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- 2019年07月14日 12:30
テイラー・スウィフトを憤慨させた、米エンタメ界の敏腕スクーター・ブラウンの野望
2/21) アトラス・パブリッシングからBSプロジェクツとビッグ・マシンにヒット曲が投入される
アトラスはニューヨーク本社以外にも、ロサンゼルスとナッシュビルにオフィスを構えており、これまでドレイク、デミ・ロヴァート、ザ・バンド・ペリー、マドンナ、エド・シーラン、ジョン・レジェンドが演奏した楽曲の所有と管理を行っている。アトラスのイサカへの吸収合併を報じたプレスリリースに、ブラウンが言った言葉として「彼(アトラスのリチャード・スタンフ)や彼のチームと一緒に仕事することで、我々は最もクリエイティヴなライターたちと直接的なつながりを持つことになり、出版のプロセスを簡素化してもっと個人的なものにできるだろう」が記載されていた。分かりにくので説明すると、「当社のアーティストとアトラス所属のライターを結びつけることができれば、アーティスティック面での充実度が増し、賢く利益をあげられるだろう」という意味だ。これはアトラス所属のインハウス・ライター以外にも適用される。アリアナ・グランデ最大のヒット曲「7 Rings」には、ロジャース&ハマースタインのクラシック曲「マイ・フェイヴァリット・シングス」の歌詞が数多く使われている。そのため、グランデのこのスマッシュヒット曲によって生み出された出版印税の9割はロジャース&ハマースタインの著作権所有者に支払われるのだ。現在のブラウンは、SBプロジェクツのクライアントであるアーティストの将来を考えて、「マイ・フェイヴァリット・シングス」のような不朽の名曲をアトラスの音楽カタログに加える機会を探っているかもしれない。つまり「7Rings」と同じ轍を踏まない手立てを考えているということだ。
2) 今後のアーティストへの投資を可能にする収益をビッグ・マシンが提供できる
ビッグ・マシンは収益が確実な企業だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報道している上記の財務を鑑みると、ビッグ・マシンがはじき出すEBITDA利益マージンは40%にも及ぶ。これはイサカと同型の音楽企業が生み出す利益の2倍以上だ(ちなみに昨年度のユニバーサル・ミュージック・グループのEBITA [訳注:金利支払い前、税金支払い前、有形の固定資産の償却費控除前の利益] マージンは取引高が70億ドルと巨大でも15%である)。この確実なビジネスの核となるのは、もちろんテイラー・スウィフトのカタログで、ビッグ・マシンの年間取引高の1/3以上を占めると推定される。ブラウンは、スウィフトのファースト以降の6枚のアルバムが今でも人気を博していることに注目して、この収益でビッグ・マシンに投資した3億ドルを回収する予定だ。音楽データサイトKwobによると、YouTubeでのスウィフトの動画の再生回数は今日までで総数170億万回を超えるため、ブラウンがそう考えるのも当然といえるだろう。
ビッグ・マシンに所属するカントリー系アーティストの重要性も軽視すべきではないのだが、ニールセンのデータによると、カントリー・ミュージックは2019年前半のアメリカ国内のオンデマンド配信総数の5.8%だけとなっている。一方、フィジカル・アルバムの売上は全体の10%を占めている。フィジカルからストリーミングへ移行するリスナーが増えていけば、ブラウンは今後数年間で現在のギャップを埋めることができ、イサカの金庫が潤うと考えているのだろう。
3)ブラウンが主要レコード会社と交渉するときに、ビッグ・マシンは半ば公然の秘密兵器として使える
近年は世界的スターの新作のリリース日を調べていると目につくのが、アーティストが自分の会社から音源を発売し、ライセンス契約やディストリビューション契約で主要レコード会社から販売するという手法だ。例をあげると、リアーナ(Westbury Road→Roc Nation)、カニエ・ウェスト(Getting Out Our Dreams II→Def Jam),テイラー・スウィフトの新曲(テイラー・スウィフト→Republic Records)という具合だ。ブラウンがSBプロジェクツ最大のスターであるジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデの音源を同じ方法で発売および販売することに決めた場合、ビッグ・マシンが大きな役割を担うことは必至だ。ブラウンにとっても、SBプロジェクツのクライアントとビッグ・マシンを直接契約させることはパワフルな一歩となる。また、さらなる利益がイサカ・ファミリーの枠の中に留まることも確保できる。レコードのリリース過程でイサカ・ファミリー外にこぼれてしまう唯一の金銭が、ディストリビューターに支払う手数料だ(ビッグ・マシンの現在のディストリビューターはユニバーサル・ミュージック・グループで、ブラウンとイサカが買収する前にビッグ・マシンの買収に色気を示していたのが彼らだと言われている)。また、万が一、例えばジャスティン・ビーバーがビッグ・マシンと直接契約をした場合、現在彼が契約しているレーベル、つまりユニバーサル・ミュージック・グループのアイランド・デフ・ジャムがパニックを起こすのは避けられない。彼らは金のなる木を逃さないために契約金額を上げることも辞さないだろうから、それはそれでブラウンとイサカにとっては朗報となる。
