- 2019年07月07日 13:42
シリコンバレー雑感
1週間の旅程で、サンフランシスコ、シリコンバレーといったベイエリアを訪問してきました。
以下、自分への備忘録をシェアします。
1. 世界中からタレントと資金が集まり、起業を生み出すエコシステムは健在
スタンフォードとUCバークレーが起業家精神あふれる若者を世界中から集め、スタートアップの卵をエンジェル投資家やアクセラレーターが支援し、VCが資金供給、この地のハイテク大企業へバイアウト(もしくはIPO)するというスタートアップエコシステムは健在。今がバブルなのかはわからないが、有望と思われるテックベンチャーはほとんど資金に困っていないとのこと。営業損失が続く新興上場企業も、時価総額は跳ね上がり、オフィスはえらい立派だった。
2. アクセラレーターの上得意になってしまっている日本企業
「スタートアップと大企業のコラボレーション」というのが、最近のイノベーションのトレンドらしい。アクセラレーターが有望なスタートアップを囲い込み、大企業に橋渡しするというと聞こえは良いが、伝統的大企業に有望スタートアップがここでピッチする頃には、既にバリュエーションは相当高くなっているとのこと。アクセラレーターは、AI、フィンテック、モビリティといった分野ごとに多額の資金提供を行うスポンサーを募り、しっかり稼いでいる。
日本のドメスティック大企業が、横並びにスポンサーシップに参加し、彼らの上得意の顧客になってしまっているのが何とも歯がゆい。特に保険会社多すぎ。(インシュアテックが今それだけ熱いということかもしれない。)
現地専門家曰く、「究極のコネ社会」とも言われるシリコンバレーでは、ここに参加するぐらいでは全く良い情報はとれないとのこと。日本の伝統的金融機関が来る頃には、その分野のブームは終盤といわれているのも何とも皮肉。
3. ソフトウェアエンジニアの楽園
「すべての企業がソフトウェア会社に」と言ったのは、マイクロソフトのCEOだそうだが、どの企業にとっても最も欲しい人材は、プログラマー、データサイエンティストといったソフトウェアエンジニア。結果、彼らの人件費は高騰し、スペックの高い人材であれば、初任給1,000万円超えも普通であるとのこと。腕利きのエンジニアになればなるほど、フリーランスになる者も多く、そういった方々の収入は、青天井。普通に年収が億単位になることもあるとのこと。どのハイテク企業も、素晴らしいデザインのオフィス環境を用意し、美味しい食事を無料にし、社内にジム完備と福利厚生にえらく力を入れているものの、人材確保に苦労している。フリーランスをうまくネットワーキングし、チームで企業に一定期間貸し出す会社を訪問したが、こちらも大変繁盛していた。
腕利きのエンジニアにとっては、まさに楽園と言われる環境がここにはある。
4. 窮乏する庶民と自治体セクター
テック系企業で働く高額所得者が増え続けるシリコンバレーの物価は既に全米一の異常なレベルになっている。外食したら一人40〜50ドルは当たり前、家賃や教育費もメチャクチャ高い。(Googleの経営する社内保育園は子供一人年間70,000ドルとのこと、大学学費より高い!)
体感では、世帯年収で2,000万円くらいないと、家族4〜5人での満足な暮らしはできないレベルになっている感じ。結果、貧富の格差が極端に開き、庶民は郊外に追いやられ、遠距離通勤者も多いとのこと。町中にホームレスが多かったのもとても気になった。
これだけ稼ぐハイテク企業が地元に多数ありながら、カリフォルニア州の財政は火の車。公立学校の運営経費が不足して授業日が短縮され、ハイウェイを初め道路はどこもガタガタで、標識もところどころ壊れており、渋滞もひどい。地元の主要財源となる固定資産税や州の消費税を上げようとすると、ますます庶民が窮乏する皮肉。
「自助」と「小さな政府」がこの国の伝統なのだろうが、富の極端な偏在がもたらす陰の部分に注目すると、この地域は、一般人にとっては決して暮らしやすい場所ではない。
「事業内容がどのようなものであっても、そのソフトウェア化が進む」という話は、現地に行ってみると非常にしっくり来るものがあった。少なくともコアスキルは自社内でソフトウェア化できる能力がないと、これからの企業は生き残れないのであろう。
自分の身を守るためには、とりあえず、そういったことを推進しているICT企業には、Valuationを意識せずに、一部資金を張っておく発想も必要なのであろう。
- cpainvestor
- 公認会計士兼バリュー投資家