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女が知らない男社会の恐るべき暗黙知とは

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「欲しいと思った幸せには全部、手を伸ばせばいい」

 石原は市民運動のほか、米寿を過ぎても消費生活アドバイザー関連の仕事や広告会社の企画編集に携わった。長男夫婦とともに暮らし、孫にも恵まれた現在、人生を振り返って何を思うのかを最後に聞いた。

 「やっぱり、人間は自分の思う道に進んで、やりたいことをやりきらなくては後悔が残ると思う。諦めることは簡単ですよ。若い人には諦めないで済む方法を考えて、思うように進んでいって欲しい。我慢なんてしないでいいし、欲しいと思った幸せには全部、手を伸ばせばいい。私はそうやってきた」

 特別な才能があったわけじゃないという。ただ、大陸で育ち、前向きな姿勢が身に付いていた。世間の価値観に合わせるのではなく、常に自分と向き合い、自分にとっての幸せを追求し続けた。楽天的だったし、「私がやらねば誰がやる」の精神で、ブルドーザーのように道を切り拓いた。そのために周囲から誤解され、軋轢を生んだこともあったが、後悔することは何もない、と、きっぱり言う。

一生働き続けると誓った日

 敗戦の日に、絶対に一生、働き続けると誓った。その誓いは果たせたと感じている。後輩女性に道を残せたという自負もある。

 「なぜ、働くことにこだわったか。それは、経済力をつけることがとても大事だと思ったから。でも、それは、お金に固執する、ということではないのよ。自分で納得のいく仕事をして、生きているという手ごたえを掴みたかったの。

 組織の中にいて、給料をもらえればいい、というような働き方は良くない。仕事の醍醐味は、やっぱり自分で掴み取るものだし、積み重ねで重要なポストに就くに従い、面白味が増していく。だから容易に辞めたり、中断しないほうがいい。働く女性に対する偏見が強かった時代に、血の滲むような努力をした先輩たちがいたことを知っておいて欲しい。日本社会は男女平等でなかったから女性が伸びなかった。でも、逆にだからといって女性をやたらと役職に就ける必要もない。まず実力があることが大事よ。

 じゃあ、どうやって実力をつけさせるか。どういう過程が必要なのか。それを真剣に考えて欲しい。女性にもまだ甘えがある。周囲に依存しようとするし、自分で考えようとしない。日本の経営者は失敗を怖れるけれど、それでは企業は沈没する。男女ともに社員がもっと自立した考えを持ち、それをぶつけあわないと」

 「女性の活躍」という言葉を自民党の総裁が主張する時代になった。女性を働かせまいとした時代を考えれば、社会は大きく変化したのだろうか。だが、石原は「状況はあまり変わっていない」と見ているという。

 「女性が輝く社会、なんて言っていますけれど、そんなの嘘でしょ。だって、まだ全然、輝いていないじゃないの。結局、男の人は怖いんじゃないのかな。女が思う存分本音を言って、本気で働いたら、自分たちの居場所がなくなってしまうから。

 力のある女の人がきちんと評価されてピックアップされることで、社会全体が伸びていくのが理想だと私は思う。実力のない女をポストに就けたりすると、結局、その人が潰れるし周囲が混乱するだけ。まあ、バカな男が権力を持つより、バカな女のほうがまだいいかしら」

 そう言うと、石原は豪快に笑った。

 働くことは生きること。石原は「ライフ」を純粋に追い求めた女性なのだろう。

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石井 妙子(いしい・たえこ)
ノンフィクション作家
1969年、神奈川県生まれ。白百合女子大学卒、同大学大学院修士課程修了。2006年に『おそめ 伝説の銀座マダム』(洋泉社、09年新潮文庫)を刊行。綿密な取材に基づき、一世を風靡した銀座マダムの生涯を浮き彫りにした同書は高い評価を受け、新潮ドキュメント賞、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補作となった。16年、『原節子の真実』(新潮社、19年新潮文庫)で第15回新潮ドキュメント賞を受賞。19年、「小池百合子『虚飾の履歴書』」(『文藝春秋』2018年7月号)で第25回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞。著書に『日本の血脈』(文春文庫)、『満映とわたし』(岸富美子との共著・文藝春秋)などがある。
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(写真=iStock.com)

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