記事

中小企業とサステナビリティ(CSR調達・健康経営の観点から)

2019年6月24日
社会システム共創部 ESG コンサルティング室 コンサルタント 櫻井 洋介

近年、SDGs(国連「持続可能な開発目標」1)への関心の高まりや、ESG投資(環境・社会・ガバナンスといった非財務情報を投資判断に組み込む投資)の伸長を背景として、企業活動におけるサステナビリティ2の重要性が高まっている。しかし、「SDGsの経営戦略への組込み」、「ESG評価向上も目指した非財務情報の開示や取り組みの充実」等といったサステナビリティに関する取り組みは、経営資源の豊富な大企業が主な担い手となっており、中小企業にまで必ずしも波及していないのが現状である。果たして、サステナビリティに関する取り組みは、大企業や上場企業にのみ求められるものであろうか。本稿では、「CSR調達」と「健康経営3」の観点から、中小企業におけるサステナビリティの重要性について考察する。

1.中小企業におけるサステナビリティの浸透状況

中小企業においては、サステナビリティという概念の周知・浸透が進んでいるとは言い難い。2018年12月に関東経済産業局が中小企業500社の代表取締役を対象に行った調査では、「SDGsについて全く知らない(今回の調査で初めて認識した)」と回答した企業は84.2%にのぼり、「SDGsという言葉を聞いたことがあるが、内容は詳しく知らない(8.0%)」を合わせると、9割超の中小企業が、SDGsの概念を十分に認識していないとの結果であった。また、「SDGsについて対応・アクションを検討している」あるいは「SDGsについて既に対応・アクションを行っている」と回答した企業は500社中、わずか10社(2%)である。サステナビリティの概念について理解が進んでいる企業は、サステナビリティ領域における共通言語としても使用されているSDGsの内容を把握していることが想定されるため、「SDGsを全く知らない」「内容を詳しく知らない」と回答した9割超の中小企業では、サステナビリティの周知・浸透が十分に進んでいないと考えられる。


(出典)関東経済産業局「中小企業のSDGs認知度・実態等調査(平成30年12月)」よりMURC作成

一方で、日本経済団体連合会(経団連)が会員企業・団体に対して、2018年7月に行った「企業行動憲章に関するアンケート調査」によれば、SDGsの「持続可能な社会の実現」という考え方を「経営理念」や「企業行動に関する規範・指針」等に反映していると回答した企業・団体の割合は8割を超えている。


(出典)経団連「企業行動憲章に関するアンケート調査結果(2018年7月)」よりMURC作成

経団連では、2017年に企業行動憲章を改定し、その柱として「Society 5.04の実現を通じたSDGs(持続可能な開発目標)の達成」を掲げているため、その精神の尊重・実践が求められる会員企業が「持続可能な社会の実現」を企業理念等に反映させることは、ある種当然とも言える。しかし、理由はどうあれ、経団連の会員として名を連ねるような日本を代表する大企業が、サステナビリティを経営の中核に据えていく中で、中小企業のサステナビリティに関する認識や取り組みは深化していないという現状が、これらの調査結果から読み取れる。

2.中小企業を取り巻くステークホルダー

大企業がサステナビリティを意識する理由の1つとして、ESG投資の伸長が挙げられる。前述の経団連のアンケートの中でも、「ESG等の非財務情報を開示する理由」として「最も重視するもの」は、「投資家や格付・評価機関への対応」であるとする回答が最も多い。ESG等の非財務情報の開示が投資に結びつくという発想は、CSR部門をコストセンターとして捉える向きのあった従来の考え方とは一線を画すものであり、ESG投資の伸長がサステナビリティに対する企業のスタンスを変える大きなトリガーになっているのは間違いないと言えるだろう。

しかし、中小企業の場合は、株式会社であっても株式を非公開としている会社や、そもそも株式会社の形態を採用していない会社も数多く存在する。そういった企業に対して、ESG投資の伸長は、必ずしもサステナビリティに関する取り組みを推進するインセンティブとはなり得ない。

