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トカゲ19匹を旅行カバンに詰め込んで……爬虫類密輸の“闇バイト”で逮捕された27歳OLの末路 - 末家 覚三

 爬虫類以上の冷血動物は、人類なのかもしれない。世界中から希少な爬虫類を密猟、密輸、密売しようとしたとして、運び屋の日本人の27歳の旅行客を含む世界の爬虫類密売ネットワークが国際刑事警察機構、通称インターポールと各国の環境取締機関の捜査で摘発されたことが6月3日、明らかになった。

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 世界中から救出された爬虫類はトカゲ、ヘビ、カメなど4000匹以上。標的となった爬虫類は人類に狩られ、連れ去られ、飼われ、着られ、食べられ、飾られ、死ぬ。なかには一歩間に合わず、財布やバッグに変わり果てていた「元」爬虫類もいた。インターポールなど各国の捜査機関は背後に爬虫類の密猟から加工、密輸、販売を手がける犯罪組織のネットワークが存在するとみて、捜査をさらに展開するという。

27歳の日本人女性がターゲットに

 関わった捜査機関は22カ国にまたがる。インターポールはリザード(トカゲ)とかけて今回の捜査を「ブリザード(大吹雪)作戦」と名付け、4月12日からの1カ月間で集中捜査を実施。なかでも最初のターゲットの1人となったのは、27歳の日本人の女、チバナ・アカネ容疑者だった。

 チバナ容疑者の姿をオーストラリア国境警備隊が確認したのは、4月23日。オーストラリアで「任務」を終えて帰国する航空便のチェックイン作業をメルボルン空港で済ませた後だった。

逮捕されたチバナアカネ

 心はすでに家路に向かっていたのかもしれないが、同隊が憐憫の情をかけるはずもない。チバナ容疑者が機内に預けたキャリーバッグをX線でスキャン。モニターは、バッグ内でうごめく何者かを捉えた。中には国外への持ち出しが禁じられているマツカサトカゲが17匹とアオジタトカゲが2匹。チバナ容疑者は環境保護・生物多様性保全法違反容疑で逮捕された。

「多くのトカゲにはダニが付着していた。野生動物の可能性があるということだ」

 オーストラリア・ビクトリア州環境・国土・水・計画局の保護監督官、ケイト・ゲイブンスはこう指摘する。トカゲは「司法手続きを経て、獣医の検査後、学校やNPOに寄付されることになる。野生に戻すことが難しければね」という。

値段は1匹30万円、最高で100万円

 マツカサトカゲは全長最大40センチ程度で、オーストラリアに生息する。突起状のうろこがひしめく背中と、体長に比べて大きな愛くるしい頭部が特徴で、国際自然連合のレッドリストに低危険種として登録されている。値段は1匹30万円前後、最高で100万円にまでなる希少種だ。

 平成生まれのチバナ容疑者はいつごろから闇ビジネスに手を染め始めたのか。

《今年に入って、、パース行って、ケベック行って、アデレード行って 海外行くたびに海外の魅力にハマる?》

 本人のものとみられるフェイスブックには、逮捕の2日前、オーストラリアやカナダを「旅行」したことが写真付きで誇示されていた。パースもアデレードも希少なトカゲの生息地で知られるオーストラリアの観光地。カナダのケベック州も野生動物の宝庫として知られる。

「お小遣い稼ぎしたい方いますか???」

 注目されるのは、3月16日の投稿だ。

《【お小遣い稼ぎしたい方いますか???】女の子におすすめ!?(男性向けもあります!)お小遣い稼ぎしたい方にちょこっと教えてます(^^)興味のある方ご連絡ください♪》

 100人近くが興味を示したというが、チバナ容疑者はいずれも個別のメッセージで対応し、その内容はうかがい知れない。だが、OLとして働くかたわら、人脈作りに精を出した末に掴んだ「お小遣い稼ぎ」こそが、禁断の“闇仕事”だったのかもしれない。

 こうした「お小遣い稼ぎ」に手を染めるのはチバナ容疑者だけではない。昨年11月以降、爬虫類の密輸で日本人がオーストラリアで逮捕されるのはチバナ容疑者で3人目。チバナ容疑者の後にも6月、日本人の男2人が密輸したとして逮捕されている。

「男2人は他の3人とも関係しており、国際的な野生動物密輸組織の一部だとみられる」

 こう指摘するのはオーストラリア国境警備隊捜査指揮官、クリント・シムズ氏。「野生動物の密輸は実入りのいい取引だ。オーストラリアの野性動物を海外に輸出・販売することで個人も犯罪組織も相当な利益を上げることができる」という。

 ただ、日本人が関与する密輸が後を絶たないのは、利益が高いからだけではない。

実は“ノーリスク・ハイリターン”

 マツカサトカゲなどの国外持ち出しは、オーストラリアの法律では、最高で懲役10年、罰金21万豪ドル(1564万円相当)。だが、それはあくまでオーストラリア国内だけでのことなのだ。

 マツカサトカゲなど相当種の爬虫類は日本国内で希少種には指定されておらず、国内での取引が実質的に自由。要は、オーストラリアさえ出てしまえば、“ノーリスク・ハイリターン”というわけだ。

 ペットとしての魅力だけが爬虫類密輸の利益を生むわけではない。爬虫類は「加工」もできる。バッグや靴など革製品の原材料としての需要はもちろん、最近注目されているのが経済成長を続ける中国における「薬」需要だ。

爬虫類は「エイズに効く」!?

 野生動物や植物の保全活動を進めるNGO「トラフィック」によると、中国では最近、「エイズに効く」などと称して爬虫類を粉末にした薬品の需要が爆発的に増え、東南アジアなどがその輸出拠点になりつつあるという。

 中国では古来から「珍しいものには珍しい薬効がある」と信じられてきた。いまも中華料理店でツバメの巣、フカヒレなどそれ自体に味が余りないものが珍重されるのはその名残でもある。希少な爬虫類は、希少な薬品としての期待も集めるのだ。

 もちろん、利益以上に、密輸による害が大きいのはいうまでもない。

 今回の作戦に携わったニュージーランド環境保護局のディラン・スワイン担当官は「真の動物愛好家は決して闇市場に手は出さない。生息数に打撃を与えるだけでなく、トカゲが密輸されるときの状態もひどい。そのうちのわずかしか生き残れないからだ」と説明する。

 しかも別の当局者にいわせれば「爬虫類の違法輸入は、大変な防疫上のリスクを投げかける。人間や動物、環境に影響を与える感染症まで持ち込んでしまう」のだ。

 捜査をコーディネートしたインターポールの環境安全保障担当副部長は警告する。

「爬虫類の違法取引は組織犯罪と密接な関係がある。ブリザード作戦は、犯罪者に明確なメッセージを示した。世界中の法執行機関が奴らを狙っているってことをね」

(末家 覚三)

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