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【緊急企画】教育虐待への予防接種としての『中学受験「必笑法」』一部公開

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●中学受験生の親がもつべき心構え(5)

第一志望以外はすべて第二志望だと考える

「第二志望合格ならまだいい。第三志望もダメ、第四志望もダメとなったらどう考えればいいのか」という指摘もあるでしょう。これにはちょっとしたコツがあります。

 第一志望は、子供のモチベーションを高める憧れの学校。でも、それ以外はすべて第二志望と考えるのです。

 詭弁に聞こえるかもしれません。たしかに模試を受ければ第一志望から順に志望校を記入することになります。しかし、それを偏差値順に書かなければいけないという決まりはありません。

「この学校もいいね。こっちの学校も良さそうだね」などと、受験するどの学校にも入りたい気持ちを盛り上げるのが親の役割です。文化祭やオープンキャンパスに参加して、各学校のいいところをたくさん見せれば、子供には偏差値表など見せなくてもいいでしょう。「ぜんぶ受かっちゃったらどこに行くか迷っちゃうね」などとのんきなことを言っていればいいのです。

 実際、私はこれまでたくさんの学校を取材してきました。その経験から断言できます。偏差値が5や10違ったって、教育内容に大した差はありません。長い歴史のなかで生き残ってきた私立の学校は、総じてどこの学校も恵まれた環境であり、いい学校です。

「これからはグローバル。世界のどこへ行っても通用する人間にならなければいけない」と言われているにもかかわらず、狭い日本の一部地域に密集する中高一貫校のなかで「こっちの学校はいいけれど、この学校じゃダメ」だなんて言っているようでは、それこそ先が思いやられるというものです。

「あなたのため」は呪いの言葉

 わが子に中学受験をさせようというような親は、例外なく教育熱心です。わが子のためなら何でもする。そんな覚悟が感じられます。しかし皮肉にも、教育熱心過ぎる親が、子供を過度に追いつめてしまうことがある。それを近年「教育虐待」と呼びます。いわば「中学受験のダークサイド」です。

「虐待」などというとひどい親を思い浮かべるでしょう。しかし、教育虐待をしてしまう親のほとんどは「あなたのため」だと本気で思っているのです。中学受験生の親であれば、誰でも加害者になる可能性を秘めています。

 最悪の場合、命にもかかわる問題ですが、そもそも教育虐待は気付かれにくい。追いつめられた子が親を殺す事件は、大きく報道されますが、追いつめられた子が自殺した場合には、原因もよくわからないまま、自殺件数の一つとして記録されるだけで終わってしまいます。

 高学歴が得られるのであれば、怒鳴ろうが、叩こうが、心を傷つけようが、結果オーライではないかという考え方があるのかもしれません。それで実際に受験の“勝ち組”になっていく子供たちもいるのでしょう。

 しかしそれで潰れてしまう子供もいます。A君が厳しく勉強させられて最難関中学に合格したからといって、まったく同じ質と量の勉強にB君が耐えられるとは限らない。たまたまそういうことに対する耐性があるかないかの違いです。

 また、仮に受験の世界では“勝ち組”と呼ばれるような結果を残しても、実は教育虐待の被害者が、大人になっても精神的に追いつめられ続けていることがあります。世間的には「成功者」と思われているひとが、実は心に深い闇を抱えており、常に不安や恐怖を感じていることもあるのです。

理性の皮を被った感情による暴力

「これくらいのことができないなら死んでしまえ!」とか「あなたはクズ」などとむやみに怒鳴ったり叩いたりする親は、実は少数派ではないかと思います。多くの親は、子供を叱るのに十分な理由を見つけてから、その正論を振りかざします。「この子が約束を破ったから、そのことを叱っている」などと、親には親なりの理屈があるのです。そうやって「自分は感情的に怒っているのではない」と自分に言い訳しながら、しつけや教育的指導と称して罵声を浴びせたり、罰を与えたりするのです。

 しかし結局のところ言外に伝えているメッセージは、「あなたは自分で言ったことも遂行できないダメ人間だ。だから成績が悪いのだ」です。子供に反論の余地はありません。逃げ場を塞がれ、完全に追いつめられる。

 いわば、理性の皮を被った感情による暴力です。

 自律を学ばせるために、親子でルールを話し合い、それを守らせること自体は立派な教育です。しかしやり過ぎれば約束を盾にした容赦ない攻撃になってしまいます。どこからが「教育虐待」なのか、明確な線引きはきっとありませんが、親であれば誰でも一度や二度、「もしかして、必要以上に傷つけてしまったかも……」と思い当たる節があるのではないでしょうか。

●子供を追いつめるNGワード(1)

「どうしてできないの?」

「どうしてできないの?」は、子供の勉強を見ているとつい言ってしまう言葉の代表格でしょう。

 本来であれば、「この子はなぜこんな簡単に見える問題が解けないのだろう。この子にとってはどこが難しいのだろう。どうやったらこの子にもこの問題の解き方がわかるようになるだろうか」と考えるべきところであるはずですが、つい「どうしてできないの?」というひと言に集約されてしまう。

 すでにそこには「どうして?」という優しい問いかけのニュアンスはありません。「こんな問題ができないあなたはバカだ」という言外のメッセージが、子供を直撃します。いわば「疑問」の形をした罵声です。

 まわりの子供たちができているのになぜうちの子だけできないのかと思うことは、中学受験勉強のなかでたびたびあるでしょう。でも勉強に限らず一般論として、みんなができるようなことは、そのときが来さえすれば誰でもできるようになるものです。

