の蓄積がなく、量刑の基準がないからです。

 職業裁判官には過去の類似判例などをもとに蓄積された、いわゆる量刑相場というものを基準とする実務慣行があるわけですが、なぜ、そうしたものがあるかといえば、いかに裁判官が法と良心にしたがって、個別の案件の事情を勘案して判断しても、同様のケースで量刑にバラツキが出るからです。そのため、公平性や安定性という意味から、前記量刑相場という基準が有効になるという説明がなされてきました。

 裁判員制度では、それがない市民が裁きの場に入ってきます。「市民感覚」による判断にそこをゆだねれば、大きなバラツキが出ても、当たり前です。さらにいえば、そのバラツキを生むものは、情緒的な感情の有無、もしくはその度合いによるということもできます。被害者感情に大きく共鳴すれば、自ずとそれは大きく触れたり、個々人の感性によって非常に恣意的な結果をもたらすこともあり得ます。職業裁判官だって、そうだという声もありますが、それは職責においても、訓練においても、どちらがこの点でバラツキを生むリスクが少ないかははっきりしているというべきです。

 この問題の解消を、裁判員制度は、おそらく二つのことによって期待している、とみることができます。一つはいうまでもなく、職業裁判官が関与するということです。彼らが相場を示すことによって、それを基準に市民が裁くから大丈夫だろう、という話です。ただ、いうまでもなく、それに過度に引きずられるということであれば、逆に少なくともこの制度が量刑段階に市民を参加させている意味が問われることになりかねません。

 そして、もう一つあるとすれば、「市民基準」が成立するとみる、ということです。つまり、現行の相場を「市民感覚」によって調整した一定の新相場が形成されるかのごとく、見る見方になります。当然、こちらは裁判員制度の「市民参加」の意義が、保たれる形です。しかし、これまた、いうまでもないことですが、無作為抽出で選ばれた市民の裁判体は、そもそも均一な質を持っていません。無作為は選ばれる側は平等だとしても、実は裁かれる側にとっては、運不運の不平等をもたらします。

 この不平等についても、これまで散々推進派の方々の意見を聞いてきましたが、少なくとも裁判所側の方からは、まさにそこも職業裁判官による是正を期待しているようなご意見が返ってきました。したがって、そうだとすれば、バラツキの危険性は少なくとも彼らには、もともと想定内であり、ならばその結果にしても、職業裁判官の関与を期待しないことには、「市民感覚」という一定の尺度が存在しているかのように見て、それによって公平さが担保できるようなことにはならないというのは、当然の話なのです。

 さて、そうした不安定要素をもった市民参加の量刑について、制度導入3年で、一つの傾向が報道されています。5月15日付けの朝日新聞朝刊は、最高裁の公表結果から、裁判員が性犯罪に対し、量刑が厳しくなる一方、それ以外の犯罪では執行猶予をつく割合が増えたとしています。気になるのは、「朝日」の扱い方が、頭から肯定的だということです。

  「犯罪の背景や被告の境遇をよく踏まえて市民が量刑を考えた様子がうかがえる」
  「市民感覚 刑の幅広がる」
  「プロの裁判官が積み重ねてきた量刑にとらわれない裁判員たちの姿が浮かぶ」

 性犯罪については、「これまでが軽すぎた」ということを強調し、裁判官の理解なども挙げて、この厳罰化を例外的かつ肯定的に取り上げ、一方で、執行猶予増加も市民が被告人の事情を汲んで、社会復帰を見守る「保護観察」を付すケースの増加傾向ともに紹介し、結果として検察の求刑7、8割といわれてきたものが、上回ったり、大幅に下回ったりするケースが相次いでいることを「刑の幅広がった」と表現しています。

 しかし、やはり、これはこうとばかりは即断できないように思えます。性犯罪の厳罰化は、ケースの中身を見ない限り、それが最も情緒的な反応に流された結果である可能性はありますし、いうまでもなく「刑の幅」というのは、懸念されていたバラツキと置き換えられます。裁判官やコメントを寄せている元裁判官らによるこの傾向に理解を示す見方は、もちろんこれらが問題を生じさせていない、ということへのプロからのお墨付きです。そして、ここには、前記したような裁判員制度の意義に直結させられるような、正しい「市民基準」の登場を描き込んでいるように読めてしまいます。

 これもまた、裁判員制度推進派の大マスコミによる、バイアスのかかった順調報道の一環である可能性を考えて、現実を見ていかなければならないように思います。

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