中小企業にとってのインセンティブを考える際のポイントとなるのは、重視するステークホルダーが大企業とは異なるという点である。下記は、東京商工会議所がかつて中小企業に対して実施した調査であるが、大企業が最も重視するステークホルダーは「株主」であるのに対し、中小企業は、「販売先」や「従業員」、「仕入先・調達先」をステークホルダーとして重視していることが分かる。


出所:東京商工会議所「『企業の社会的責任(CSR)』についてのアンケート調査」(2005年7月)(注)中小企業は資本金1千万以上の法定中小企業、大企業は資本金3億円超の東京商工会議所議員企業。

同様に、中小企業CSR実態調査研究会が2010年に行ったアンケート(回答総数1,583社。5項目以内の複数回答)においても、「重視している事実上の関係者」の上位回答は「1位:従業員」、「2位:販売先、納品先」、「3位:仕入先、調達先」となっており、それぞれの回答数は1,000件を上回っている一方で、「9位:株主」と回答した企業数はわずか100社程であった5。どちらの調査も実施から一定期間が経過しているものの、中小企業と上場企業及び大企業の認識の差異を示唆するには十分な結果であろう。即ち、中小企業は株主や投資家よりも、取引先や従業員といったステークホルダーを重視する傾向が、これらの調査結果から読み取れる。

筆者は、この重視するステークホルダーの違いに、中小企業とサステナビリティの関係を考えるヒントが隠されていると感じている。そして、中小企業は、大企業とは異なる観点において、サステナビリティに関する取り組みが求められているとも言えるだろう。以下、「取引先」と「従業員」という2つのキーワードを、それぞれ「CSR調達」と「健康経営」という2つの観点から整理してみたい。

3.CSR調達の広がり

近年、企業のサステナビリティに関する取り組みは、サプライチェーン全体に波及している。2013年のラナプラザ崩落事故6以降、特に、サプライチェーン上の人権問題や労働問題がクローズアップされるようになり、グローバルにビジネスを展開する企業にとって、今やCSRの観点からもサプライチェーンマネジメントが求められている。「ISO20400(持続可能な調達)」や「2020年東京オリンピック・パラリンピック持続可能性に配慮した調達コード」等、持続可能な調達に係る枠組が制定され、中には「英国現代奴隷法」等のように、サプライチェーン上の人権・労働分野の対策状況について、法律で情報開示を義務化する動きまで出てくるようになった。

ESG評価の観点からも、サプライチェーン上の取り組みは重要である。世界最大の機関投資家とも言われる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を開始した際に導入した、FTSE、MSCI等のインデックスでも、社会面や環境面において、サプライチェーン上の取り組みが評価項目として設定されている。加えて、機関投資家やESG評価機関は、メディア報道やNGOの報告書等を通じて、企業がサプライチェーン上で不祥事を起こしていないか、常に目を光らせており、ひとたび不祥事が発覚すれば、企業価値の棄損や株価の低下を招くことになる。こういった状況を背景に、ESG投資を呼び込みたい大企業は、「サプライヤー行動規範」や「CSR調達ガイドライン」等といった調達上のルールを策定し、サプライヤーに対して、サステナビリティに関する取り組みを求めているのである。

中小企業の中には、大企業のサプライチェーンに組み込まれている企業も多いことから、「取引先からサステナビリティに関するチェックリストが送られてきた」、「契約書の条項の中で『サプライヤー行動規範の遵守』を要求された」等の経験を持つ担当者も多いだろう。また、大企業の中には、サプライヤー行動規範の項目を遵守せず、是正勧告を受けても改善が見込まれないサプライヤーとは取引を打ち切るというスタンスを取っている企業も存在する。

この様に、中小企業が重要なステークホルダーと位置付ける取引先から、サステナビリティの取り組みが求められる時代になっている。中小企業にとって、サステナビリティの軽視は、取引額の減少や取引の中止といったリスクを招く要因の1つとなりつつあるのである。

