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名医とは「陰性感情」に気づける医者【香山リカ氏書評】


『仮病の見抜きかた』/國松淳和・著

【書評】『仮病の見抜きかた』/國松淳和・著/金原出版株式会社/2000円+税
【評者】香山リカ(精神科医)

 どんなに食事や運動に気をつけていても、私たちはときとして体調を崩す。そして、数日様子を見ても回復しないときは、クリニックでも大病院でも、とにかく医者のもとを訪ねることになる。

 しかし、もしその医者があなたを診察し、「どこも悪いところはないですね。会社を休みたいだけじゃないですか?」と冷めた態度で言ったらどうなるだろう。「仮病だって言いたいのか!」と腹を立てるだろう。さすがにそこまでストレートに言う医者はいないと思うが、残念ながら似たような態度を取り、「これ以上、診てもらいたいならメンタルの方に行って」と追いやるように私のような精神科医を紹介する人もいる。

 総合診療と呼ばれる「原因のわからない病気の診断と治療」の第一人者である著者は、そんな風に一度は仮病と疑われた人たちに「待てよ」と臨床医としての目を向ける。そして、仮病と見えたその背後に珍しい感染症や神経の病気が隠れているのを発見したり、逆に奇病としか思えない症状や検査所見が失恋やサプリメントの過剰摂取によるものであると見抜く。

 それが小説仕立てになっているのだから、医療に興味のある読者はそれだけでも感心するだろうが、それ以上に目を奪われるのが、医師の「陰性感情」のパートだろう。プロであるべき医者も、患者のあまりに理にかなわない言動に接すると、ついネガティブな感情を抱いてしまう。そして、それが診断の目を曇らせてしまうことがある、というのだから恐ろしい。

 では患者としては、医者の機嫌を損ねないようにすればよいのか。それは違う。ここで必要なのは、医者側の「おっ、いま陰性感情が起きてるな」と気づく余裕だ。そう考えれば、名医とは高学歴とか論文の数が多いとかには関係なく、どんなに忙しい臨床の場でもキリキリしすぎずにどこかリラックスした表情で仕事をしている人、ということになるのではないか。

 私は医者としても、患者として医療を受ける側としても、この本から様々なヒントを手に入れた。

※週刊ポスト2019年7月19・26日号

仮病の見抜きかた

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