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消費者庁のガイドライン改定が意味するもの~口コミサイト問題をめぐる報道の勇み足?

「コンプガチャ」問題でいろいろと騒がれている中、これまた今年初めくらいに大きな問題となった「口コミサイトステマ投稿問題」について*1、消費者庁が一つの考え方を示している。

昨年10月に公表された「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を改定し、

「商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること」


という事例を「問題となる事例」に追加する*2、という方法での当局の“意思表示”。

そして、これを受けて、日経新聞では、

「新たなガイドラインでは、飲食店などの事業者が代行業者に頼んで口コミ情報サイトに多数の投稿をさせるケースを問題事例に追加。実際は好意的評価が少ないのに一般消費者から高い評価を得ているかのように表示するのは景表法違反の「優良誤認」にあたるとした。」(日本経済新聞2012年5月10日付け朝刊・第38面)


と、かなり断定的な表現で、「口コミで元々好意的評価が少ないのに高い評価を得ているかのように表示すること=優良誤認」と報じ、さらに

「同庁は飲食店事業者などに、業者に頼んで意図的にサイトでの評価を上げることをしないよう周知する」(前掲・第38面)


と、一切の「高評価口コミ依頼」に規制を及ぼすかのようなことまで言い切っている。

だが、自分は、この報道に接して、若干の違和感もあるので、以下、「ガイドライン改定の意味するところ」について、簡単に見ていくことにしたい。

「優良誤認表示」の要件は・・・?

日経紙の記事で、規制の根拠として挙げられたのは、景品表示法第4条1項1号(優良誤認表示規制)だが、その条文は、

(不当な表示の禁止)

第四条  事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一  商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの


というもので、

(1)「商品または役務の内容に係る表示であること」

(2-1)「実際のものよりも著しく優良であると示すこと」

 又は

(2-2)「事実に相違して当該事業者と同種もしくは類似の商品もしくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」


というのが、「優良誤認表示」固有の要件となるところ*3、太字で強調したとおり、上記の(2-1)、(2-2)の要件の条文上、あくまで景表法上「してはならない」とされているのは「著しい」という評価を受け得るものに限られていることが分かる*4

そして、この点について、消費者庁の中の人(当時の表示対策課長)が書かれた解説書の中では、以下のような解説が示されていた。

「表示の中でも、広告・宣伝の要素を含むものの場合、表示対象である商品または役務が消費者から選択されるように、ある程度の誇張がなされるのが一般的であり、一般消費者もある程度の誇張が行われることを通常認識していることから、広告・宣伝に通常含まれる程度の誇張は、人が化粧の差異に白粉をはたくことを意味する「パフィング(Puffing)」と呼ばれ、一般消費者の適切な選択を妨げないものとして許容される

「しかしながら、この許容される限度を超えるほどに実際のものよりも優良であると表示すれば、一般消費者は、パフィングを割り引いて判断しても、商品または役務の内容が実際のものよりも優良であると誤って認識し、その商品または役務の選択に不当な影響を与えることとなる。このような場合には、表示される優良性の程度が著しく、法律の要件である「実際のものよりも著しく優良であると示す」ことに該当する。」(前掲注3・笠松63頁。)


この解説書では、続けて「著しく優良かどうか」は、一般消費者の誤認を招くか否か、という観点から判断される旨述べられ、

「『実際のものよりも著しく優良であると示』すという要件への該当性の判断に当たっては、表示内容と実際のものが科学的に等価であるとか、いずれが優良であるとも判断できない場合であっても、一般消費者にとって実際のものよりも著しく優良であると認識される表示が行われれば不当表示となる」(前掲注3・笠松63頁)


という解説も加えられているが、いずれにせよ「著しく」の要件が課されていることに変わりはない。

何をもって「著しく優良」と評価するかは、正直、当局の胸先三寸・・・というところもあるから、実務的には、「著しいかどうか」というところでは勝負しないのが通常だと思う*5が、だからといって、「著しく」という文言を読み飛ばすのが、適切な業界向け指導のあり方、ということには、決してならないはずである。