4.働き方改革と健康経営の可能性

従業員との関係では、昨今の働き方改革の流れが重要である。2019年4月に働き方改革関連法が施行されたことで、現在、企業内では人事制度や就業規則の見直しが進められている。中には、残業時間の罰則付き上限規制や、同一労働・同一賃金の適用等、中小企業への適用に猶予期間が設けられているものもあるが、5日間の有給休暇取得の義務化等、中小企業としても、迅速な対応が迫られる事項は少なくない。法令の遵守は、企業が社会的責任を果たす上で土台となる事項であり、その意味でも働き方関連法への対応は必要不可欠となっている。また、長時間労働を是正し、多様で柔軟な働き方を実現するという働き方改革の目的は、ダイバーシティの推進やディーセント・ワーク7の実現等とも親和性が高く、SDGsのゴールとも紐付けやすいため、働き方改革への対応を通じて、自社のサステナビリティに関する取り組みを加速させる方法もあろう。

加えて、中小企業にとっては、働き方改革を通じた「魅力ある職場づくり」が重要である。中小企業は、慢性的な人手不足と言われており、中小企業の経営者の6割以上は、「人手が不足している」と考えている8。また、リクルートワークス研究所の調査によれば、2019年卒の大卒求人倍率は1.88倍となっており、前年比では7年連続で上昇しているが、その中でも中小企業の求人倍率は9.91倍と、過去最高の水準を記録しており、中小企業にとって人材の確保は喫緊の課題であるという状況が伺える9。この様な採用難の状況を打破すべく、中小企業では、学生や求職者に「選んでもらう」ための積極的な取り組みが必要となってくる。

ここで、対応を検討するべき取り組みが健康経営である。健康経営というと、メタボ対策や喫煙率の低下等が取り上げられることが多いが、本来は「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を指す10。即ち、従業員の健康管理や労働衛生等への取り組みに要する支出を、コストではなく経営的な投資と捉えることで、従業員の活力向上や生産性向上を促し、業績や企業イメージの向上に繋げるための取り組みである。健康経営には、リスクマネジメントや労働災害の予防等といった「守り」の側面のみならず、プレゼンティーイズム11の軽減やワーク・エンゲージメント12の向上による高い生産性の実現、職場の活性化や定着率の上昇等といった「攻め」の側面が存在する。健康経営を通じた企業価値の向上は、従業員の獲得や定着が重要な経営課題となっている中小企業が、持続可能なビジネスを営んでいく上で、必要不可欠な取り組みと言えるだろう。

5.終わりに

以上、中小企業におけるサステナビリティの重要性について、中小企業が重視するステークホルダーとの関係から、「CSR調達」と「健康経営」という2つの切り口から概観した。取引先との関係ではCSR調達の観点から、そして、従業員との関係では健康経営という観点から、中小企業においても、サステナビリティの取り組みを進める必要性があると考えられる。

本来、サステナビリティに関する取り組みは、ESG評価の向上等のために実施されるものではなく、ステークホルダーと良好な関係を築きながら、ビジネスにおける持続可能性や中長期的な企業価値の向上を目指すためのものである。従って、重視するステークホルダーの違いこそあれ、中小企業がビジネスの継続発展を目指していく上で、サステナビリティを軽視することは得策ではないと言えよう。

もちろん、中小企業の中には、既にSDGsを経営に取り込み、本業を通じて社会課題の解決に取り組んでいる企業も存在している。特に経営層との距離が近く、経営理念を浸透させやすい中小企業の中には、大企業よりも機動的にサステナビリティに関する取り組みを進めている企業もある。しかし、経営資源の制約等から、サステナビリティに関する取り組みの重要性を認識しつつも、大企業の様な網羅的な取り組みを進めることの難しさを感じている中小企業も多い。そういった状況に直面した場合は、まず、自社にとって重要なステークホルダーは誰かという問いに立ち返ることで、取り組みの優先順位を付け、段階的に進めていくことを検討してはいかがだろうか。

