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対韓国輸出規制がえぐりだした日本の国際分業での優位性

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一物一価が貫徹、要素費用均等化の法則が機能する世界

このように理想的な自由貿易環境では、国際的な一物一価が成立し、それは要素費用(例えば単位労働生産性当たりの賃金)を均等化させる。労働生産性が2倍の国は賃金が2倍になることで、国際的には単位労働コスト(労働コスト/生産性)が均等になるように働く。

図表1に見るように、先進国の労働市場は基本的に一物一価、同一生産性労働同一賃金の原則が貫徹してきた。生産性を上げぬままに賃金を引き上げても、それはインフレ→通貨安となって逆襲される、つまり世界賃金に回帰する。同様に生産性を上げぬままに通貨高になっても、国内賃金下落を引き起こし世界賃金に収斂する。1990年代から2012年までの執拗な円高は日本の国内賃金の下落圧力を定着させ、日本に世界唯一のデフレをもたらした。一般的な通貨変動は購買力平価と比べてプラス・マイナス30%程度の為替変動が限度なのに、円の場合は一時2倍という異常な高評価が与えられた。それによって国際水準に対して日本企業の賃金コストは2倍となり、企業は雇用削減、非正規雇用へのシフト、海外移転などを進めた。この結果、労働コストは大きく低下し、かろうじて競争力を維持できたものの、日本の労働者の賃金はいわばその犠牲となり、長期にわたって下落し日本にデフレをもたらしてきたと言える。

円高が進行したことで、日本の労働者の賃金は、他国に劣らない労働生産性の伸びが続いたにもかかわらず、大幅に下落してきたと捉えるのが正しい理解だろう。図表1は現地通貨ベースとドルベースで見たユニットレーバーコストと時間当たり人件費の比較(製造業)だが、日本の賃金は大きく下落したのにドルベースでは大きく上昇し、日本の競争力を阻害したことが鮮明である。


21世紀は大きく変化

以上のような自由貿易を正当化する国際分業環境は、21世紀になって劇的に変わった。

①各国が特定産業に特化 ⇒ 既に多くの国が特定製品分野に特化し、貿易相手国との価格競争がなくなった。今や世界でハイテク機器を生産しているのは北東アジアの4か国のみ。インターネットのプラットフォームは米国・中国の二か国が独占・・・。となると価格競争はそもそも成り立たなくなる

②ハイテク・ソフトなどの先端分野ではコストの圧倒的部分が固定費に ⇒ 固定費=過去投資の累積額(R&D投資、販売網、事業買収)がコストの大半を占めるようになった。賃金・インフレ・為替などマクロ経済要因が影響力を及ぼす変動費は微々たるものとなり、マクロ政策調整が全く効かなくなった。一旦ハイテク強国になってしまえば、どんなに通貨高、賃金高になってもその競争力は奪えなくなる。履歴効果、収穫逓増の世界、つまりWinner takes allとなり容易には破壊されない。固定費は政策が決定的に重要に。

③企業内工程間国際分業が一般化 ⇒ 米国のデータベースをシンガポールで加工、日本で最終製品パッケージとし、欧州で売るなど、企業内で国際分業が営まれている。企業内で各国間の仕切り価格をどうするか付加価値の国ごとの配分が変わる。付加価値の圧倒的配分は本国本社に帰属する傾向。

④直接労働工程はすべて無人化 ⇒ AI・ロボット化により新興国低賃金は工場立地の条件ではなくなる。マザー工場の役割が決定的に重要になっている。製造ラインを持たない米国はこのAI・ロボット化の恩恵を受けられない、そこにトランプ政権(ピーター・ナバロ氏等)の焦りがあるのでは。製造工程編成のノウハウが重要。日本はこの点で世界最先端。

以上のような国際分業環境の変化においては、過去の累積投資、履歴効果が決定的に重要である。

重商主義には新通商対応が必須

そしてそのような履歴効果を生むには政治、重商主義的サポートが決定的に重要になってくる。1980年代の日本の米国のコンピュータ、半導体にキャッチアップに際しては、通産省やNTTが音頭を取った企業横断的研究開発組合が寄与した。それを見た韓国、台湾の政策資金の投入、補助金、産業育成はさらにスケールが大きく、さらに国家資本主義の中国においては、国家的プロジェクトによるハイテク企業育成のパワーは、急速に台頭したファーェイに見るように絶大である。中国の極端な重商主義が圧倒的に有利に働いたため、対抗するにはトランプ政策、通商摩擦が起きる必然性があったと解する。

日本の国際分業上の地位極めて有利に

企業内工程間国際分業が先端企業のビジネスモデルになっているが、その際、付加価値の圧倒的部分の配分を受ける本社の確保、囲い込みが大切である。他方で労働コストは重要ではなくなっていく。労働集約産業に特化する国はますます不利になり、通貨も安くなる。新興国がハイテクへと産業シフトを急ぐのはそのためである。

以上ざっと指摘しただけでも、古典的自由貿易理論が無力化している現実が明らかであろう。自由貿易信仰に基づく多数派エコノミストのトランプ通商政策批判は半知半解で、対案が無いのはそのためであろう。

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