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ミャンマー、男女格差の現実

ティン・リン氏とのダイアログセッションの様子 ©Japan In-depth編集部

Japan In-depth 編集部(髙橋十詠、元木満里奈)

【まとめ】

・ミャンマーの民族衣装、ロンジーまでもが男女の格差を生み出す。

・ティン・リン氏、7年もの監獄中に反政府的アートを製作し続けた。

・ミャンマーの社会問題は、ロヒンギャ難民問題にまで拡大。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depth https://japan-indepth.jp/?p=46616 のサイトでお読みください。】

反政府活動で囚われの身となりながらも、独房からアートを発信し続けていたミャンマー出身の現代美術家ティン・リン氏の個展が、Shinwa Artex株式会社により6月17日から6月29日まで、日本で初開催された。その一環として、ティン・リン氏とShinwa Wise Holdings 会長の倉田陽一郎氏、そしてHuman Rights Watchの笠井哲平氏によりロンジー・プロジェクト〜女と男の壁をぶち壊せ!〜」のダイアログセッションが行われた。

現在、ミャンマーではロヒンギャ難民の宗教的、人種的差別や迫害が世界でも問題視されている。男女差別も根深く存在しているミャンマーの現状について、ティン・リン氏はアートを通して声をあげ続けている。

ロンジーとは、現在も多くの人がミャンマーで日常的に身につけている巻きスカートのような民族衣装である。しかし、男性用ロンジーと女性用ロンジーは一緒に洗濯されることがタブーとされている。それは男性の運気を下げるだけではなく、権限すら失われると言われてきたからであり、男性は女性用ロンジーに触れることすら毛嫌いするそうだ。このような男女差別に対する思いをティン・リン氏は実際にロンジーを作品の素材として使用し表現した。

写真)ティン・リン氏の作品「ウィン・ミン・タン」 ”女物のロンジーは、単なる女性用のロンジーです” (C)Japan In-depth編集部

写真)ティン・リン氏の作品 (C)Japan In-depth編集部

左側:「オマー・ソー」(絵の中の女性の名)”女物のロンジーと男物のロンジーを分けることは、ある種の性差別です。それ以上のことは何もありません。しかし、ミャンマーにおいては依然として、男女のロンジーを分けて洗う習慣があります。”

右側:「ソー・マー」(絵の中の女性の名)”パ・ソー(男のロンジー)とタメイン(女のロンジー)に「教え」というようなものはありません。それらはただの衣服の一部です。” 

ロンジーに描かれた女性たちは、そのロンジーの持ち主であり、ティン・リン氏が実際に話を聞いた方たちだ。作品には女性達の言葉がつづられている。多くの女性は、彼が躊躇すらせず彼女らのロンジーを素手で受け取ったことが衝撃だったそうだ。

また、会場には女性用ロンジーが吊るされて展示されていた。ミャンマーでは、女性用ロンジーが吊るされている下に座る人は誰もいないという。このように、ティン・リン氏の男女差別に対する思いや訴えが、彼の作品だけでなく会場にも込められていた。

写真)天井から吊るされて展示されているロンジー  (C) Japan In-depth編集部

そしてプロジェクトの最大作品、「あなたはどう思う?」 は何枚ものロンジーをつなぎ合わせて作成された巨大な女性の頭部であり、中に入れるようになっている。ティン・リン氏の「あなたが自分の運気を気にしないなら、この中にどうぞ」というコメントが添えられており、ロンジーの下を通ると運気が下がると考えるミャンマーの男性を試す作品となっている。

写真)ティン・リン氏の作品 「あなたはどう思う?」  (C)Japan In-depth編集部

ところが、ミャンマーのヤンゴンで個展を行った際、「これは大仏様に女性のロンジーを被せているのではないか」とSNS上で大炎上した。個展を開催したリバーギャラリーには石が投げ込まれるなどし、多くの批判の声が上がった。もし本当に大仏の頭にロンジーを巻きつけていれば、ミャンマーでは不敬罪に当たるため、一時大騒ぎとなった。しかし実際には、女性の頭部の模型にロンジーを巻きつけているだけである為、ことなきを得た。ミャンマーでの男尊女卑の激しさと、この不平等なミャンマー社会を批判する活動に伴うリスクが顕著に現れた出来事だった。

今回の個展は、ロンジーを使用した男女の格差を訴える作品だけではなく、ティン・リン氏の7年間に及ぶ牢獄生活の「囚人シリーズ」も展示された。そもそも、彼は反政府活動の容疑で刑務所に収監されたのだが、彼自身が直接反政府活動に力を入れていた訳ではなかったという。反政府活動をしていた友達の息子がデモを起こそうとし、その際に送った手紙にティン・リン氏の名前が記載されていた。それが逮捕要因となり、彼は刑務所に送られた。しかし、この服役中に作成した反政府的絵画は300点を超え、ティン・リン氏のアーティストになる原点となった。

彼は、囚人服をキャンバスにし、お皿やライター、注射器、彼自身の指や体など、使えるものは全て使いアートを生み出し続けた。そして出来上がった作品達は、仲良くなった看守達の手によって外の世界へと運び出されたのだ。

写真)刑務所のお皿(手のひらサイズ)を使用して描いた、受刑者の顔 「Gloomy Room3」 (C)Japan In-depth編集部

ティン・リン氏は「驚くことに、獄中という環境であったが為に、世の中から検閲されることも批判されることもなく、表現しようとするものが全て表現できた。」と述べた。ミャンマーという国がいかに表現の自由がなく、軍事力に支配されているかが伺える発言であった。

ミャンマーは社会主義から現在、民主主義へと変わろうとしている国家であり、未だに人種差別や男女差別もはっきりと残っている。ティン・リン氏はアートを通し、男女格差をテーマとしてメッセージを伝えたが、現在ミャンマー西北部のラカイン州に住む、イスラム系少数民族のロヒンギャ難民問題も世界的な問題となっている。

仏教徒が多いミャンマーでは、イスラム教少数派のロヒンギャ族は不法民族扱いとされ、国籍さえももらえず、様々な差別や迫害に長年苦しんできた。ロヒンギャ問題は以前から存在していたが、今年(2019年)8月、何者かによる大規模虐殺、襲撃が発生した。死傷者は最低でも1ヶ月に6500人ほど存在し、ロヒンギャ人は安全確保のためバングラデシュへと避難を余儀なくされた。

これに対し日本政府は、ミャンマーの難民問題に対する国連総会決議の参加を棄権した。多数の国がミャンマー政府の軍事力行使の停止に賛成し、ロヒンギャ一族の人権の保護に向けて活動している中、日本政府の行動に、Human Rights Watch批判の声をあげている。「ミャンマーの政治的・経済的パートナーという日本の立場を中国政府に奪われないため」だというのだ。

ティン・リン氏は当時の経験も含め、「ミャンマーの社会、政府、警察までも軍事的圧力によって全てコントロールされてしまっている。」と述べた。ロンジープロジェクトによって日本でも依然社会に存在する男女の格差、そして人権問題についてもう一度考え直す人が一人でも多いことを願う。

訂正: 

2019年7月4日21時 54分、文中の以下を訂正致しました。

訂正前:ミャンマー軍による大規模虐殺

訂正後: 何者かによる大規模虐殺


2019年7月6日 12:48分、文中の以下を訂正致しました。

訂正前:今年(2019年)8月

訂正後:2017年 8月

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