どんなレコード・レーベルにとっても重要なことは、新人アーティストをブレークさせる能力だ。ユニバーサルと契約しているレーベル、スクールボーイ・レコーズを運営しているブラウンは、彼自身がプロモーションの強力な発信源と言える。ブラウンの現在のInstagramフォロワーが310万人で、彼はトリ・ケリーやベイビー・ジェイクのようなSBプロジェクツ所属のアーティストの音楽やメディアをプッシュするプラットフォームとしてInstagramを活用しているのだ。
4) インハウスでのビデオ製作
ビッグ・マシン、アトラス・パブリッシングとSBプロジェクツに加えて、イサカ・ファミリーはアーティストのマネージメントハウスであるサンドボックス・エンターテイメント(ケイシー・マスグレイヴス所属)とパートナー契約をしており、さらに音楽技術の開発に特化した投資ファンドで前BMG社長ザック・カッツが率いるレイズド・イン・スペースとも提携している。しかし、最も興味深い投資資金は音楽以外から投入されるかもしれない。前マーヴェルの責任者デヴィッド・マイセルが設立した映画とテレビ番組の製作スタートアップ企業ミソス・スタジオが最有力だ。近年、音楽をテーマにした動画コンテンツが成長著しいビジネスとなっている。オスカーを受賞した『ボヘミアン・ラプソディ』や『アリー/スター誕生』、劇場興行収入的に大ヒットした『グレイテスト・ショーマンシップ』がいい例だろう。この3作品に共通する点は、音楽の著作権を扱う主要企業が製作に携わっていないことだ。つまり、製作に関わったのは、『ボヘミアン・ラブソディ』は20世紀フォックス、レガシーなど、『アリー/スター誕生』はワーナー・ブラウザーズ・ピクチャーズとMGM,ライヴ・ネーション・プロダクションなど、『グレイテスト・ショーマンシップ』はローレンス・マーク、チャーニン、TSGだ。また、テイラー・スウィフトは同じトレンドの異なる例を提供している。彼女の公式ライブ映画の『テイラー・スウィフト:レピュテーション・スタジアム・ツアー』はNetflixに売却された。その後、Netflixはビヨンセやブルース・スプリングスティーンのコンサート映画も公開している。
イサカ・ファミリーのマネージメント会社に所属するスーパースターたちを組み合わせ、ビッグ・マシンにサウンドトラックの製作と管理を任せ、アトラス・ミュージック・パブリッシング所属のアーティストの楽曲を使い、ミソスのテレビ番組や映画製作の能力を活用することで、ブラウンは次回のアカデミー賞にノミネートされる音楽映画や大ヒットするコンサート映画を作ることができるのではないか? それもあらゆる権利がイサカ・ファミリーの敷地の外には一切出ない状態で。
5) 買収企業を増やしてエンターテイメント・ビジネスを網羅する
現在の音楽業界は吸収合併が頻繁に行われている。イサカがビッグ・マシンを3億ドルで買うとは言え、最近ではソニーがEMIミュージック・パブリッシングの所有権を23億ドル(約2491億円)で買ったり、Merck Mercuriadisのヒプノシスが過去13ヵ月間でソングライティングと出版の諸権利のために4億3300万ドル(約469億円)を費やしている。イサカの一番の後ろ盾がカーライル・グループで、同グループの金融ポートフォリオには2220億ドルの運用資産が含まれ、これまで所有した企業にはレンタカーの巨人Hertz、ファーストフードとドリンクのチェーン店ダンキン・ドーナツなどがある。特に興味深いものが、2018年以来、最先端の洋服ブランド、シュプリームの株を50%所有している。このブランドはアーティストたちと直接服作りをし、限定数の商品を販売してきたことで有名で、イサカ・ホールディングスが得意とする分野にマッチしたブランドと言える。
2017年以降、カーライル・グループのイサカへの投資は大きくはなかったが、ビッグ・マシン買収に関与したこともあり、現在は投資額を増やしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この動きによってイサカの企業価値が8億ドルを上回ったということだ。
そうは言っても、イサカの筆頭株主は相変わらずスクター・ブラウンだ。非常に現代的な音楽ビジネスの総合商社とも言えるブラウンの会社は、録音された音楽、スーパースターのアーティスト・マネージメント、音楽出版、映画製作など、エンターテイメントの全方向に伸びたインフラを作り上げようとしている。さらにカーライル・グループの潤沢な資金力という後ろ盾もあり、一方で目まぐるしい音楽関連権利市場が拡大していることを踏まえると、今後さらなる成長の機会が持ち上がったときにブラウンが尻込みするとは思えない。
- Rolling Stone Japan
- 音楽カルチャーマガジン米Rolling Stone誌の日本版



