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家族を亡くしたのに"泣かない人"は冷酷か

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家族の死を悲しんでいないように見える人は、薄情なのだろうか。悲嘆学が専門の関西学院大学の坂口幸弘教授は「泣くことは、有益な対処方略ではあるが、泣かなければいけないわけではない。喪失との向き合い方は、人それぞれ違う」という――。

※本稿は、坂口幸弘『喪失学 「ロス後」をどう生きるか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。


※写真はイメージです(写真=iStock.com/PeopleImages)

「重大な喪失」は人生で何度も経験するものではない

「これからどうやって生きていけばよいのかわからない。何もする気がしない」
「前向きにならないといけないとは思っているけど、それができない」
「誘ってくれる人はいるが、外に出かける気分ではない」

大切なものを失ったときに、このように深く落ち込み、何事にも無気力になることは自然である。身を切るような悲しみや、湧きあがる怒り、言葉にできない苦しみもあるだろう。自分の人生が終わったように感じ、先のみえない絶望感に、生きていても仕方がないと思うことさえある。自分でも驚くほど落ち込み、制御できないくらいの感情を抱くのは決しておかしなことではない。失ったものが、自分が意識していたよりもずっと大事なものであった証である。

重大な喪失は、人生のなかで、そう何度も経験するものではない。たとえば、配偶者や子どもの死に直面するのは、ほとんどの人にとって初めての体験である。それゆえ、「このつらさがいつまでも続くのではないか」「自分は人とは違うのではないか」などと不安になることもありうる。

「夜がつらい」人も「朝がつらい」人もいる

遺族の集まりにおいて、一日のなかで、いつ頃に気持ちがつらくなるのかという話題になったことがある。配偶者を亡くして一人暮らしとなったある女性は、「夜がつらい」と話された。日中、明るいうちはいいが、暗くなるとたまらなく寂しくなるという。参加していた他の遺族の方も深くうなずいていた。一方で、「朝がつらい」という方もいた。目が覚めて、パートナーがいないという現実をあらためて実感することが耐えがたいという。これにも同調する声があがった。

人によって受けとめ方は異なるであろうが、同じような思いや体験をしている人は自分以外にも必ずいる。一人ひとりの体験は決して同じではないが、たいていの場合、自分の体験が異常であると心配する必要はない。

「地べたを這うような日々は、終わりが見えなかった」

国立がんセンター名誉総長の垣添忠生氏は、奥様をがんで亡くされた後、つらい気分を麻痺させるため、酒浸りの日々だったという。「我ながら、良く生き延びたものだと思う。死ねないから生きている。そんな毎日だった。(中略)地べたを這うような日々は、終わりが見えなかった。永遠に続くのではないかと絶望的になった」と当時を振り返っている。

同じく奥様をがんで亡くされた川本三郎氏は、垣添氏との対談のあと、「理知的なお医者さんでも妻の死のダメージは大きいのだなと、ある意味、安心した」と著書で述べている。川本氏も、妻の死後、何もする気になれず、家のなかは散らかっていて、人に会う気もせず、軽いうつ状態だったかもしれないと述懐している。

重大な喪失に直面してひどく落ち込んでいたとしても、多くの場合、その状態は異常ではないし、今のままの苦しみがいつまでも続くわけではない。

喪失との向き合い方は「生き方」に通じる

重大な喪失に直面して落ち込んでいると、周囲の人が心配して色々なアドバイスをしてくれるかもしれない。過去に同じような体験をした人から、みずからの経験を踏まえた助言が与えられることもある。周囲からの気遣いはありがたい反面、「人からあれこれ言われるのはイヤ」という人も多い。

重大な喪失にはそれぞれの特性や状況があり、直面した人の受けとめ方や反応、向き合い方も大きく異なる。喪失に対してどう反応し、どう向き合うのが正しいのかを一律に定めることはできない。喪失体験は、きわめて個人的な体験である。他の人にとっては役に立つ助言でも、自分にはそうでないこともある。

喪失にどのように向き合うのかは、人生をどのように生きるのかに通じる。生き方に一つの正解がないのと同様、喪失への向き合い方にも絶対的な解があるわけではない。「今の自分」には合わないことでも、しばらく時間が経ってから、受け入れられるようになることもある。

同じような体験をした人の話を聞いたり、手記を読んだりすることで、みずからの喪失体験を客観視し、これからの歩みに向けてヒントが得られることもたしかにある。そうはいっても人それぞれ体験が異なるのだから、自分の考えとは違うと感じる部分も必ずある。他者の考えや助言にそのまま従う必要はなく、基本的には自分が良いと思える向き合い方でかまわない。本記事も当事者の声や文献資料などに基づき、喪失体験について論じているが、異なる考え方や向き合い方を否定するものでは決してない。

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