記事

国際テロとも戦えぬ日本 集団的自衛権の禁止とは 5

2/2

2005年には時の日本政府が国連安保理の常任理事国入りを真剣に試みた。この動きに対しアメリカ国務省のニコラス・バーンズ国務次官は日本支援の要件として「国連の平和維持活動に軍事的に寄与できる軍事能力の保持」という条件をあげた。日本が自国は集団的軍事行動を自らに禁じているのに、国連安保理の常任理事国として他国にはその同じ行動を求める立場に立つのはおかしい、という意味の指摘だった。

2005年7月にはヘリテージ財団が再び日米同盟の強化についての報告書を出し、その最大の障害は日本側の集団的自衛権の行使禁止だと強調した。現状のままでは日本は同盟相手のアメリカが進めるグローバルかつ地域的な安保活動に協力できないとして、時のブッシュ政権が日本側に憲法第九条の解釈変更によって集団的自衛権を解禁することを求めるよう提案していた。

2006年には北朝鮮の核兵器開発をはじめとする挑発的な行動がさらにひどくなった。中国も軍拡をさらに進め、海洋領有権の拡大をもいっそう野心的に推進するようになった。アメリカはこうした動きへの抑止の対応を迫られ、そのためには日本にもより多くの、できれば対等な同盟パートナーとしてのフルの防衛協力を求めるようになったのだった。

日米両国間では共同のミサイル防衛を開発する計画も実行に移された。だがその過程でもまたまた日本の集団的自衛権の行使禁止がアメリカ側から批判的に提起された。北朝鮮が発射した弾道ミサイルも、日本は自国領土に落ちてくることが確実なときだけしか迎撃できず、アメリカ領土に向かいそうなミサイルには手出だしはできないという構図への不満だった。

2006年10月、ワシントンのもう一つの大手シンクタンク「AEI」が北朝鮮のミサイル迎撃のための日米共同努力は日本の集団的自衛権の禁止により大きく妨げられているとする報告書を発表した。「日本のその権利の禁止はアメリカにとって受け入れ難い負債だ」とまで断定し、日本側にその解禁をはっきりと要求していた。

要するに、アメリカ側からみれば、日本の集団的自衛権の行使禁止は日米同盟の深奥部に刺さったトゲなのである。いやトゲ以上に同盟の機能を構造的に抑えつけ、ゆがめ、アメリカ側だけに一方的な負担や犠牲を強いる原因ということになるのだ。

ただしアメリカ政府当局が公式かつオープンな形で日本政府に集団的自衛権の行使容認を求めることはなかった。一国の防衛政策の根幹、まして憲法という大きな課題にからむ案件で他国が露骨に要求や指示をすることは不適切だという判断からだろう。あからさまな内政干渉という印象さえ与えかねない。

それよりもさらに大きな要因としては日米同盟のアメリカにとっての重要性があげられる。アメリカ全体にとってアジアへの関与、そしてアジアの安定は不可欠である。その安定を保つための最大の手段は日米同盟の堅持だろう。いま確実に機能しているその日米同盟に根本にかかわる不満をぶつけて、同盟自体の機能を危うくするリスクは冒したくないという配慮だともいえよう。しかしトランプ政権はその自制自粛を破って、あえて日米同盟への不満を述べるにいたったわけである。

▲写真 日米安保条約は不平等だと繰り返し指摘するトランプ大統領。写真はG20大阪サミット時の日米首脳会談(2019年6月27日)出典:flickr; The White House

しかしアメリカ側にこれほど広く深く、しかも長年の間、定着した不満は日本にとってまた別の重大な意味を持つ。日本はなにしろいざという際の自国の防衛をアメリカに委ねているのだ。アメリカ側が万が一にも、日米安保条約による日本防衛の責務を果たすことに疑問を感じ、その誓約を果たさないという道を選んだとき、日本の防衛はまったくの弱体となってしまうのである。その場合は日本は中国のような異端の大国からの攻撃に対しても、あっさりと降伏してしまう以外に選択肢はなくなってしまう。国家としての独立も主権も失うのである。こんなリスクを冒してもよいのか。

アメリカ国民一般が日米同盟の真相を認識し、こんな不公正、不平等の同盟はもう止めてしまえ、という声を出す可能性もあるのだ。なにしろアメリカが他の諸国と結ぶ同盟のきずなでは、こんな片務的な関係はどこにも存在しないのである。

の続き。6につづく)

あわせて読みたい

「日米同盟」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。