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中学受験で足を引っ張る「理系父」の口癖

理系の父親が算数を教えると、子供の成績がガクッと下がることがある。なぜなのか。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんは「数学のやり方で算数を教えてしまうと、子供の足を引っ張ることになる」と指摘する――。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Rawf8)

■夏休みに子供の足を引っ張る「理系父さん」

毎年夏休みになると、算数の成績がガクッと下がる子がいる。塾での学習量が増え、理解が浅いまま宿題をこなすだけの勉強になってしまっているのが大きな原因だが、その背後で子供の足を引っ張る存在がいる。

理系父さんだ。

わが子の中学受験を応援したいが、日頃は仕事が忙しく、勉強を見てあげることができない。いつも母親に任せきりで申し訳ないという気持ちもある。そこで、夏休みだったら、自分が勉強を教えてあげられると張り切るのだが、それが成績下降を招いてしまうことを本人は知らない。

一般的に中学受験は国語・算数・理科・社会の4教科の総合点で合否が決まる。だが、理社と比べて国算の配点が高いこと、特に算数は一問あたりの配点が大きいことから、中学受験では算数の得点が合否のカギを握ると言われている。ところが、中学受験で求められる算数は、小学校の授業で習う内容よりもはるかに難度が高く、特殊な解法の習得も必要になる。そこで算数に強くなることが合格への近道となり、どの家庭でも算数の勉強に多くの時間を割くことになる。

■「禁断の方程式」を教えてしまう

「わが子を助けてあげたい気持ちはあるけれど、私も主人も文系出身なので、見てもさっぱり分からないんです。理系出身のお父さんがいる子がうらやましい」

文系の親の多くはそう口にこぼす。だが、実際は理系父さんが関わることでうまくいかなくなるケースもある。禁断の方程式を教えてしまうからだ。

中学受験の算数は、小学校で習う内容と大きくかけ離れてはいるものの、学習指導要領の範囲を超えることはできない。そのため、数学で使う方程式は原則御法度だ。しかし、それをわかっていない理系父さんは、いつまでも問題が解けないわが子を見て、「なんでそんなまどろっこしい解き方をするのだ? こんなの方程式で解けばいいじゃないか」と、方程式を教えてしまう。

特に地方の名門校出身の父親は、中学受験の経験がないため、その傾向が強い。早く正解を出す上では、その方が効率はいい。だが、受験算数が求めている力は効率ではない。

塾で習った考え方と父親が教えた方程式で頭が混乱する子供。そして、理解が浅いまま、与えられた大量の宿題を終わらせることだけで精一杯になり、知識が定着されないまま、疲労感だけが蓄積される夏休みになる。

■算数と数学の「考え方」はまったく違う

小学校で算数を習い、中学から数学を習う。こうした流れから算数の上に数学があると思っている人は多い。だから、数学が得意な父親が算数を教えることはたやすいと思われがちだ。確かに算数は、数学の土台となる基礎を学習する。しかし、両者は同じ数を扱っても考え方がまったく異なる。

算数とは、数少ない道具を使って、それらをいろいろ組み合わせながら答えを探すものだ。そこでは「今わかっていることから、次は何がわかる?」「それがわかっているなら、何がわかる?」といった頭の使い方をする。順を追いながら答えを見つけていくため、道筋がはっきりしていないと答えを出すことができない。ビジネスでいうと、「今あるリソースで何ができるか」を考える創造的な発想だ。つまり、外へ考えを広げていく拡大思考だ。

一方、数学は、決まった形の方程式の中に数字を入れて、計算をする。「答えを出すためには、どういう式ができればいいのか?」「条件を当てはめられるか?」といった頭の使い方で、多くは公式に終結させる。テンプレートにそって作業を進めていく手法と捉えることができる。つまり、中心に向けて絞り込んでいくという集約思考だ。

■受験算数は「道具を使って工夫しながら解く」もの

このように、両者は考える方向が違うのだ。受験算数は結論を出すよりも、限られた道具(条件)を使って、工夫をしながら解くことに意味がある。使える道具が少ないからこそ、考え工夫する力が鍛えられる。その試行錯誤する姿勢こそが、難関校をはじめとする多くの学校が求める生徒像であり、その力があるかどうかを見極めるために入試が存在するのだ。

