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【緊急企画】教育虐待への予防接種としての『中学受験「必笑法」』一部公開

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●中学受験生の親がもつべき心構え(2)

「何が何でも」というこだわりを捨てる勇気をもつ

 受験を終え、もし第一志望合格という結果ではなかった保護者には「第一志望の存在は、この子のやる気を引き出し、能力を伸ばしてくれたけれど、いま、この子にとっていちばんいい学校は、こちらの学校だったのだ。神様は、努力した者に、最善の結果を与えてくれたのだ」という健全なるルサンチマンを感じてほしいと私は思います。

 ルサンチマンの例として有名な、イソップ童話の「キツネとぶどう」。物語のなかでキツネは、負け惜しみを言うだけの哀れな存在として描かれています。しかし本当にそうでしょうか。

 キツネがぶどうをあきらめることができたのは、視野を広げられたからです。まわりに森があり、ほかにいくらでもおいしいものがあることに途中で気付いたからです。もし一房のぶどうだけが命をつなぐ糧であると思い込んでいたら、キツネはルサンチマンを感じることもなく、いつまでも手の届かぬぶどうを恨めしく思いながら、息絶えたことでしょう。

「何が何でも御三家合格」とか「偏差値60以下の学校は意味がない」などと言って、目の前の一房のぶどうしかこの世に存在しないと思い込むことが、「第二志望でも納得できないという病」の本質です。

 がんばれば手が届きそうだと思えているうちはいい。しかし、ぶどうの木に近づいてみてはじめてその高さに気付いたり、タヌキやカラスも同じぶどうを狙っていることに気付いたりすると、焦ります。身の丈以上に背伸びをしたり、まわりを出し抜こうとがむしゃらにがんばりすぎ、疲弊し、ぶどうの木に手をかける前に倒れてしまう。

 大手進学塾に通う生徒向けに、補助的な個別指導を行う塾の保護者相談会に参加したときのこと。

「成績が伸びません。娘の塾の勉強を毎日見ていますが、授業の内容をほとんど理解できていないように感じます。それでどうしても怒鳴ってしまう……。塾の宿題を全部やらせようとは思っていませんが、あまりにも時間が足りません。どうしたらいいかわからない……」と、いささか取り乱し気味に訴える父親の目は、文字通り血眼でした。

 子供の成績が伸びないから取り乱しているのか、父親がこのような状態だから子供も萎縮して成績が伸びないのか。卵が先か鶏が先かです。

 別の個別指導塾に通うある小学6年生の母親は、涙ながらに告白してくれました。

「模試の成績で偏差値が下がるたびに不安になり、もっとやらせねばならないと焦り、怒鳴り、わが子を罵倒しました。あの参考書がいいと聞けばそれを買い、『これもやりなさい』とさらに負荷をかけました。いま思えば、自分自身が不安に押しつぶされそうになるのを防ぐために、子供を追いつめていました」

 幸いその母親は、受験のプロのカウンセリングを受け、悪循環から脱しました。すると、子供の成績も伸びたそうです。

 いずれの例も、詳しく聞けば、偏差値的には「どこの学校にも入れそうにない」という成績ではありません。でも「このままでは目指す目標には届かない」という焦りから、不安にとりつかれたのだと考えられます。  第一志望に大きな憧れを抱き、受験勉強のモチベーションにすることは大切なことです。しかし、第一志望しか見えなくなると危険です。

 失うものが大きいと感じれば感じるほど、不安も大きくなります。大きな不安を抱えると、その不安に自分自身が振り回されます。その悪循環にはまりやすいのは、受験生本人ではなく、親のほうです。それが、中学受験で親子が壊れ自滅する、典型的なパターンなのです。

 本来であれば受験終了後に発症する「第二志望でも納得できないという病」は、受験勉強のさなかから、親の心に病巣を構え、親子をむしばむことがあるのです。

●中学受験生の親がもつべき心構え(3)

受かった学校が最高の学校だと信じる

 逆に、必ずしも第一志望に合格したわけではなくても「中学受験に成功した」と言う親には共通する何かがあると、多くの取材経験のなかで私は感じました。

 ある母親は「中学受験ができるなんて、あなたはうらやましい! 私は地元の中学校に行って、地元の公立高校に行くしかなくて、自分では何も選べなかった。自分で自分の行く学校を選べるひとなんて、この広い世界のなかで、そうそういないのよ。受験勉強は、自分の努力次第で自分の通う学校の選択肢を増やすこと。そのチャンスを活かさない手はないでしょ!」と、ことあるごとに娘に言って聞かせたそうです。

 娘もその気になって中学受験にのぞみました。そういう視点で考えれば、どこの学校も魅力的に見えたと言います。結果、見事第二志望合格をつかみます。「中学受験は親子にとっていい経験となった」と振り返るその姿は、自信に満ちあふれ、すがすがしくもありました。

