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小泉進次郎の「年金2000万円」演説にロスジェネが感じたすきま風 「100年後のことはわかりません。そして不安がゼロになるとも言いません」――ルポ参院選2019 #2 - 常井 健一

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小泉進次郎は「上」と「下」どちらの味方か? 参院選で地金があらわになる から続く

 秋田県横手市の食堂で出てくる焼きそばは、甘辛いソースで炒めた麺の上に目玉焼きが載り、福神漬けがそっと添えられている。B級グルメの聖地として名高い地方都市に、自民党厚生労働部会長の小泉進次郎が現れた。参院選が公示された7月4日、彼は夕方6時過ぎからの約15分間にわたり、自民党候補の応援のためにマイクを握った。

「先ほどみなさんと握手して回ってきた時に、いろんな声をかけていただきました。『こないだ秋田でやったオヤジさんの講演を聴きに行ったよ』と言った人もいたし、中には『ハズキルーペのお兄ちゃんを見に来たよ』と言われました。だけど、私の兄が、アレです。老けているからよく間違えられるけど、私が弟です」


2年前、小泉は飲み屋に深夜ふらっとやってきた

 こんなフレーズから幕を開けた令和の新「小泉劇場」。初日最後の会場となった場外馬券場の大駐車場には約400人の住民が詰めかけていた。

「今日、演説が終わったら来るよと聞いていたけど、来られなくなったと連絡があって」

 こちらの声の主は、市内にある居酒屋の男性店主。コンロに乗った焼き鳥に向かいながら、カウンターの私に呟いた。

 2年前の衆院選、小泉は同じ場所で演説をした際、横手焼きそばの名店として知られるその飲み屋に深夜ふらっとやってきた。店の入り口には、その時に撮った記念写真が飾られている。

 小泉は全国遊説の移動中にご当地のB級グルメを嗜むのが大好きだ。「選挙中のB級グルメはA級グルメに匹敵する」とも聞かされたことがある。私は当然、演説後に彼がその店に立ち寄り、横手焼きそばを頬張ると思い、試しに暖簾をくぐってみた。

マイクを握る前に必ず寄り道をする

「そういうわけで、たぶん今日は来ないと思うよ」

 店主は言った。

 木曜日の夜7時だというのに、有名店のカウンター席には私の他に2人。広い座敷には1組しかいなかった。私がおなかを満たしてから、30分後に店を出ると市役所に近い駅前の大通りには誰一人歩いていなかった。さっきまで近くの演説会で笑っていたあの大観衆は、一体どこに行ってしまったのだろうか――。

 小泉進次郎の全国行脚を密着取材していると、地方の現状を垣間見ることができる。

 小泉の演説は、初めに「ご当地ネタ」を披露して盛り上げることで知られているが、マイクを握る前に必ず寄り道をする。会場周辺の名所・名跡を訪ね、偉人の銅像や古い記念碑を眺め、展望台に上り、名物を食べ、ご当地飲料を飲み、現地の人と語らう。所要時間は5分から10分。党が用意する現地のデータ集を当てにせず、自分の五感を頼りに実感のみを声にしているのだ。道中での思わぬ出会いや景色が豊饒な言葉を生み、聴衆と政治との距離を縮めてきた。

「さっき車で、この伊万里の街を走りました。玉屋というデパートが閉まっている。商店街のシャッターも締まっている。人が歩いていない。全国いろんな所で見る景色だな。ちなみに私の神奈川県横須賀市でも、地域のデパートが数年前に閉鎖されました。当然かもしれませんね。今はね、インターネットで何でも買える。東京も地方も関係ない。ほしいものはスマホから手に入る。そういった現象はアメリカにもあります。世界的な現象かもしれません」(7月8日、佐賀県伊万里市)

バックパッカーの旅に通じるような牧歌的な移動

 自民党の演説会なのに、安倍政権の姿勢に批判めいた言動が飛び出すのも、そういう地道な努力から生まれた小泉演説の特徴だと思う。「アベノミクスの実感ありますか」、「突然の解散は腑に落ちないでしょ」、「軽減税率は必要ですか」などと問いかけ、野党的な発言を厭わない。

 昨年からしきりに唱える「これからの政治は人との違いを強みに変えられるかが大事」というフレーズは、多様性の重視を訴える立憲民主党代表の演説を聴いているかのような気分にもさせられる。そんな彼特有の立ち位置が圧倒的多数の無党派層に受け、国民目線に近い政治家というイメージが広がった。