しかし、中学受験を経験していない理系父さんは、そのことを知らない。一方、中学受験を経験しているお父さんの多くは、幼い頃の経験は大学受験の数学の学習経験に上塗りされている。

小学生の頭脳は発展途上だ。高校生なら無意識に気づくことでも、発展途上の頭脳では気づかないことは多い。

ほとんどの理系父さんが経験したセンター試験の数学を思い出してほしい。あの種類の数学で9割以上を得点するための王道は、適切なレベルの問題集を一問残らずにつぶしていくことだったと思う。出来の良い理系父さんは、「その問題」を解くことで「そのような問題」を解く力を身につけられたのではないだろうか。でも、それは「その問題」を解くことで問題の特徴をカテゴライズし、他の問題との類似点と相違点に気がつく大人の頭脳だからこそ可能な学習法だったのだ。

■子供の知識に結びつける「物語」が必要

新たに収納しようとする知識は、過去に収納された知識に結びつくことで記憶定着される。「おっ!なるほど」というあの快感がその瞬間だ。

「見かけは違うが、やり方はあれと同じだな。シメシメ!」

「同じに見えて、その違いに気づいた俺ってエライ!」

「もしかして、この理由はあれと同じか?」

これらが過去に収納された知識に結びつこうとする直前や直後に起こる頭脳の動きだ。出来の良い高校生の頭脳では、それが自然に無自覚に行われ、記憶を強力にサポートする。ところが、小学生の子供の頭脳では、それはなかなか起こらない。収納すべき知識に結びつける相手となるべき、すでに収納された知識が少なく、遠く離れた場所にあるからだ。

中学受験算数を教えるプロは、遠く離れた場所にある既習知識に結びつけることに心を砕く。「ピラミッド相似」「チョウチョ相似」というような解法の名前の出来不出来が学習効果を左右する。三角形とピラミッドやチョウチョという子供が知っている知識に結びつける物語が大切なのだ。

■「算数っておもしろいですね!」

子供を混乱させ、成績を下げた理系父さんのほとんど全員が、大学受験学習の自分の成功体験を押しつけていた。「適切なレベルの問題集を一問残らずくり返し解いて、必要な点数を確保した」という自分の成功体験しか知らないからだ。

一方、数は少ないが、子供の成績を上げられる理系父さんも確実に存在する。

ある家庭で、子供を横に座らせ、正面に理系父さんに座ってもらって、「速さのつるかめ算」を教えていた時だ。

私「……だから~になるね。そうすると、この後はどうすればいい?」

子供「面積図!」

私「エライ! じゃあ、やってごらん」

(子供は得意気に面積図を使って解いている)

理系父さん「ずるい! そんな方法があるんですね!」

私「速さと時間の座標平面での面積が距離ですから、理にかなった方法だと考えています」

理系父さん「なるほど、積分して面積や距離を出しましたからね」

このように授業が進み、終了間際に、理系父さんはこう言った。

理系父さん「算数っておもしろいですね! 方程式でゴリゴリ解いていたものが、見事に解けるんですね。奥が深い!」

■理学部的発想にも、工学部的発想にも触れられる

この後、子供の成績は順調に伸びていった。それと共に、理系父さんの「なぜそうなるんですか?」「なぜその方法で解けるんですか?」「その方法は他にどんな問題に使えるんですか?」の質問が急増した。この「なぜそうなるのか?」は、現象の原因を研究する理学部的発想につながり、「どんな問題に使えるのか?」は、現象の利用を研究する工学部的発想につながる。

はじめは、私の理系父さんへの返答を手持ちぶさたに聞いていた子供が、だんだんと興味を持って聞くようになった。この子供は、中学受験算数の学習を通じて、理学部的発想と工学部的発想の両方を感じとることができたのだろう。近年の入試で重視されつつある「試行錯誤する力」とは、実はこの2つの発想を指す。

数学の思考とは大きく異なる中学受験算数。「小学生の子供になぜこんな難しい問題を出すのか?」「なぜこんなまどろっこしい解き方をさせるのか?」など、さまざまな声が聞かれるが、使える道具が少ないからこそ、工夫する力が育つ。

私は、中学受験算数とは工夫する過程で学習の楽しさを味わいながら、将来必要となる頭の使い方を学ぶことができる優れたものだと感じている。あくまでも正しく学習させればだが……。それを伝えていくのが、長年受験算数を指導してきた私の役割だと思っている。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美 写真=iStock.com)

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