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スマートフォン戦争の勝敗はついたのか

もう一週間も前のことになるが、今回のゴールデンウィークは、いろいろなニュースが流れてきた。特に一番印象的だったのは、夜中に私のTwitterに飛び込んできたCNETのこちらのニュース。分かっていたこととはいえ、今更グラフでちゃんと見せられると結構ショックだった。

Apple, Samsung put hammerlock on smartphone profits-CNET (2012/5/4)

携帯電話市場における「プロフィットプール」つまりその業界の企業が出している利益全体を、誰がどのように分け合っているのか。Asymco社が算出した結果、2011年第四四半期において、アップルが全体の73%、サムスンが26%、台湾のHTCが1%を取っているという報告がされたという。

そのニュースに掲載されていた、2007年からの業界のプロフィットプールのシェア変遷を描いたグラフがこちらである。
このプロフィットプールは、携帯電話業界全体なので、スマートフォンだけではない。特に2007年のころ、最大の利益を誇っていたNokiaは、スマートフォンではなく、主に新興国などで発売していたシンプルな携帯電話で業界全体の6割もの利益を得ていたのだろう。それがいまや殆ど利益を得られず、利益を出しているのはApple、Samsung。過去からの推移を見ると、その方向は固定化しつつある。

図中のSEはSony Ericsson、RIMはResearch In Motionつまりブラックベリー、SamがSamsung。後は会社名のまま。 

画像を見る
Credit: Asymco;  Through: CNET

このグラフから明らかに言えることが4つある。

1. もはやスマートフォンだけが勝ち組であり、スマートフォンにうまく移行できなかった携帯電話の王者は全て負け組に

旧来の携帯電話の王者であり、2007年には業界の6割の利益を享受していたNokiaの影は、2011年にはもはや無い。通話とメール機能を絞り、シンプルで安く使いやすいNokiaの携帯は、いまだに新興国におけるシェアはそれなりに大きいが、Android携帯などの攻勢に会い、かつての利益率を保てなくなってしまったのだろう。

私がMITに留学していた2009年頃、周辺でNokiaでアルバイトをしていた学生が結構いた。当時のNokiaは、Appleによるスマートフォン攻勢を迎え撃つために、独自のスマートフォン向けのOSを開発したり、マイクロソフトと共同開発しようとしたり、色々と模索しており、そのOSの開発や経営戦略策定のためにMITの学生がたくさん雇われていたようだ。しかし、この「独自OS」戦略は結局うまくいかず、Nokiaはヒットするスマートフォンの機種を出せずに終わってしまった。スマートフォンは、使えるアプリがどれだけリリースされるかなど、ネットワーク効果が重要であり、Winner takes Allの世界だ。デファクトを取れないOSはまったく普及せず、結局開発費だけがかさむ結果となってしまったのだろう。

2. スマートフォンにおけるAndroid v.s. Appleの戦いは、Appleの勝ち

次にいえるのが、勝ち組であるスマートフォンの中でも、明らかな勝ち組はAndroid陣営ではなく、Appleである、ということだ。上のグラフの中では、Androidによるスマートフォンを出しているのが、HTC、LG、Sony Ericsson、Samsungであるが、これら4社を合わせた利益は徐々に下がってきており3割に満たず、Appleが業界利益の7割を占めているほどに増加している。Appleの一人勝ちとなってしまった。

何故Android陣営は利益率が低いのか?主に考えられる理由は二つでは無いだろうか。

ひとつはただでさえAppleより価格が取れない中で、Android陣営内での差別化が難しいため価格競争が進んでいること。Android携帯は、ただでさえAppleのiPhoneに比べて価格を落として販売している。そのうえ、同じAndroidを使っている以上は、使えるアプリもなので、差別化が非常に難しい。形状とか、色々違いはあるだろうが、価格に転嫁できるほどの差別化要素にはならない。その結果価格競争に陥っているのではないか、ということだ。

もうひとつはAndroidを利用するための開発費がかなりかさんでいるのではないか、ということ。MITには、GoogleでAndroidを開発していた人から、携帯電話会社でAndroidの開発をしていた人まで大量にいたが、彼らによると、GoogleがリリースしたAndroidは、そのままでは使い物にならず、各携帯電話会社がかなりの開発費をかけて、普通に携帯電話に使えるように開発を進め、その結果各社が開発費を相当負担することになったという。某携帯電話会社のAndroid開発部隊にいたMITの友人は、その企業が先んじてAndroidの応用開発を始めて、相当の開発費を使ってしまったのに、リリースが遅れたので赤字を生んだと話していた。GoogleのAndroid部隊にいたMITの友人は「Androidは無料だというが、あれはGoogleの宣伝であって、実際にはベースと鍵になるソフトの断片しかリリースできていない。実際の製品にするには企業が相当の開発費を使わなければ使い物にならないから「無料」では無いんだよ」と話していた。開発費は当然AppleがiPhoneを開発する際にもかかるだろうが、Android陣営は各社がそれぞれに開発費をかけているという無駄が生じている分、全体として損をしている可能性があるだろう。

