- 2019年07月03日 09:00
【読書感想】読みたいことを、書けばいい。
2/2わたしが講師として登壇させてもらう授業には、「ネットでなにかを書いて、ひとに読んでもらいたい」という生徒が大勢集まる。いわゆる「ライターになりたい」人である。しかし、上記のように「では、あなたが書く分野はなんなのか?」という定義に無自覚な人が多い。
事象寄りのものを書くのならば、それは「ジャーナリスト」「研究者」であり、心象寄りのものを書くのであればそれは「小説家」「詩人」である。それらは、どちらもある種の専門職というべきものである。
そのどちらでもない「随筆」という分野で文章を綴り、読者の支持を得ることで生きていくのが、いま一般に言われる「ライター」なのである。
ネットで文章を書いている人には「ライター志望者」も少なからずいるはずです。
ところが、その多くが、自分が書いているのがどんなジャンルの文章なのか理解していない、と文章講座の講師としての経験も踏まえて、著者は述べています。
わたしが随筆を定義すると、こうなる。
「事象と心象が交わるところに生まれる文章」
ほとんどの生徒がこう言われると、びっくりした顔をする。つまり、自分が書きたくて、また読んでほしい分野の定義ができていないのだ。
事象とはすなわち、見聞きしたことや、知ったことだ。世の中のあらゆるモノ、コト、ヒトは「事象」である。そこに触れて心が動き、書きたくなる気持ちが生まれる、それが「心象」である。
その2つがそろってはじめて「随筆」が書かれる。人間は、事象を見聞きして、それに対して思ったこと考えたことを書きたいし、また読みたいのである。
そしてネット上で読まれている文章のほとんどはこの「随筆」にあたるものである。
ところが、ネット上に公開されている文章には、このバランスがとれていないものが多いのです。
「事実」についての基本的な認識が間違っていたり、単に「心象」しか書かれていなかったり。
有名人であれば、「うれしかった」「悲しかった」にも、多くの反応があるのでしょうけど、そこらへんにいるおっちゃん、おばちゃんの感情になど、誰も興味を持ってはくれません。
書くという行為において最も重要なのはファクトである。ライターの仕事はまず「調べる」ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと「筆者はこう思う」と書く。
つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。
たとえば、テレビ番組で参考になるのは『NHKスペシャル』だ。あの番組では、徹底して調べた事実、そしていままで明らかになっていなかった新事実が提示され、作り手の主義主張を言葉にすることはない。ファクトを並べることで、番組を観た人が考える主体になれる。調べたことを並べれば、読む人が主役になれる。
調べもせずに「文章とは自分を表現する場だ」と思っている人は、ライターというフィールドでは仕事をすることができない。
いまからでも遅くはない。そういう「わたしの想いを届けたい!」人は、歩道橋で詩集を売ろう。
「気持ち」だけでは、読んでもらえる文章にはならない、ということなんですね。
少なくとも、書いている人自身が、よほどの人気者とか有名人でなければ。
この本を読んでいて痛感するのは、世の中には「面白い文章を書く才能がある人(あるいは「面白い人間」)というのが存在していて、努力やトレーニングでは越えられない壁が存在しているのではないか、ということなのです。
以前、作家の原田宗典さんのエッセイで、こんな言葉を読んだことがあります。
「小説家になるには、どうすればいいですか?という質問を受けることが多いのだけれど、本当に『なれる』人は、そんなことを尋ねる前に、まず自分で小説を書いてみて、その作品の感想を求めてくるものだ」
他人に教わってなんとかしよう、と考えている時点で、かなり出遅れているのです。
というか、「書かずにいられない」というくらいじゃないと、仕事としてやっていくには厳しい世界みたいです。
この本の内容は「著者の文章論」としては非常に面白いのだけれど、他人が真似するのは難しい。
ただ、いまのネットに溢れている「根拠なき自信の表明」や「どこかで見た話のコピー&ペースト」を考えると、「(ネット以外で)ちゃんと調べて書く」「感想を書こうという作品やコンテンツについて、ちゃんと観て、読んで書く」だけで、けっこう差別化できるのではないか、とも思うのです。
サラッと読めて、さて、これで本当に「バズる文章」が書けるようになったのだろうか?と考えてみると、たぶん、そんな即効性はありません。
でも、これを読むと、文章を書く基礎体力みたいなものが、底上げされるのではないか、という気はします。
とりあえず、まとまった文章を書くことはできるのだけれど、なんだか自分が書くものが面白くない。そんな人におすすめです。

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