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聴衆に歩み寄る小泉進次郎スピーチの真骨頂は「土と緑」にあった 理想の政治家像を地方の住民と対話から作り上げていくという「物語」――ルポ参院選2019 #3 - 常井 健一

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小泉進次郎の「年金2000万円」演説にロスジェネが感じたすきま風 から続く

 これまで小泉進次郎は、応援演説の会場を選ぶ際、誰でも行くような大都市の中心街やロードサイドのショッピングモール前でマイクを握ることをできるだけ避けてきた。移動に時間がかかってもあえて過疎地に足を運んできたのである。

聴衆の目線に近い高さから訴える配慮を貫いてきた

 参院選の場合は衆院選よりも回るべき選挙区の数も限られているため、奥地に入る移動時間が確保しやすい。小泉は人に来てもらうよりも自ら出向く姿勢を強調し、街宣車の上よりも聴衆の目線に近い高さから訴える配慮を貫いてきた。2013年の参院選は「1日1島」の離島巡り、2016年の前回は「1日1作物」の農村巡りを計画し、既存の政治家にはない個性的な旅を演出してきた。

 だが、今回はそういう手の込んだ仕掛けがない。「年金」や「教育」という暮らしに身近なテーマを掲げながらも、自民党が誇る高機能街宣車「あさかぜ」を使い、凡百の政治家のように聴衆を見下ろすようなスタイルが目立つ。遊説日程というものは、小泉の一存では決められないものだが、それでも従来は自分の思いを反映させ、独自のカラーを出すことにこだわってきた。

 7月4日~8日までの序盤、小泉が1日当たり4か所ほど回る中、私は毎日2か所で眺めてきた。小泉の真骨頂が色濃く出ていたのは、公示後2日目にあった朝一番の演説会だった。

農道の傍には防雪柵が備えられている

 岩手県西和賀町(人口約5600人)。秋田県横手市から県境を越えた先にある、1000メートル級の奥羽山脈に囲まれた小さな温泉郷だ。東北新幹線が停まる北上市からは車で1時間の距離にある。国から「特別豪雪地帯」の指定を受けるほどの雪国でもあり、農道の傍には防雪柵が備えられている。

 数千人ほどが住む山奥の集落の中心に、平屋建てのスーパーマーケットがある。演説会場となったその駐車場にはプラスチック製のミカン箱が置かれ、開始30分前から老人たちが座りながらおしゃべりしていた。そこに笑顔でやってきたスーツ姿の小泉はそのミカン箱に立つと思いきや、品川ナンバーの「あさかぜ」の上から町人たちを見下ろすようにマイクを握った。だが、それでも聴衆との距離が近いように感じた。

「私たちのことを言ってくれている」と感じさせる話し方

「昨日の晩、西和賀の宿に泊まりました。何に驚いたか。カエルです。私の地元は神奈川県横須賀市ですから、夜中、あんなにカエルの声を聴いたことがないんです。本当に驚いて、宿が演出のためにCDをかけたんじゃないかと思った。それだけすごかったんですよ。

 それで、朝起きて宿の外の水が溜まっているところを見たら、あのカエルのゼリー状の卵がありました。その中の一つを見たら、オタマジャクシがプルプル、プルプルと必死に飛び出そうとしていて、私は『出ろ、出ろ』と念じて、生まれて初めてポンッと出る瞬間を見た」

 小泉は本来、高尚な説明調の演説よりも、目の前にいる人々に「私たちのことを言ってくれている」と感じさせる話し方を得意とする。「物語」をつくるのがうまいのだ。彼が頭角を現すきっかけとなった東日本大震災の復興支援では、「言葉に体重と体温を乗せること」を心がけ、被災者たちの心服を得た。

 だが、最近得意とする社会保障論を語り始めると、ネット上にはすぐに「おまいう」の突っ込みコメントが溢れ出す。華麗なる一族のイメージが邪魔し、「生活実感」に乏しく見えてしまうせいだろうか。今回の演説でも年金問題を語る際、個人の自立や選択の自由を強調するあまり、本当に困っている人たちに「私を見てくれている」と思わせる、物語づくりがうまくいっていないようにも聞こえた。

いきなり「世界」へ飛んでいった

 さらに、年金に続いて取り上げるのは、このような話題だ。

「われわれが問われているもう一つは、アメリカと中国という2つの大国に挟まれている我々の国が何を強みに生きていくかということです。アメリカ、変わってきましたね。中国、すごいですよ。人口多い。軍事力すごい。経済力、テクノロジー、キャッシュレス社会、データ管理、自動走行。一部の技術は日本を超えて最先端ですよ。ただ、いつ剥奪されるかわからない個人の自由と選択。中国みたいな世界をみなさんは望みますか」

 身近な話から、いきなり「世界」へ飛んでいった。

「私たちの日本は自由なことを話しても捕まることはない。政治家が皆さんの前で話をする時にさっきはエールをもらいました。私たち政治家にヤジったって、自由なんです。これが民主主義なんです」

 小泉は、「自由」と「民主」いう概念の大切さを説きながら、中国を凌ぐ日本の強みを示し、「自由」「民主」党の存在意義をアピールしたいようだったが、さすがに聴衆の反応が薄いと察したのだろう。2日目以降は、その代わりに教育政策を優先して訴えるようになった。すると、子どもを抱えた母親や若い世代の聴衆の反応が良くなった。

地方の至るところに改革への怨念が渦巻く

 巨大与党を代表する名弁士も、今回の参院選はチューニングに苦慮しているようだ。

 だが、過疎地に足を踏み入れると違った。

 私は小泉が農山漁村をくまなく訪ねる地道な努力から大衆的な人気を勝ち得ていくパターンを「土と緑の進次郎」の法則と勝手に呼んでいる。

 小泉が被災地や過疎地を歩く際、私の眼にはどうしてもその背後に父・純一郎のレガシーがちらついてしまう。父は、三位一体改革や郵政改革を巡って抵抗勢力から「地方切り捨て」のレッテルを張られ、郵政選挙では彼らを容赦なく叩き潰す冷血な刺客作戦を展開した。地方の至るところには当時の怨念が今でも渦巻き、選挙があるたびに自民党内の内紛や分裂を引き起こす温床にもなっている。

 息子はこうした政治的荒野に積極的に飛び込み、父譲りのイメージを緑色で塗り替えつつ、土の香りで包み込む。地方の人たちに寄り添おうとする姿勢に徹することで、温かみのある独自路線を敷こうとしているのではないか。

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