本稿を通じて、1社でも多くの企業が、サステナビリティに関する取り組みを実践して頂くこととなれば幸いである。

(執筆者)
コンサルティング事業本部社会システム共創部ESGコンサルティング室
コンサルタント櫻井洋介
国際人権法の学位と社会保険労務士資格を有し、ESG全般に係るコンサルティング業務の中でも、特にビジネスと人権や労働CSR等の分野を専門とする。英国エセックス大学ロースクール国際人権法専攻修了。一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程在籍中(労働法)。メンタルヘルスマネジメント検定1種(マスターコース)合格。東京商工会議所認定健康経営アドバイザー。


1 本稿では、紙幅の都合、SDGsに関する詳しい説明は割愛している。SDGsの詳細は、国際機関や外務省「JAPAN SDGs Action Platform」等のWEBサイトを参照されたい。
2 一般的には「持続可能性」と訳される。組織や分野、文脈によって様々な意味付けがなされる概念であるが、本稿では、企業が経済・環境・社会の各側面に与える長期的影響を考慮し、ステークホルダーからの信頼や企業価値を高めながら、持続的に事業活動を展開していくことを指す。
3 なお、「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標である。
4 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、人類社会発展の歴史における5番目の新しい社会。IoTやAI、ロボット等の革新技術を最大限活用して人々の暮らしや社会全体を最適化した未来社会を意味する(経団連WEBサイトより)。
5 足立辰雄編著『サステナビリティと中小企業』124頁(同友館,2013年)
6 2013年4月、バングラデシュの首都ダッカ近郊にあるラナプラザビルが崩落し、1000人以上が死亡した事故。同ビルは違法な増築が行われており、壁に亀裂が入る等、事故直前も劣悪な状況であったが、同ビルには欧米の有名衣料品ブランドの縫製工場がテナントとして入っていたことで、これらのブランドの社会的責任が追及される形となった。
7 ILOの提唱する概念で、「権利の保障」「社会保障の確保」「社会対話の確保」「自由と平等の保証」「生活の安定」等を伴う生産的な仕事を指す。日本語では、「働きがいのある人間らしい仕事」と訳される。
8 日本商工会議所「人手不足等への対応に関する調査」(2018年6月)
9 リクルートワークス研究所「第35回ワークス大卒求人倍率調査」(2018年4月)
10 経済産業省WEBサイト「健康経営の推進」より
11 出勤はしているが、体調が優れない等の理由により生産性が低下している状態をプレゼンティーイズムと言い、病気等によって出勤できない状況を「アブセンティーズム」と言う。各種の研究によれば、アブセンティーイズムよりプレゼンティーイズムの労働損失の方が高いことが指摘されている。
12 仕事に対して、熱意、没頭、活力の3つの要素が揃い、積極的で充実した心理状態を指す。ワーク・エンゲージメントの高まりは、仕事への満足感やパフォーマンスの向上、ストレスの低下等の効果をもたらすため、メンタルヘルス対策としても注目されている。

あわせて読みたい

「SDGs」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ブラタモリに失望 忘れられた志

    メディアゴン

  2. 2

    立民議員の官僚叩きに批判が殺到

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  3. 3

    任命拒否 学者6名に無礼な菅首相

    メディアゴン

  4. 4

    上野千鶴子氏 任命拒否に危機感

    女性自身

  5. 5

    元民主・細野氏らデマ拡散へ揶揄

    文春オンライン

  6. 6

    日当7万円 公務員と比較したのか

    橋下徹

  7. 7

    机叩き…橋下氏語る菅首相の会食

    ABEMA TIMES

  8. 8

    官邸前ハンスト 警官と押し問答

    田中龍作

  9. 9

    高級車雨ざらし カーシェア破産

    SmartFLASH

  10. 10

    国に従わず支援求める朝鮮学校

    赤池 まさあき

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。