 移動中のおもむきも、かつてはバックパッカーの旅に通じるような牧歌的なものだった。プラットフォームのベンチに座り、時には在来線の電車に飛び乗る。満員電車の中で立ちながら目的地に向かうこともあった。私は自然体の「近さ」こそがこの政治家の強みだと思ってきたが、人気の高まりとともにそれは「リスク」に変わったようだ。

 党本部は将来を担うホープを傷つけまいと、神経をすり減らしている。2017年の衆院選あたりから演説会場で大勢の警官を見ることも増えた。総理遊説のように会場周辺に物騒な鉄柵が張り巡らされるケースはまだ少ないが、以前と比べれば、小泉と聴衆との距離は遠のいた。小泉自身も「アポイント」のない場所を自由に闊歩したり、行きずりの老若男女とゆったりと語らったりすることも少なくなった。

「これだけ期日前投票の投票率が上がれば、最初の3日が勝負だ」

 選挙戦初日の夜も、小泉は横手の居酒屋には寄らず、逗留先の温泉旅館に向かったようだ。私は以前の取材中に聞いたこんなぼやきを思い出した。

「今まではできたのに、できないことが増えている。私の秘書、スタッフ、党職員などいろんな方が動かないと一人では動けなくなっている」

 人気者も楽ではない。

 小泉は公示後2日目、岩手県内の演説会場で「選挙のルールが変わった」と声を上げ、「これまでは選挙は最後の3日が勝負だと言われてきたが、これだけ期日前投票の投票率が上がれば、最初の3日が勝負だ」と訴えた。

 実際、前日に回った秋田県では、2年前の衆院選で期日前投票の投票率が31.93%となり、全投票者の半数以上が期日前を利用した。小泉も演説の中では必ずと言っていいほど「どうかこのまま投票所に行ってください」と勧めている。

 だが、この参院選の序盤戦を見る限り、過去の大型国政選挙よりも小泉が応援演説に立つ回数は少ない。公示直後の3日間でマイクを握った回数を前回の参院選と比べると、2016年は14回(5選挙区)だったが、今回は10か所(同前)。土日のスケジュールを比較すれば、前回は6選挙区の11回だったのに対し、4選挙区の7回にとどまる。

 候補者たちが空中戦に力を入れる選挙サンデーの7月7日でさえも、激戦区の大分県に向かって羽田空港を出発したのは11時。今までにないスロースタートだった。

パイプ椅子を並べた客席には空席が目立った

 全国津々浦々で語られる小泉進次郎の言葉を聴き続けて5日間、前回までと違う空気を感じる。同じ地点で演説した過去の様子と比べても、集客力が1~2割ほど落ちているように見えるのだ。

 6日土曜日、横浜みなとみらい地区のどまんなか、桜木町駅前で行われた街頭演説が象徴的だった。週末の夕方5時過ぎという「ゴールデンタイム」なのに、小泉を見に来た人は300人もいない。大勢の通行人が小泉の姿を見ても足を止めることもなく、目の前を通り過ぎていった。

 このことだけで「小泉人気に陰りがある」と言うつもりはない。自民党の楽勝ムードや告知不足も関係している。4人区の神奈川県選挙区は公明党現職も立っている地域なので、創価学会関係者の大動員も望めない。神奈川は小泉の地元だから、目新しくもないのだろう。

 だが、翌7日日曜日の夜7時から佐賀市内の体育館で行われた演説会でも、閑古鳥が鳴いていた。立候補している自民現職は有利な戦いを演じているものの、約500脚のパイプ椅子を並べた客席には開始時間を過ぎても空席が目立った。客席と演壇の間には200人ほどが座れる大きなござも敷かれていたが、腰を下ろしている人は30人ほどしかいなかった。

 演壇に立った小泉は、体育館に吹き抜ける「すきま風」を感じ取った。

「私、さっきから気になっているのは、ござと客席の間にある『空間』なんですよ。だから、私が動きますから、みなさんと距離があるのはいやですから、私が間に入って、みなさんに近いところからやらせていただきます」

 冒頭にそう切り出し、ござに上がり込んだ。そして、候補者と一緒に客席最前列の前に立ったのだ。そうすることで閑散とした会場を、四方八方からチャレンジャーを見つめる「リング」のようなスタイルに変えた。小泉が「みなさん、日曜日でもう遅い時間だから早く帰りたいでしょ」と、マイクで突っ込みを入れるほど疲れを見せていた聴衆たちの目が、一瞬で変わるのがわかった。

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