3. Android陣営の中で唯一利益を出しているのはSamsungだけ

もうひとつ面白いのが、利益があまり出ていないAndroid陣営のうち、圧倒的に利益を出しているのはSamsungだけだということだ。LGやソニーエリクソン、そしてこのグラフに載っていないその他の日本や台湾の携帯電話会社が利益を出せずにいるのに対し、Samsungだけが大きな利益を出している。やはりGalaxy携帯などAndroid陣営の中で先んじてブランドを構築することに成功したため、それなりの価格プレミアムとシェアが取れていることが大きいのだろう。トップダウン組織ならではの、最初にどーんと先行技術に投資して、いち早く先端技術を提供することでシェアを取り、プレミアムを確保して利益率を取るというサムスンのやり方は、携帯電話業界でも成功しているといえるだろう。

4. 携帯電話業界において、旧来の携帯からスマートフォンに移行して利益を出し続けているのはSamsungだけ。ゲームのルールの変更にさっさと気がついて投資戦略や自社の体制を変えられたのが鍵。

最後に、旧来の携帯電話時代からずっと利益を出し続けているのはSamsungだけであるということにも注目しておきたい。いわゆる「イノベーションのジレンマ」とは少し異なるが、必要となる技術が変わり、勝つためのモデルが異なってきた場合に、新しい技術に移行して勝ち続けるというのは簡単なことではない。通常勝ち組企業は、自社が勝ち続けることが出来た仕組みに固執し、新しく必要になるモデルに移行できずに負けてしまうことが多い。たとえばNokiaの場合は、独自の安いOSに基づく垂直統合の構造で、安価な携帯電話を作り、ボリュームゾーン中心に大量に売ってきたのが旧来の携帯電話での勝ちモデルだったが、Appleに対抗して遅れて独自OSに取り掛かったのが負けた理由かもしれない。彼らがSamsungと同様、Androidを活用してボリュームゾーン向けのスマートフォンに早急に移行できていれば、Samsung並みには利益率を維持できた可能性もあるだろう。

一方Samsungは、ゲームのルールが変わってきたのを早急に察知して、Galaxy携帯のようなものをいち早く出すなど、新しい体制に移行できている。これが技術が変わっても利益を出し続けていられる理由だろう。

携帯電話業界のように、技術が次々に進歩する世界では、勝つためのモデルが変わってくることは多い。そして、もともとの勝ち組だった企業が、自社のモデルに固執して、新しい技術で負け組となってしまうことが頻繁に起こる業界だ。携帯電話というものを開発し、1G携帯では王者だったモトローラが、2G, 3G携帯でNokiaに負けていったように。現在のスマートフォンでは、完全に勝ち組となったAppleであるが、ポスト・スマートフォンでは、心して変化に対応していかなければ、負け組となってしまう可能性は高いだろう。特に、垂直統合によって強みを発揮している企業は、一般的には業界の変化には弱いこともあり、Appleは注意して業界動向を注視し、変化に投資していく必要があるだろう。

(Special Thanks to @linsbar, @Kelangdbn, @muta33 and @mghinditweklar for additional Twitter discussion)

(参考)市場において、製品の「ドミナント・デザイン」(市場でこの製品はこの形状、形とみんなが認めるデザイン)が決まってくると、市場に残れる企業数が減っていく、というのがUtterback先生の研究。理由は、ドミナント・デザインが決まるとWinner takes Allの様相が強まるので、利益が出る企業数が限られるようになるから。私もMITにいたとき実証研究をやったんだけど、たとえば液晶テレビの場合は以下。ドミナント・デザインが決まったと思われる2005年以降、Exitする企業が増えて、市場にいる企業数が減っていった。スマートフォンにおいても、これと同様のことがもう起こり始めているといえるだろう。

画像を見る

その他、Utterback先生の本ではあらゆる業界において検証がされているので紹介しておく。

リンク先を見る

Mastering the Dynamics of Innovation
Harvard Business School Pr

この本の日本語版は絶版になってるので、英語版を紹介しておく

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