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勝てるか?(その1)

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 ただ、こうやって書くと、そもそも現行の汎用品規制が、古臭いGATTの規定の範疇で解釈しにくいという根源的な問題になってしまいそうなので、これ以上は止めておきます。

 話題を変えて、別の論点として「GATT21条の規定をよく読むと、日本が安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認定をすればいいんだろ。日本独自の判断で安全保障例外は決められる。」と思うかもしれません。しかし、最近のWTOのパネル報告書ではそういう解釈は厳に排除されています。

 このGATT21条についてはこれまで判例が無かったのですが、今年の4月にWTO紛争解決で最初の判例が出ました。ウクライナからロシアを経由して第三国への貨物について、ロシアが安全保障上の理由から一定の規制を課していました。具体的には、ベラルーシを必ず経由すべしとか、衛星測位システムの付いている自動車・車両でなければならないといった規制でした。ロシアはこの規制を安全保障例外で正当化していました。最終的にはロシアが第一審(パネル)で勝っています。ロシアが引用したのは、ウクライナとの事実上の戦闘状態を踏まえて上記の(b)(iii)ですので、日本と韓国の状況とはかなり異なりますが、ここでのパネルの報告書はなかなか示唆的です。

 報告書によると、GATT21条の読み方として、安全保障例外を発動する「必要性」については各国の判断ですが、それが本当にGATT整合的に誠実に判断されたかまでは各国に委ねられてはいません。ジャイアンのように「オレが安全保障例外だと認めれば、それは合法である。」なんて事はありません(ちなみにロシアはそう主張していたようです。)。

 そして、「安全保障上の重大な利益(essential security interests)」とは何かと言ったら、パネルは「"quintessential functions of the state"に関わる利益」と理解されるべきものとしています。この"quintessential"という言葉、訳しにくいのです。辞書には「典型的な」となっていますが、それでは全然語感を伝えていません。多分「精髄」みたいな言葉が一番いいのだと思います。変な日本語ですが、「国家の精髄的機能に関わる利益」とでも言うのがいいのでしょう。そして、ロシアの措置はこの「安全保障上の重大な利益」を保護するために必要だと判断されたので、パネルでは勝訴しています。

 勿論、日本は今回の措置を「安全保障上の重大な利益(国家の精髄的機能に関わる利益)」を守るためだと主張するのでしょうが、今回の措置発表の際に経済産業省が述べた「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」、「大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した」という2つの理由で、WTOのパネリストが納得するかというと私はかなり首を傾げます。

 まずは、純粋にGATT21条の安全保障例外規定との関係のみについて記述しました。政治・外交上の文脈については、このエントリーでは一切考慮していません。この対韓輸出規制の話は1回のエントリーで終えるつもりでしたが、長くなりそうなので稿を改めます。なお、誤解は無いと思いますが、私はこの韓国との法戦に勝ってほしいと願っている人間です。

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