ガイドラインで使われた「テクニック」

そこで、改定後のガイドラインに追加された「問題となる事例」を改めて読んでみると、消費者庁が以下のような表現を使っていることに気付く。

「業者に口コミを『多数』書き込ませ・・・」

「口コミサイト上の『評価自体を変動させ』て」

「もともと・・・『好意的な評価はさほど多くなかった』にもかかわらず、あたかも一般消費者の『多数』から好意的評価を受けているかのように」


どの程度の数をもって「多数書き込ませた」と評価するのか、あるいは、どのような状態をもって「好意的な評価はさほど多くなかった」というのか(そもそも全く誰も書き込みをしていない状況で「好意的な書き込み」をした場合は、これに当たるのかどうなのか*6、という解釈上の問題はあるが、上記の慎重な表現が、「著しく」という要件を意識したものであることは、明らかであろう。

そして、ガイドラインでは、これに続く「景品表示法上の留意事項」に、

商品・サービスを供給する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させる場合には、当該事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある」(5頁)


と記載されており、あたかも「著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されないような」書き込みであれば、事業者が自ら、あるいは第三者に依頼して口コミを掲載することも問題ない、というのが、消費者庁の考え方であるかのようにも読めるところである*7

以上が、自分が日経紙の記事を読んだ時に抱いた違和感の原因*8

実のところ、ガイドライン改定を報じている日経紙自身も、その記事の末尾に、「食べログの投稿問題」について、

「実態よりも著しく優れているかのように投稿をしたとは確認されなかったため、同庁は法的措置を見送った」(前掲・第38面)


という事実を報じているところであり、先に引用した、

「同庁は飲食店事業者などに、業者に頼んで意図的にサイトでの評価を上げることをしないよう周知する」(前掲・第38面)


というくだりが、少々勇み足な表現であることに気付いても不思議ではなかったはずなのだが、なぜか、記事では、「ガイドライン以上の指導」が行われるかのような表現になってしまっている。

もしかすると、“勇み足”をしたのは消費者庁の担当官の方、ということも考えられ(記者はそれをそのまま記事にしただけ)、そうであれば、また別の問題が出てくるのだが、現時点では証拠がないので、とりあえずメディアに対しての指摘だけにとどめておくことにしたい。

ガイドライン改定が口コミサイト運営業者に与える影響如何?

なお、今回消費者庁が出したガイドラインは、口コミサイトに情報を掲載される「事業者」に向けられたものであり、口コミサイトを運営する事業者に対して向けられたものではない。

「商品・役務を提供する者についての表示」を問題とする景表法の本質を踏まえれば、それは当たり前のことなのではあるが、「食べログ問題」が発覚した当初、ネット上での批判が、「食べログ」の運営会社にも向けられていたことを考えると、今回のガイドラインを“生ぬるい”と評価する人もいらっしゃるのかもしれない。

だが、こと「食べログ」に関して言えば、そのビジネスモデル上*9、「サイトの信頼性」を確保し、それによって閲覧数を確保することが何よりも求められているのであるから、「実態を踏まえないランキング変動」を自ら引き起こすようなことはもちろん、放置することすら考えにくい*10

もちろん、他のビジネスモデルを取るサイト*11であれば、掲載店舗と共謀してランキングを恣意的に左右する動機も生じないとは言えないが、それを露骨にやってしまえば、いずれ遅かれ早かれ、誰もそのサイトを見なくなってしまうことは明らかなわけで・・・。

個人的には、この「口コミサイト」問題は、当局による景表法の規制に頼るのではなく、文字通り、「自己責任」の原則に委ねた方が、世の中的にうまく行く話ではないかと考えているが*12、仮にそうではなく、パターナリズム的な見地に立ってか弱い消費者を保護する、という立場を取るにしても、「サイト運営者の掲載情報への管理責任」まで行政的規制の枠内で追及する、というのは、いくら何でもやり過ぎだろう・・・と思うところである。


おまけ

なお、このエントリーの中で何度か引用した解説書だが、当局の方が書かれただけあって、無駄や漏れがない解説に定評があり、実務においては紛れもないスタンダードとしての地位を占めている。ここ数日の空前の景表法ブーム(?)の中で若干品薄気味のようなだが、一応ご紹介しておくことにしたい。

リンク先を見る

景品表示法

*1:当ブログでも以前この問題について取り上げたことがあるが(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120105/1325788089)、その際、「法的問題に対する検討が不十分ではないか!」というお叱りも受けたので、ここで若干丁寧に考えてみることにしたい。