 それでも親は焦ってしまう。「今度のテストまでにできるようにしなければ」などと思うから。だから、「いまはできない」という子供の現状を受け入れることができない。子供をいま、この瞬間に変えてやろうと思ってしまう。

 それでもってプロでもないのにあの手この手で教えようとします。でも教え方もうまくはないので子供はますます混乱する。自分は一生懸命教えているのに、それを理解してくれない子供にますます腹が立つ。そこでつい「どうしてできないの? ちゃんと考えなさい!」と言ってしまうのです。

「どうしてできないの?」と言われても、本人だってどうしようもありません。何の解決にもならない非生産的なフレーズです。それどころか、問いつめられれば問いつめられるほど、頭は真っ白になるものです。できない自分のイメージが強化されます。だからますますできなくなります。

「どうしてできないの?」が口を突きそうになったときにはぐっとこらえて、まずは深呼吸でもしましょう。どうすればできるようになるのか、うまいサポートの仕方をちゃんと考えなきゃいけないのは親のほうなのです。

●子供を追いつめるNGワード(2)

「やるって言ったじゃない!」

 もう1つ、よくあるのが「約束」です。

 たとえばテストで悪い点をとってしまったとき、その成績を見ながら親が説教を始めます。でもその場では激高しません。「どうしてこうなったと思う?」「これからはどうする?」などと、あくまでも冷静に、原因と対策について話し合う姿勢を見せます。

 ヘビににらまれたカエルのような状態の子供は、反省点と改善策を話すでしょう。「具体的にはどうするんだ?」と親はさらに問いつめます。たとえば「これからはテレビゲームをやる時間を減らして、毎日3時間勉強する」などと、子供は応対するしかありません。ほとんど誘導尋問ですが、こうやって子供は約束させられるのです。

 約束したときには子供も本気です。でも人間そんなに強くはありません。ましてや子供。しばらくすると気が緩み、約束が破られてしまうということが起こります。

 これが赤の他人同士なら、多少約束が不履行になっていても気付きません。しかし同じ屋根の下で暮らす家族同士、しかも親子であれば、約束不履行はすぐに発見されてしまいます。

「あなたは約束を破った」「やるって言ったじゃない!」。親はそのことを責めます。約束を破るのは人の道に反することだとされているので、親はそれを厳しく叱る正当性を得たのです。子供は言い逃れができません。完全に追いつめられてしまいます。勉強ができないことを叱られるだけでなく、人格まで否定されてしまうのです。

 毎日の運動が持続できない、つい間食をしてしまう、ストレスのせいで深酒をしてしまうなど、親にだって人間としていたらない部分はたくさんあるはずなのに、それを棚に上げて、子供には完璧を要求してしまうのです。

イラ立ちの原因は必ず自分のなかにある

 わが子が簡単な問題でミスをするからイラ立つのではありません。子供にとっては難しい問題であっても、「これは簡単な問題だ」と決めつけるからイラ立つのです。

 簡単な問題を間違えてしまうことは誰にだってあるはずです。それなのに、「簡単な問題は100%正解しなければいけない」という信念をもっているからイラ立つのです。

 大方の簡単な問題は正解しているのに、視野を全体に広げようとせず、たまたま間違ってしまった1問や2問にだけ意識を向けるから、イラ立ちが収まらないのです。

 イラ立ちや怒りを感じたとき、まずその原因を自分以外の何かに求めるのをやめましょう。そして、自分のなかのどんな信念や思い込みがイラ立ちや怒りを継続させているのかを考えてみてください。イラ立ちや怒りを完全に取り除くことは難しいかもしれませんが、わが子だけを悪者にする心理からは抜け出せるはずです。

 つい子供を叱り過ぎてしまったり傷つけてしまったりということは、誰でも経験します。でも、勇気をもって自分の未熟さと向き合うことができれば、どこかでブレーキがきくようになります。そうやって少しずつ、手前でストップができるようになればいいのです。そうやって親も成長していくのです。

 プロの塾講師であっても、「わが子だけは教えられない」と苦笑いをするのを私は何度も見ました。お預かりしている子供であれば、プロとして客観的な立場に立って適切な指導ができます。しかし、わが子となると、プロの塾講師でも、どうしても感情的になりやすいというのです。子供のほうも、相手が自分の親だとつい甘えが出てしまう。それがまた、親からすると許せなかったりする。そして、親子関係が悪化するのです。

 プロですら難しい。ましてや素人の親がわが子に勉強を教えるのは、あまりにリスクが高いと断言していいでしょう。子供にとってはありがた迷惑もいいところ。

 ある塾講師は私にこう教えてくれました。「親が下手に教えて子供を凹ませてしまうくらいなら、わからないままにしておいてくれたほうが、こちらとしては何倍もやりやすい」。

 多くの塾で「保護者は勉強を教えないでください。子供の勉強を見守り、励ます、サポーターに徹してください」と訴えるのはそのためです。

 ある意味では、中学受験は残酷なまでに親の未熟さをあぶり出すイベントです。わが子がテストの結果と真摯に向き合い努力を重ねているというのに、親が自分の未熟さから目を背けていては、親子関係がギクシャクするのは当然です。結局のところ、中学受験を笑顔で終えられる親子とは、子供のみならず親自身も、中学受験という機会によって自らを変え、成長できた親子なのです。

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