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「おっさん」は強ければ叩いて構わず、弱ければ忌避される

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忌避されずに街を歩けるのは誰か

 では無臭を徹底させ、安全・安心を徹底させた街を誰なら気兼ねなく歩けるのか。
 
 体臭が臭わず、体格や挙動によって他人に不安感や威圧感を与えてしまわない人々こそが気兼ねなく街を歩けるわけで、この場合の「強者」といえる。
 
 たとえば「かわいい」女性。それと「かわいい」男性。
 
 臭わず、体格で他人を威圧することもなく、安心できる挙動をとる人々こそが、一番迷惑がられず、一番忌避されない。気兼ねしないでどこへだって行ける。
 
 [関連]:『かわいいは正義!』とは、暴力が禁じられた社会の、新しい影響力闘争のこと。 | Books&Apps
 
 まだ法治が徹底されておらず、屈強な男性が華奢な女性を腕づくで征服できた時代には、「かわいい」が強者など絶対にあり得なかっただろう。
 
 だが法治が徹底され、お互いに迷惑をかけない慣習が信じられない水準に到達した21世紀の日本の街では、「かわいい」人々こそが模範であり、模範どおりだから忌避されない。今後、監視カメラが増え、DVや虐待への家庭介入が進むにつれて、ますます「腕づくの問題解決」は摘発され、忌避されるようになるだろう。その際、「かわいい」の模範性は高まることはあっても低下することはない。
 
 現代社会の「かわいい」は、既に相当強い属性だが、「かわいい」ゆえか、これを新時代の強属性だと名指しする人はあまりいない。ゆえに、「かわいい」が猛威をふるったからといって、それを暴力や抑圧とみなす人もほとんどいない。  
 
 もうひとつ、「かわいい」に準じる存在がある。
 
 それは無臭を徹底させ、不安感や威圧感を与えないよう身だしなみや挙動をトレーニングした、洗練された現代しぐさの男性や女性たちである。
 
 中年男性も、きちんと入浴する習慣を身に付け、安心感を与える身なりを整え、落ち着いた挙動をしていれば不安感や威圧感を与えることはなくなる。そのような中年男性ならば、閑静な住宅街や子どもの遊ぶ公園にいても迷惑がられないだろう。中年女性は言わずもがな。つまり、無臭を徹底させ、安全・安心を徹底させた街に溶け込むようなハビトゥスを身に付け、実践していればバッシングされることも忌避されることもなくなる
 
 「だからきちんと入浴し、きちんとした身なりを整え、落ち着いた挙動をしなさい」というアドバイスが一応の処方箋になるわけだが、これは希望と言えるだろうか?  

強者には簡単でも、弱者には困難

 私にはそう思えない。
 
 無臭で、不安感や威圧感を与えないようなハビトゥスとその実践は、いわゆる強者には簡単でも、経済的・社会的弱者には簡単ではないからだ。
 
 経済資本や文化資本に恵まれた成人男女は、そうしたハビトゥスを比較的短期間で身に付けられる。というより子ども時代のうちにある程度身に付けている。デオドラントや身だしなみにお金や時間を費やすことだってできる。結局、強者は大して努力するまでもなく、無臭で無害な存在になって街を闊歩できる。
 
 しかし、経済資本や文化資本に恵まれない成人男女はこの限りではない。現代社会にふさわしいハビトゥスを子ども時代に身に付けられなかった人もいるし、デオドラントや身だしなみにお金や時間を費やす余裕が無い人も多い。だから「キモくて金のないおっさん」が無臭で無害な存在として街を闊歩するためには、強者よりずっと努力しなければならず、到底それがかなわないことだってあるだろう。
 
 もちろんこれは「キモくて金のない"成人男性"」だけの話ではない。悪臭ぷんぷんたる女性、不安感や威圧感を与える外観や挙動の女性は、女性でも「キモくて金のないおっさん」のようなものだろう。そのような女性が、この清潔で無臭で安心・安全な社会のなかで浮き上がらないわけがないし、現代の通念のなかで忌避されないわけもない。
 
 そういえば「かわいい」もまた、ある程度まで先天的素養だが、ある程度からはハビトゥスだと言える。というのも、顔貌が多少かわいらしかろうが、臭くて、身なりが整わなくて、粗暴な挙動や粗暴な挙動があれば、その人物は現代の秩序から浮き上がってしまうからだ。  

だが、弱者といえども秩序のトリクルダウンは享受している。

 バッシングして構わないかどうか、差別かどうかといった話から少しズレた話になってしまった。
 まあ、そのあたりは冒頭リンク先のテラケイさん達にお任せするとして。

さしあたり、この文章で私が一番言いたかったのは、この無臭で安全・安心な社会では、臭う者・不安感を与える者・威圧感を与える者は浮き上がってしまい、それをどうにかするための処方箋は経済資本や文化資本に恵まれない成人男女には容易ではない、ということだ。
 
 しかし、現代社会の快適な暮らしはこうした通念と社会状況によって成立しており、その恩恵は強者はもちろん、弱者も享受しているから簡単には否定できない。強者のほうがより多く恩恵を受けているだろうけれど、いわば秩序のトリクルダウンというか、弱者だってある程度は都市生活の快適さを受け取っていることを私は否定できない。
 
 それに、これほどの人口集中と高温多湿な環境にもかかわらず、東京のようなメガロポリスが未曾有の快適さを誇り、安全と安心を維持できているのも、このような通念と、このような通念を支えるインフラのおかげだということも忘れてはならない。昭和時代の通念のままの東京は、もっと臭く、もっと喧騒や怒号にみちていて、法治はこれほど行き届かなかった。そのような社会に後戻りしたいと考える人は、「キモくて金のないおっさん」のなかにさえ、少なかろう。
  
 無臭で安全・安心な秩序の恩恵を受けとるためには、それにふさわしい無臭さ、外観や挙動の人間にならなければならない──そのためのコストには個人差があり、たとえば、キモくてカネのない中年男性にはハイコストであることを、これからの正しさはどこまで照らし出せるだろうか。  

*1:たとえば女性が政治に参加できるようになったのがずっと後の時代だったように

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