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有権者9億人を支える電子投票システムとは/世界最大の民主主義国インドの場合

世界的に「民主主義」がさまざまな脅威にさらされている。恣意的な選挙区割り、扇動的キャンペーン、ソーシャルメディアの操作、外部からのハッキング、他国からの干渉など、その手口はさまざまだ。そうした中、世界最大の民主主義国インドでは、約6億人が投票する総選挙が実施された。15年以上にわたり、「電子投票システムの安全性」を研究しているジョージ・ワシントン大学のポールヴィ・ヴォラ教授が、インドの選挙システムについて解説する。

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2019年春に行われたインド議会総選挙(*)では、選挙期間39日間のあいだに約6億人が投票。有権者の数は約9億人、投票率は約67%だった。

* 13億人が暮らすこの国の今後5年の指導者を選ぶ世界最大規模の選挙。全体の投票期間(2019年4月11日〜5月19日)はフェーズ1-7に分けられており、最終開票日は2019年5月23日。下院の議席数は543。選挙係員は1,000万人以上に及ぶ。

図:Furfur, translated by RaviC/Wikimedia Commons, CC BY-SA
選挙期間はインド全土で39日間に及び、地域により7日間の投票日が定められている。

長期に及ぶ投票期間中に集まった票を、国はどのように管理・集計しているのだろうか。インドの選挙では20年以上に渡り、国内で設計・製造された電子投票機「EVM」が使用されており、その数は約400万台にも及ぶ。それらが、僻地を含む100万ヶ所もの投票所に設置されるのだ。 インドで最初に電子投票機が導入されたのは、1982年のケララ州選挙。今では全国レベルで、さまざまな地域・日程で導入されている。


電子投票機による投票の流れ

投票所に来た有権者は写真入りの身分証明書を提示し、係員が選挙人名簿と照らし合わせる。電子投票機は「コントロールユニット」と「投票ユニット」から成り、係員が「コントロールユニット」の青いボタンを押すと「投票ユニット」のロックが解除され、投票ができるようになる。

「投票ユニット」の画面はとてもシンプル。各ボタンの横に候補者名とシンボルが表記されており、投票したい候補者のボタンを押すだけ。ボタンを押下すると、ビーッという音が鳴り、票がコントロールユニットに保存される。選んだ候補者名が画面上に7秒間表示されるとともに、印刷された紙がプリンターから出力され、それを見て間違いなく投票されたことを確認する。紙は「VVPAT」という鍵がかかった箱に入れる。これで投票完了だ。

当該投票所の投票期間が終わると、係員がコントロールユニットの黒いボタンを押し、電源を落としてケーブルを取り外す。開票日までは、電子投票機と記録紙を入れている箱は蝋(ろう)とテープで封をし、当該選挙の候補者代表のサインが添えられる。そして武器を持った警備員の監視下で保管する。


インド全土の選挙期間が終わり開票する段になると、電子投票機を再び開き、各コントロールユニットの画面に表示される投票数が読み上げられる。選挙スタッフは各機の投票数を手動で集計し、その選挙区の投票結果とする。



“不正行為の可能性”と“拭いきれない懸念

” インドの電子投票機は、米国で使われているソフトウェア集約型とは違い、「投票」のためだけに設計された特注のハードウェアとプログラムで稼働する。セキュリティの脆弱性が見つかる度にアップデートが必要となるWindowsのような標準OS(オペレーティングシステム)は使用していない。コンピューターネットワークやインターネットの接続も不要、「コントロールユニット」と「投票ユニット」を5メートルのケーブルでつなぐだけで使用できる。アルカリ電池式のため電源につなぐ必要もない。

投票の記録・集計中に起こり得る不正行為への保護機能も提供されている。インド選挙管理委員会も、この電子投票機は「不正に強い」と繰り返し表明しているが、「不正操作は可能」とする学術研究もある(*)。設計がシンプルなだけに、ケーブルを通る信号を傍受・変更するなど単純な攻撃を受ける可能性がある。インド選挙管理委員会は、独立機関による安全性評価を公開していないため、実のところ何ができて何ができないのかが明らかになっていない。そのため、選挙に敗れた政党は、不正行為があったのでは、機器に問題があったのではと疑いがちだ。

*『Security analysis of India’s electronic voting machines』(Scott Wolchok, Eric Wustrow等の共同研究)

電子投票機を製造するのは国営企業2社

私を含む研究者らは、機械の製造工程で物理的な不正改造が行われても、選挙前の機器テストで検出されないのではと踏んでいる。

電子投票機のソフトウェア設計・プログラミング・テストを実施しているのは、インド国有の電子機器メーカー、バーラト・エレクトロニクス社(BEL)とエレクトロニクス・コーポレーション・オブ・インディア社(ECIL)だ。機械内部のチップは国外で製造されている。初期モデルではチップ製造業者がコード書き込みを行っていたが、現在は先の国営電子機器メーカーが実施している。製造・テスト・メンテナンス工程において、偽造チップの組み込みや、ハッカーが投票結果を操作できる部品に入れ替えるなどの行為がなされる可能性もある。

インド選挙管理委員会は、投票機は頻繁にテストしているため不正行為があればその際に検出されるはずと主張。また、候補者の代表は選挙直前に行われる模擬選挙に参加するため、そこでも機器に問題がないことを確認できるとしている。

しかし、テストですべての問題が見つかるわけではない。テストで発見されないような不正が行われる可能性は依然残る。

手作業による検証対象は全機器の2%未満どまり

「VVPAT」に保管されている紙片を使って、不正アクセスはなかったかを確認する対策もおこなわれている。選挙区ごとに5台の電子投票機で、印刷紙を手作業で集計したものと機器側の投票結果を照らし合わせることで検証するのだ。対象となるのは各選挙区の約1~2%の機械にすぎず、野党は電子投票機の半数で検証をおこなうことを最高裁判所に求めているが、今回の選挙では実現しそうにない。2013年には最高裁判所が選挙委員会に対し、「公正な選挙プロセス」の構築を命じた。

電子投票システムは機能的かつ便利なものだが、政府役人も監視員も「改ざんされる可能性はない」ことを前提としてはならない。選挙委員会もテストと改良を重ね、独立機関による検査結果を公表すべきである。しかし、不正を完全に防げる技術などないのだから、いかなる場合でも、選挙結果の手作業による検証を行い、選挙結果の「正しさ」を確認する必要がある。

By Poorvi Vora(ジョージ・ワシントン大学コンピューター科学教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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