*2http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_1.pdf参照

*3:以上、笠原宏『景品表示法[第2版]』59~69頁(商事法務、2010年)。

*4:なお、そもそもここで「表示」の主体が誰か、ということに着目して、議論を展開される方は多いし、現にそれも一つの論点であることは間違いないが、今回問題とされているような「事業者がステマ業者に口コミを依頼した」というようなケースであれば、依頼した事業者を表示主体と同視することに、何ら実体面での問題はないように思われ(この点、それぞれ独立して取引を行っている製造業者と流通業者、販売業者について表示主体としての責任を追及する場合とは状況が異なる)、あまり突っ込んで議論する意義を感じなかったので、ここではコメントを割愛した。

*5:安全策をとって、事実よりも「優良」と感じさせるような広告表現はするな、という指導をするのが一般的だと思う。

*6:「食べログ」的な口コミサイトの場合、最初に誰かが書き込みをしないと、その後に続く人がなかなか出てこない、という問題があるし(現に、多数の人が書き込んでいる店の書き込み数が異常に多い一方で、長く営業している名店であるにもかかわらず、書き込みが0件~1件、という店は珍しくない。自分は「第1号」の書き込みをすることに、むしろ執念を見せる人間なので気にしないのだが、自分の文章が最初に乗ることに抵抗を示すレビュワーも決して少なくないように思われる)、最初に書いた人が、嫌がらせのようなひどいコメントをしてしまうと(本当にひどい店、ということもあるのだろうが、近所のライバル店の関係者があえて貶めるような書き込みをする、ということも皆無ではないようである)、もっと悲惨なことになるから、自己防衛的に当たり障りのない評価で書き込んでもらうように業者に依頼する、あるいは、知人友人に書き込みを依頼したり、バイトの店員等々に何件か書き込みを依頼する、といったケースがあっても不思議ではない。ガイドラインは「業者に依頼」したケースしか事例に挙げていないが、個人的なつながりに拠る場合であっても、依頼された側としては、当然に「好意的な書き込みを依頼された趣旨」と理解するのが一般的な日本人の考え方で、業者以上に好意的な評価を書き込むことだって考えられるから、依頼した相手が「業者」かどうか、ということが違法性の判断に影響するとは考えにくい。

*7:この記載は、昨年10月時点から変わっておらず、それゆえ、自分は、「食べログ」掲載事業者の業者依頼事件が発覚した際、口コミの「主観性」(書き手にとっても読み手にとっても、たとえそれが“数値化”されたとしても、主観的な性質のもの、と認識されることに変わりはない)ゆえに、「著しく優良」とまで断定するのは難しい=事実と明らかに反すること(例えば使っていない食材をあたかも使っているかのように書いたり、虚偽の代金を掲載する等)が書かれていない限り、景表法上の問題は生じない、と考え、例のエントリーを書いたのであるが、当時はあまり伝わらなかったようである・・・。

*8:要するに、日経紙の記事は、消費者庁のガイドラインにある「著しく」要件に対応する絞り込み文言を全部落として、「消費者庁の方針」を報じたものだ、ということである。

*9http://www.venturenow.jp/column/ogawa/20100921008770.htmlの記事など参照。

*10:それゆえ、「食べログ」は当初からこの問題について厳格なスタンスを取っていたし、書き込みユーザーの「認証制」まで導入した(もっとも、自分もやってみたが、これって単に携帯電話の番号を登録して、そこから電話する、というだけだから、サクラ的書き込みの撲滅にはつながらない)。

*11:例えば口コミランキングによる掲載店舗の来客者の増加が、直ちにサイト運営者の収入にも反映されるようなサイト。

*12:「大人だったら、飲み食いする店くらい『自分の尺度』で選べるようにしようよ・・・」というのが率直な感想。しかも、会員登録さえすれば、「食べログ」への書き込みは誰でもできるのだから、“騙された”と思ったユーザーは、存分に「口コミ」で思いのたけを述べれば、余計な規制による介入を行わなくても、正当な評価に落ち着くはず(厳しい事を書き過ぎると、時々サイト運営者から修正要請が来るのが、嫌らしいところではあるが・・・)。

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