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特集:貿易戦争時代の日本の選択

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先週末は大阪G20首脳会議が行われ、注目の米中首脳会談も行われました。勢い余って第3次米朝首脳会談まで実現してしまい、「トランプ劇場」はあいかわらずの賑わいぶりです。他方、米中貿易戦争は「一時休戦」となったとはいえ、問題解決には程遠い状態。「8月合意」が噂される日米経済協議も気になるところです。

さらにG20閉幕直後の今週7月1日、日本政府は対韓国輸出規制を公表しました。今度は日韓間で貿易戦争が始まりそうです。「自由でルールに基づく国際秩序」という理想が形骸化し、国家間の「力と力」が衝突する時代において、日本はどんな形で通商問題に対処していくべきなのでしょうか。

●最初から期待薄だった米中首脳会談

大阪G20会議の正式メンバーは19カ国+EU代表である。二国間会議だけで19×18=342通りの組み合わせが成立する。さらに招待国(4か国)や地域代表国(4か国)、国際機関のトップ9人も入るので、合計すると途方もない数になってしまう。G20の貴重な空き時間を使って、「誰と会って誰と会わないか」は高度な政治的判断と言えよう。

議長国である日本の安倍首相は、G20メンバーのうち仏、EU、印、亜、豪、中、独、英、米、インドネシア、南ア、伯、ロ、サウジ、トルコの15か国と首脳会談を行っている。それ以外にもセネガル(NEPAD議長国)、エジプト(AU議長国)、シンガポール(招待国)、スペイン(招待国)、タイ(ASEAN議長国)、さらに国連のグテレス事務総長と会談している。個別の夕食会は3件(仏、中、トルコ)、昼食会も2件(EU、サウジ)、さらには「立ち話」5件も含む。とにかく効率よく時間を使ったことが窺える。 と、これだけ大勢の首脳に会っていることを考えれば、日韓首脳会議が行われなかったことはいかにも異例であった。そのことが、今週の輸出規制問題の伏線となっている。

さて、そんな中で米国のトランプ大統領はどういう日程になっていたのか。ホワイトハウス付きの同行記者が本番直前にツィートしたものを以下、ご紹介しよう1


初日はモリソン首相(豪)。2日目は安倍首相、安倍とモディ首相(日印)、モディ、メルケル首相(独)、プーチン大統領(ロ)、ボルサナーロ大統領(伯)、そして最終日はサルマン皇太子(サウジ)、習近平主席(中)、エルドアン大統領(トルコ)となる。

これを見ると、米中首脳会談の時間が意外と短いことに気がつく。ランチの時間帯の1時間半、もしも協議が紛糾したら、エルドアン大統領を待たせることになる。協議が進展する期待があるのなら、次の予定はなるべく空けておくはずである。この日程だけで、「米国側は今回、中国に多くを期待していない」と想像がつくところである。

中国側の立場になってみると、6月には香港における「逃亡犯条例反対デモ」がどんどん拡大し、「通商問題どころではない」状態になっていた。人口が750万人の香港で、6月16日には200万人デモが行われている。これでは「香港の一国二制度は成功しており、不満がある人はごく一部」という従来の説明はどうみても破綻している。

さらに香港情勢には台湾が注目している。一時は、民進党からの再選出馬もおぼつかなかった蔡英文総統の支持率が急回復してきた。逆に国民党の候補者は、香港情勢について歯切れが悪くなっている。さらに7月11日から蔡英文総統はカリブ海4か国を歴訪し、その前後にトランジットで米国に宿泊するという。中国にとっては、これも看過しがたいリスクイベントとなる。果たして10月1日の建国70周年記念日を、習近平体制は盤石の態勢で迎えることができるのか。夏の「北戴河会議」辺りで、いかにも一波乱ありそうだ。

これでは通商問題どころではない。中国側は「貿易戦争は持久戦やむなし」の覚悟を固めているのであろう。逆にトランプ大統領は、景気や株価を意識せざるを得ない。となれば、どちらがより多く歩み寄るかは自明であった。

●困ったときは「トランプ劇場」で

トランプ大統領は当初、第4弾の追加制裁関税(3000億ドル×25%)を構えて中国側に譲歩を迫っていた。しかし対中輸入の「残り全部」の品目には、携帯電話やノートパソコンなどのハイテク製品から、家具や玩具、スポーツ用品といった日常製品までを含むので、米国経済にとっての影響が大き過ぎる。最初から単なる「脅し」であって、これを引っ込めたのは当然であろう。

逆にファーウェイ制裁を緩和するという決断は、大きな譲歩に見えるが実はそうでもない。米商務省が5月16日に同社をエンティティリストに加えたのは、大統領令によるものだから元に戻すことは簡単である。しかし昨年夏に超党派で成立した「国防授権法」に沿って、ファーウェイ社が安全保障上の脅威と認定されれば、当然、制裁は加えられる。

対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員は、6月29日に
「トランプ大統領がファーウェイ規制を外すのであれば、われわれが法律で戻さなければならない。大統領拒否権が使えない多数(=3分の2以上)で成立するだろう」
とツィートしている。議会の方が政権よりも「反中」になっている。今や中国から見て、いちばん味方になってくれそうなのがトランプ大統領、ということになるのではないか。

かくして米中通商摩擦はいったん休戦となったが、昨年12月のブエノスアイレス会談と違って、「次の締め切り」が示されていない。いずれライトハイザー代表と劉鶴副首相との閣僚級協議が再開されるだろうが、それはいつ頃になるのか。かかる不透明性は、ビジネス関係者にとってはまことに始末が悪い。

トランプ大統領はここで得意のサプライズを仕掛けた。大国の首脳ともあろうものが、ツィッターで「これから韓国に行くんだけど、今からお前、出てこれない?」と金正恩委員長に会談を呼びかけたのである。メールか電話で打診すればよいものを、ツィートしたことでトランプ氏の全世界6165万人のフォロワーが固唾をのんで見守ることとなった。

「トランプ劇場」には実は一定の法則がある。それは「自分に注目が集まった時に、意外な行動に打って出る」というもので、今回もその典型だった。米中首脳会談で脚光を浴びているときに、惜しげもなく次のネタを振る。目先を変えることで3つの効果がある。それは、①次の行動がますます注目される、②メディアや視聴者が思考停止状態になる、③その前のことも忘れられる、である。習近平主席とのディールは、いかにも宥和的で中途半端なものであったが、事後の検証は不十分なものになった。今年2月のハノイ会談で停止していた米朝協議が、なぜこのタイミングで再開されるのかも深く追及されなかった。

ちょうど1年前の6月にも、同様なトランプ劇場が展開されている。それは①シャルルボワG7サミットでメルケル首相と大喧嘩(6/8-9)→②シンガポールで第1回の米朝首脳会談(6/12)→③対中制裁関税第1弾500億ドルを公表(6/15)である。メディアや視聴者というものは、目先を変えれば前のことは忘れてしまう。彼らは浮気性だし、記憶容量も多くはない。元天才テレビマンのトランプ氏は、そのことを熟知しているのである。

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