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参院選党首討論での記者の傲慢な印象操作 - 古森義久

 参議院議員選挙がいよいよ始まった。7月4日の公示から21日の投票まで、私は東京にいて選挙戦の展開や結果をじっくりと考察できることとなった。

 私は本来、産経新聞のワシントン駐在客員特派員としてワシントンを拠点に報道や評論の活動を続けている。国際報道記者は毎日新聞でも長年、務めた。産経新聞ではロンドン、ワシントン、北京、そしてまたワシントンと、この30年近く、海外から日本の読者への記事を送る作業を続けてきた。ただし2013年からは産経新聞社を退社して、客員という立場でなおワシントンからの報道にあたっているが、日本での仕事も増して、最近では3ヵ月ほどのサイクルでワシントン、東京の両方で報道や研究を続けるようになった。

 そんな背景で今回は7月末まで東京にいられるため、参院選の始まりから終わりまで、実体験できる機会を得たわけである。

 さてそんな経緯での参院選考察の手始めとして7月3日の各政党の党首討論をテレビ中継でみた。日本記者クラブの主催、周知のように、自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、共産党、日本維新の会、社民党という7つの政党のそれぞれのトップが並列に並んでの演説と討論の集いだった。主催者側の日本記者クラブに所属する新聞社などのメディアの政治記者たち数人が司会役、質問役を務めた。

 さてこの種のメディアでの政治討論につきまとう構造的な疑問は、各党の代表が保有議席数にまったく無関係に均等の発言時間を与えられる悪平等である。いまの参議院の議席をみると、自民党が121、社民党が2となる。共産党が14、最大野党の立憲民主党でさえ、28に過ぎない。だが国民の支持の度合いの反映である議席数では自民党の121に対して2に過ぎない社民党の党首もまったく同等の発言の時間や機会を当たられるのだ。

 一定の選挙に出馬した候補者たち本人がすべて平等に扱われるのならば、まだわかる。だが党首討論の場合は、あくまで政党の代表の意見交換なのだ。1対1とか、3人だけという討論なら平等も筋が通るが、7人という大人数で、その討論者たちがすべて十把ひとからげで、均等扱いという仕組みにはどこか疑問を抱かされる。

 しかし今回の党首討論で、とくにとんでもないと感じたのは、司会者側の記者の一人が党首たちに挙手を命じたことだった。政治的に特殊性を持つ特定のテーマをその記者が勝手に選び、短絡きわまる表現の質問にして、イエスか、ノーかの手を挙げさせる。しかもその問いの選び方には記者自身の所属する新聞社の反政府、反自民のスタンスを露骨にからめている。自民党の安倍晋三総裁だけがいかにも孤立するという絵図を描きたくてしかたがないと思わる極端な質問による挙手指示なのである。

 この挙手の指示を下したのは朝日新聞の坪井ゆづる記者だという。討論の最終に近い部分で

 唐突に、その坪井記者が「いっせいにお聞きしますので、賛成の方は挙手をしてください」と宣言したのだ。最初の質問が「女性天皇は認めますか」という質問だった。次に「では女系天皇はどうか」だった。

 すると意外なことに各党首は安倍総裁以外はこの高圧的な尋問ふうの問いつめに唯々諾々と従い、一瞬、考える様子をみせながらも、手をあげていった。幼稚園の生徒が先生から「お弁当を持ってきた人は手をあげてください」というような光景を私は連想した。

 なんだ、これは。かりにも日本の国のあり方を決める国政選挙での各政党の党首たちの意見の交換の場ではないか。たかが一新聞記者がえらそうに、その党首たちに挙手を迫る。基本の礼儀礼節にさえ反する。私も新聞記者を長年務めてきたが、この種の傲慢な態度や発想は夢にも思いつかないといえる。

 坪井記者はさらにたたみこんでいった。「原発の新増設を認めないという方は?」という質問だった。続いて「LGBTの法的権利を認める?」と続く。その権利を認める党首は手をあげろと求めるのだ。

 ここまでの方式と質問の内容で坪井記者の政治的な意図は露骨となった。きわめて複雑な課題を単純化して、しかも自民党が野党とは異なる立場を取りそうなテーマをことさら選んで、公明党をも野党側に含めての6対1の挙手の図を描こうという意図だった。ちなみにどうせテーマを選ぶならば、なぜ「天皇制の永遠の継続に賛成する方は」とか「原発の新設は環境保護を考慮して進めることは」といった質問にしないのか。共産党だけが孤立というのを避けたいのだろう。

 そのあたりでさすがに安倍総理が「単純化してショーにするのはやめてほしい」とさえぎった。「政治はイエスかノーかではない。印象操作はやめた方がよい」とも抗議した。ごく常識的な発言だろう。女性天皇にしても原発の新設にしても、多様な条件が当然、考えられる。複雑な要素がからむのだ。だから短絡きわまる「女性天皇を認めるか」という問いにすぐに白黒で答えることは政治指導者としては不誠実だろう。

 そのうえにこの党首討論はあくまで政策を論じる討論会だった。単純な質問から成るアンケートに答える場ではない。朝日新聞の狡猾だがあまりに稚拙な政治印象操作は断固として非難されるべきだろう。
古森 義久(こもり よしひさ)
1963年、慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。1972 年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1981年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。1983年、毎日新聞東京本社政治編集委員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。国際教養大学客員教授。麗澤大学特別教授。
著書に、『憲法が日本を滅ぼす』『なにがおかしいのか?朝日新聞』『2014年の「米中」を読む(共著)』(海竜社)、『朝日新聞は日本の「宝」である』『オバマ大統領と日本の沈没』、『自滅する中国 反撃する日本(共著)』『米朝首脳会談と中国、そして日本はどうなるのか』(ビジネス社)、『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(玄冬舎新書)、『「無法」中国との戦い方』『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)、『中・韓「反日ロビー」の実像』『迫りくる「米中新冷戦」』『トランプは中国の膨張を許さない!』(PHP研究所)等多数。

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