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ハンセン病訴訟めぐる報道で朝日新聞が「訂正・おわび」…本当に”誤報”だったのか?なぜ間違えたのか?


 ハンセン病の隔離政策をめぐる裁判で安倍総理は9日朝、国の責任を認めた熊本地裁の判決に「受け入れがたい点がある」としながらも控訴しない方針を表明した。これを遡ること数時間前、朝日新聞の朝刊1面に「ハンセン病家族訴訟 控訴へ 政府、経済支援は検討」の見出しが踊った。


 今回の判断をめぐる報道を見てみると、NHK(NEWS WEB)が9日午前2時頃に速報したのを始め、毎日新聞など各社が"控訴断念"の可能性を報じたが、朝日新聞デジタルは「元ハンセン病家族への賠償判決、国が控訴へ」と報じた。結果的に正反対の報じ方をした朝日新聞は10日付の朝刊1面で改めて「控訴せず」の見出しで報道、さらに2面では政治部長の名前で誤った判断をするに至った経緯を説明、謝罪した。

 お詫び記事の中には「首相の意向を知り得る政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました」との一文もあった。なぜ朝日新聞は判断を誤ったのか。その取材方法はどのようなものだったのか。そして素早い謝罪と検証にはどのような意味があるのだろうか。また、朝日新聞の報道の後で安倍総理の判断が変わったとすれば、今回の記事や見出しは「誤報」にあたるのか。

■元日経・宮崎信行氏「朝日新聞の見出しを見て判断を変えた可能性も」


 元日本経済新聞政治部記者で政治ジャーナリストの宮崎信行氏は「今は選挙期間中なので大臣たちも全国各地に遊説に行くが、火曜日の朝と金曜日の朝の閣議だけは顔を揃えないといけない。金曜日が控訴の期限だとすると、火曜日に判断するだろうという予測があったはずだ。また、国家賠償請求訴訟で国側が負けた場合、ほんとんどのケースで控訴する。今回も法務省と厚生労働省としては控訴して裁判を続けるとしか言えない。

そこで官房長官や官房副長官、あるいは総理秘書官など、官邸の中の人に当ててみて確認をとることになる。そこで"控訴するんですよね"と聞いた時、"あぁ、まあどうかな"くらいの、否定はしない、というニュアンスの発言があったのだろう。そして"控訴へ"か"控訴断念へ"のどちらかしかない中、官邸の取材網が少ないと言われている朝日新聞としては"書き得、つまり書いてしまえば得だということで、そのまま"控訴へ"で打ってしまったのではないか」と推測する。


 その上で宮崎氏は、安倍総理が朝日新聞の見出しを見て判断を変えた可能性もあるのではないかとの見方を示す。

 「その可能性も5割以上はあると思う。つまり、朝日新聞に恥をかかせるという陰謀論があり得る。控訴しないと決めた後の役所の仕事はそんなに大変ではないと思うし、安倍総理としても選挙中だし、やってしまおうかと。新聞が批判される理由でもあるが、"へ・も・か"といって、なるべく訴えられないように書くということを記者は入社直後から教えられる。今回も"控訴へ"なので、"絶対に控訴する""控訴決定を発表する"とは書いていない。だから"誤報"という表現が少し気にはなっていたが、政治部長が"誤報"と書いているので、誤報だろう。

ただ、政治部長の名前でこんなに大きく訂正の記事が出るのは相当珍しい。参院選の最中でナーバスになっているのは分かるが、慎重というか、ネガティブになり過ぎているのではないか。"逆忖度"のようになるのが心配だ。今回の誤報で傷ついた人がどれくらいいるのか、という問題もある。確かに朝日新聞を読んでいる原告団の人が"ああ、やっぱりか"と肝を冷やしたかもしれないが、その数時間後には、いわば"ハッピーエンド"になった。朝日新聞は反省しないといけないが、可能ならばもうちょっと検証してほしい」。

■元読売・新田哲史氏「待つことも勇気だ」


 元読売新聞記者でアゴラ編集長の新田哲史氏は「お詫びの記事にあった"政権幹部"、という言い方が微妙だと思った。新聞では一般的に官房長官、官房副長官を"政府首脳"と、首相の補佐官、秘書官あたりも含めて"政権幹部"というが、朝日新聞としては"この人が言っているんだから、総理の意向として間違いないよね"と信じられる方だったのは間違いないと考えたのだろう。ただ、最終的に総理の判断次第なので、結局は総理本人に聞くしかない。朝日新聞は民主党政権の頃には総理に直接電話で話を聞くことができただろうが、現在は直接のやり取りできる記者があまりいないのではないか。今回の報道で、朝日新聞が政権中枢にニュースソースを確保できていないと考えざるを得ない」と指摘する。


 新田氏は今月3日に日本記者クラブで開かれた党首討論会で安倍総理は「この(熊本地裁の)判決、まだ出たばかりであるからよく精査をしなければいけないと思うが、そのことについて我々は本当に責任を感じなければならないと思っている」と答えていたことに触れ、「安倍総理について、数日前にも結構きついことを書いた記事があった。これまで対立してきた経緯もあり、政治部内に"どうせ口先だけでしょ"という空気があり、そこからバイアスみたいなものが生まれた可能性はある。ただ、同じく安倍政権に対して厳しい姿勢の毎日新聞は"控訴せず"という方向で大体の動きを捉えていたわけで、朝日新聞取材が不十分だったということは明らかだ。社会的影響が小さい話ではないし、トータルに見て、勝敗で言えば明らかに"負け"だ」との見方を示した。


 今後について新田氏は「今回のように、ギリギリでひっくり返ることがある場合、待つことも勇気だ。そのためには現場の記者だけではなくて、デスクや編集局の幹部も含め、トータルの構造の部分で見ていかないといけない。今回の速やかな対応を見て、5年前の吉田調書問題での大失敗から社会ときちんと向き合おうとした姿勢は感じたが、やはり社内の意思決定の部分で改善されていない部分があると思う。きちんとした検証記事、場合によっては第三者の有識者の方にジャッジしてもらうなどしないと、読者の信頼がさらに失墜する可能性がある」と話した。

■堀潤氏「近い人だけが勝つんだとなると、近くにいたい、ということになっていく」

 
ジャーナリストの堀潤氏は「現場としては取材したいが、どうしても安倍さんとの関係が悪い。その結果、情報が得られずにこういう形になったのだとすれば、やはりここは一度、白旗を上げて仕切り直したいという思いがあったのではないか。誰向けのお詫びなのかというポイントもあるが、政治部長の名前でおわびをしなければいけなかったのは本当に苦しいと思うし、痛手だったと思う。おそらくNHKの岩田明子記者など、総理と非常に距離の近い番記者たちは"ほら見たことか"と思っているだろう。

もちろん事実を報道することは大切だと思う。それでも近い人だけが勝つんだとなると、近くにいたい、ということになっていく。取材者との距離をどう取るのか。難しい問題だが、"自分にとってのイエスは誰にとってのイエス"なのか、情報ソースを"関係者"や"関係筋"ではなく、名前をきちんと書くのかどうか。アメリカではとことんディベートをするテーマ。そういうところも、令和時代の日本メディアが議論し、改善していく点じゃないか」とコメントしていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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