- 2019年07月10日 11:06
ヤマシタトモコ『違国日記』
2/2人に生き方を押し付けないが、倫理や正義、責任についての線引きがある。子どもを誰が引き取るかなどという無遠慮な会話の中に放置しない、両親の遺体の確認を子どもにさせないなどといった線引きが。
家族であった姉への憎しみは、特別と思えるほどのこだわりがあるのだが、それを槙生は自覚してよく飼い慣らしていると思う。だからこそ、その感情を脇に置いてその姉の娘を引き取ったのである。
朝の友人・えみりが家族から「いずれ(誰でも)結婚するんだから」と言われたことに違和感を覚えたことを、槙生は解いてしまう。朝にとっても、えみりにとっても、その家の文化に長いこととらわれていて、それを覆せないでいるのだが、槙生の家・槙生の言葉という「違国」はそのナショナリズムを解毒してしまうのである。
なんという開明的な君主であろうか。
4巻で、元の恋人だった笠町とラインをしながら笑うところの表情がとてもストイックでいい。
まさしくユートピアだと思う。
その心地よさゆえに何度も読み返したくなる。
4巻において、槙生が職業としている小説=虚構=物語というものは、「初めての違う国に連れていってくれるような……」と形容されている。それは「かくまってくれる友人」とも比喩されていて、「違国」が、槙生の人生において必要欠くべからざるものとして肯定的にとらえられていることは疑いない。
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「違国」は、現実の呪いを解き、相対化してしまう。この作品の中で積極的に素晴らしい土地として示されている。
砂漠
わたしにさみしく
見えた彼女の砂漠は
わたしには蜃気楼のように
まぼろしめいて遠かったが
本当は豊かで潤い
そしてほんのときどきだけ
さみしいのかもしれない
とは4巻における朝による、槙生=「違国」イメージである。
しかしながら、3巻ではまだ、
久しぶりの
たぶん両親をなくして
以来はじめての
おだやかな
いうなれば 幸せな夜だったように思う
わたしだけが 知らない国にいるのだと
いうような心地で眠らないのは 久々だった
と朝の心情吐露を読んで、ぼくはびっくりしてしまった。
えっ! 3巻だよ!? ここで「はじめて」!? おだやか!? 幸せ!? それまではそうでなかったのか!
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家族という共同体には、本当はこういう「違国」のような距離感やわきまえが必要なのではないか。「毒親」のような呪いができてしまう親密な空間を一旦なかったことにしたいと多くの人が思っているからこそ、この物語に憧れる人、心地よさを感じる人が少なくないのだろう。
*1:いつもだいたいぼくの昼は、レンチン米or夕べの残りのご飯、鯖缶、納豆、残りのサラダである。



