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もう、小泉劇場は起こらない~オタク化する選挙

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ソーシャルメディアがテレビとネット間のバイラルを打ち消す

ところが、スマホの普及によって状況は変わってくる。ゼロ年代には有効だったインターネットとマスメディアのスパイラルによるブーム=劇場の発生というメカニズムが消滅するのだ。スマホ、そしてFacebook、Twitter、Instagramといったソーシャルメディアの出現と普及は、個人の嗜好を加速度的に細分化していった。

それによって人々は自らのトリビアルな関心領域の情報を入手するようになる。言い換えれば、それは問題関心が全体的イシューから個人的なそれへとシフトしたことを意味する(社会学ではこのような状況を「再帰的近代化」(W.ベック、A.ギデンス)と呼ぶ)。また、情報発信についても、発信手段がホームページやブログからソーシャルメディアに代わることによって、誰もがネット上に自らの情報を気軽にアップするようになる。

インプット、アウトプット、どちらにおいても、それぞれが関わることがバラバラになっていったのだ。いいかえれば、大衆は求心的な中心(近代)を否定してモザイク化し、さらにタコツボ化するようになった(「リキッドモダニティ」Z.バウマン)。

そして、こうした嗜好の極端な細分化が結果として、それまで発生してたインターネットとマスメディアによる情報のスパイラルによるイベント化=劇場化を無効にすることになった。

たとえば、ゼロ年代のようにマスメディアがブログ、2ちゃんねる、そしてソーシャルメディアから話題となっている情報をピックアップし、この情報をバイラルしたとしよう。ところが、ソーシャルメディアによって細分化されたインターネット領域では、マスメディアによってプッシュされた情報は、むしろソーシャルメディアのユーザーたちによる情報発信によってかき消されるように作動するのだ。

インターネット上、とりわけソーシャルメディア上の話題がマスメディアに取り上げられても、すぐさま、これを否定する見解がソーシャルメディア上から提示される。しかも、様々な方面から。いや、それだけではない。その次にはこの「否定する見解を否定する見解」まで、さらにその次までもが出現する。だから、一定以上の広がりが難しくなるし、話題の有効期間も限りなく短期化されてしまうのだ。

最近発生したこの典型的な例は、大津で発生した園児を死傷に追いやった交通事故だろう。事故発生直後、散歩に連れて行ったレイモンド淡海保育園が行った記者会見で、マスメディアは保育園を加害者的な立場見立てながら質問を行った。これがソーシャルメディア上で批判されることになる。すると事故死した児童の親から保育園を援護するコメントが。

次いで、このコメントをマスメディアが取り上げると、今度はソーシャルメディア上でマスメディアがコメント全文のうちのどこを省いていたかが各マスメディアごとに晒されていた。そこで形勢不利と考えたのか、マスメディアは本件については口をつぐむようになった。これじゃ、盛り上がりようがないだろう(する必要もないけれど)。

選挙も、結局これと同じメカニズムが発生することになる。つまりブームになる前にこれをかき消す情報が様々な形でソーシャルメディア上に挙げられ、雲散霧消するのだ。だから、お祭りは盛り上がりそうになった瞬間、かき消されることになる。「年金の他に2000万円が必要」という騒ぎも、しばらくすれば忘れ去られるだろう(ひょっとして、ソーシャルメディアはガス抜きの機能も果たしているかもしれない。「(100年安心のはずが2000万円必要だって?ふざけるな」と、ソーシャルメディア上でコメントしてしまえば、これで満足してしまうといったような……)。

政治オタクばかりが選挙に行くようになれば……自民、公明、共産、そしてれいわ新撰組が勝利する

では、そうなると次回参院選はどうなるのか。当然ながら、無党派層は全くなびかない。そして個人化=私的生活にベクトルが向いているので、公的な活動である選挙に関心を抱くことはなく、投票には行かない。その一方で、政治にもともと関心を持っている層が、やはりソーシャルメディア等を媒介にして結びつく。そうなるとインターネット=ソーシャルメディアは支持政党ありの人間にとっては政党への支持意識を強化する方向に働くことになる。

必然的に投票率は下がるが、いわば「政治を趣味にする層」は必ず投票に行くことになる。だから結局、勝利するのは基礎票がしっかりしている自民党、公明党、共産党なのだ。いいかえればインターネット→スマホ→ソーシャルメディアの普及というメディアの流れは政治への関心を加速度的に減少させるが、その反面で政治オタクを発生させ、その層によって選挙が展開されることになるのだ。

だが、この「政治オタク化」は既存の「支持政党あり」の層だけを指しているわけではない。無党派層の中にも「政治を趣味にする層」、言い換えれば嗜好が多様化した中の一つとして「政治に(趣味として)関心を持つようになった層」が、これまたソーシャルメディアを介して結びつくようになる。ただし、これもまた多様化した層の中の一部の層でしかないために母集団が小さい。

だから小泉の時のような「劇場」にはならない。「トリビアルなオタク集団」ゆえ、せいぜいが町内会祭りの神輿担ぎ程度にしかならないのだ。しかし、ネットを介して全国からかき集めれば、これはそれなりの力を得ることにはなるだろう。

おそらく、こうした層は「ワンフレーズ・ポリティックス」ではなく「ワンイシュー・ポリティックス」、つまり限定された争点を前面に打ち出し、これを深く展開して、萌えた政治オタクからの支持を取り付けるだろう。いうまでもなく、このやり方で「新しい無党派層」を掘り起こしている(しかし、絶対に政党的には巨大化することはない)のが山本太郎率いるれいわ新撰組だ。おそらく、れいわは「政治オタク」の票を取り付けることで、支持基盤のはっきりしない党の中で唯一勝利するだろう。

だが、それは選挙というシステムが機能不全を起こしはじめたことを意味しているということでもある。選挙や政治もまたオタク化していくというわけだ。そして、この傾向は不可逆的な現象だ。ソーシャルメディア的なものが個人化を進めれば進めるほど政治は「一部のオタクのもの」になっていくのではなかろうか。

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