 母親は「私は自分の会社を経営する経験から、物事なんでも思うようには進まないということを身にしみて知っていました。ましてや自分ではなく、子供の受験。自分が思うようにことが運ぶとは想定しません。一方で、これも経営者としての経験から、どんな結果であれ、なるようにはなるということも知っていました。だから子供の受験に対しても大きく構えていられたのだと思います」とも語ってくれました。

「大変ではあったけれど、振り返れば中学受験は自分たちにとっていい経験」と胸を張る親子は、もともと「自分にとっていちばんいいところに決まるはず」というブレない信念をもっていたケースが多いのです。そのような信念をもつことで、どんな結果も前向きに受け入れることができるようになるのはもちろん、受験勉強のさなかにおいても、子供は余計なプレッシャーを感じることが少ないので、もてる力を発揮しやすくなるのでしょう。

 中学受験を終えたばかりのある母親は次のように話してくれました。

「6年生の冬、いよいよ大詰めというころ、誰に言われるでもなく自分から机に向かい、目の色を変えてがんばる息子の姿を見たとき、息子の成長を感じました。目標のために自ら机に向かうようになるなんて『ずいぶん成長したなぁ』と涙が出そうでした。その時点で中学受験をして良かったと本気で思えてからは、合否が怖くなくなりました」

 また中学入試本番を間近に控えた別の6年生の男の子は、「いくつか学校を受けるだろうけど、どこの学校が楽しそう?」と聞く私に、こう返事してくれました。「第一志望はあるけれど、どこの学校に行ったって、僕が行けば楽しくなるよ」。そう思えたら、その時点で、その子の中学受験は成功確定です。

 子供が第一志望まっしぐらにがんばるのはいいことです。高望みだってどんどんすればいい。しかし親まで合格という結果ばかりを見ていると、いま、目の前で努力する子供の成長に気付けなくなることがあります。

 小学4年生で塾に通い始め、小学校では習ったことのないような難問にもあきらめずに取り組むようになる。テストの結果に一喜一憂し、「次はもっとがんばるぞ!」などと目標を立てたりするようになる。親の期待だってひしひと感じている。「親を喜ばせたい」という気持ちも当然もっている。しかし、親が「結果がすべて」と思っていたら、これらの成長は合格という形でしか報われません。

「いま、ここ」での子供の努力と成長に目を向け、励ますことを、中学受験を志す子の親は忘れてはなりません。それを忘れなければ、前述の母親の言葉通り、合否が怖くなくなるはずです。「成績が上がってほしい」と切実に願う一方で、「成績が上がらなくても、この子が精一杯がんばって力を出し切れるのなら結果はどうでもいい」と心の底から思えるようになる不思議な体験をするはずです。

 それはすなわち、ありのままの子供を受け入れられるようになるという意味でもあります。それが、親子で中学受験を経験することの最大の効能だと私は考えています。

●中学受験生の親がもつべき心構え(4)

わが子の才能を最大限に評価するモノサシを持つ

 同じように勉強しているはずなのに、わが子よりもよその子のほうが成績が良かったりすると、悔しくなるかもしれません。悲しくなるかもしれません。

「やり方が悪いのだろうか」「どうやったらあの子よりいい成績をとらせてあげることができるのだろうか」。親は思い悩み、「頭が良くなる系」の雑誌や本に手を伸ばすかもしれませんが、それで効果が出るのなら、世の中とっくに「頭がいい子」だらけになっているはずです。

 ひとはそれぞれ、生まれつきもっている才能が違うといえば違う。そしてそれらは、一つのモノサシで優劣をつけ、並べられるものではありません。マラソン選手と、短距離走選手と、どちらの運動能力が高いのかと問われても、それを比べるモノサシがないのと同じです。

 一般的なペーパーテストの点数に表れる「学力」とは、記憶力、思考力、表現力など、実はさまざまな個別の能力の最大公約数的な数値です。バランスがとれている子供のほうが高く出る傾向があります。逆に、どこか一部が天才的に突出していても、テストの点数には表れにくい。

 テストの点数に象徴される「学力」は、その子の能力を推し量るひとつの目安にはなりますが、それがその子供の才能のすべてを言い表しているわけではないことは言うまでもないでしょう。

 であるならば、親がまずすべきことは、わが子の才能を最大限に評価できる独自のモノサシを持つことではないでしょうか。社会一般に用いられているモノサシでわが子を測り一喜一憂するのではなしに。

 毎日コツコツがんばる力、良くない成績にも凹まない明るさ、難問にも果敢に食らいつくガッツ、自分が勉強で疲れているのに親のことまで気遣う優しさ、つらいときにはつらいと言える素直さ……。よその子に負けない才能をたくさん見つけ、中学受験という機会を通してそれをさらに伸ばしていることに常に注目してあげましょう。

 そうすれば、よその子と比べたりしようとも思わなくなるはずです。

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