記事

仏で日本人の子供連れ去り非難

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図) ハーグ条約について 
出典)外務省「ハーグ条約ってなんだろう?」パンフレットより

 記事によると、子供との面会を求めているフランス人ヴィンセント・フィショさんは、離婚騒動が起こった時点で、家族とともに、フランスではなく日本の世田谷の住宅街に住んでいた。ところが、ある日フィショさんが家に帰ると、妻と子供達の姿がなく、その後、妻の弁護士から連絡が来たという流れだ。妻はフィショさんからDVを受けていたと訴えて、保護シェルターで過ごした経緯がある。フィショさんは、元妻のDV証言は虚偽であると主張し、子供との面会を求め続けている。フランスの裁判所で親権を持つ判決を得たが、もちろん日本では無効であり、フランス本国、大使館にも助けを求めたが、住んでいる国の法律を尊重することは当然のことであり、何もできないと言われた。

 ドキュメンタリーに出てくるフランス人男性エマニュエル・ド・フルナスもほぼ同様のケースだ。番組内で元妻のもとに行き、子供に話しかけるが、元妻が警官に説明している話しによると、日本の裁判所の判断が書面で存在するのだろうか、面会できないことになっているという。それに対してフルナスさんは、「フランスの裁判所の判断ではできる」と証明書を見せるが、「それはフランスの話しでしょ。ここは日本です」と反論される。

 ドキュメンタリーに出てくるフランス人男性ステファン・ランベルトさんも東京近郊に家族と住んでいた。しかし、激しい口論をした次の日に、妻が子供を連れていなくなったという。長い裁判を経てようやく、月4時間、子供と面会する権利を得たが、元妻は現在も面会することを拒否している。そこで、ランベルトさんは、元妻の親の家を何回も訪ね、誰かが何か行動を起こしてくれるかもしれないという期待とともに、周りに知ってもらうために時にはわざと近所に聞こえるような大声で「子供に会わせてください」と懇願もした。ドキュメンタリーでは、テレビカメラを連れて、許可も取らずカメラを向けながら、グイグイと玄関内まで押しかけ、元妻の母親をまくしたてるのだ。最後には、警察が仲裁に入ったようだ。

 ランベルトさんについて言えば、面会を許されても、現在の法制度では面会を強制執行することはできず、結局のところ拒まれてお子さんと会えないことは気の毒ではあるが、この様子を見ていると、強引な侵入を受ける側は、これ自体を暴力行為として感じるだろうというのが正直な感想だ。

 元妻側の主張はどこにも出てこないので、実際の状況は分からないが、こういった強引なやり方は、穏やかな日本では非常識な行動とも言えるだろう。この類の強引な態度をいろいろな形で日常で行われていたならば、日本人女性はモラルハラスメントを受けていたと感じていた可能性も否定できない。また元妻側としてみれば、現在ランベルトさんが住んでいるのはハーグ条約が結ばれていない台湾であり、反対に子供を連れて行かれた場合、元妻側の方が子供と一生会えなくなる危険性もある。フランス人側の主張のみが流されるが、この問題には、両者ともに理解してない、文化の違いを大きく感じさせられる。

 さらに、ドキュメンタリーの最後では、フランスのパリ日本文化会館の前で、「私達の子供は、日本に拉致されました」という横断幕を持ちデモを行った様子が紹介される。「フランス人の子供達が日本に誘拐された」、「日本は子供の人権を守っていない」とフランスでも訴えたのだ。ここでも、日本の法にのっとって離婚しているにもかかわらず、「拉致された」という強い言葉を浴びせかけられているのだ。

 なぜ、日本だけ単独親権になったのかと調べてみたが、単に昔からそうされていることが現在まで続いているだけに過ぎないようだ。しかも昔から続いてきた習慣でもある単独親権は、離婚も少なく、文化的に適合していた日本では長い間多くの人が納得していた制度だったのだ。

 戦後すぐは父親が親権を持つことが多かったが、1966年を境に母親が親権を得る割合が逆転し、現在は8割が母親が親権を持つようになった。そして離婚後は母親が子供を育て、父親が養育費を払い、たまに子供と面会する場合もあるという形が一般的になっていったのである。そのため、日本では、離婚とはそういうものだという感覚も強く、子供と会えない状況に使う言葉としても「親権を取られた」または「母親(父親)の方に引き取られ」というような表現で語られることが多い。

 しかし、共同親権が普通の国では、自分が子供と会えない状態は「連れ去り」など、犯罪を匂わす強い言葉が使用される。例えば、英国では、親権者による一カ月を超える連れ去り行為は、1984年児童虐待法によって「拉致」と定められていたりするなど、「誘拐」であり「虐待」であると、ネガティブな強い言葉をもって、子供と会わせない相手を非難することが主流になっているのだ。

 その結果、日本人女性から見れば、「単独親権」の日本に住み、日本の法にのっとって行動し、法を守っている立ち場であるのにもかかわらず、「拉致」や「誘拐」などの思ってもみない強い言葉でののしられ、責め立てられるという不当な扱い受けているとも言える。

 しかし、「共同親権」がある国から日本に来た外国人は、離婚した時に共同親権がないことを初めて知り、自国と同様には子供に会えなくなることに対する悲しみは深い。思い通りにいかない憤りと悲しみから自殺者もでているが、中には元妻に直接過激な行動を起こすこともあり、殺人まで起きている。3月20日、東京都千代田区霞が関にある東京家庭裁判所の1階建物内で、女性が刃物で首を切られて殺害された。女性は離婚協議のために家庭裁判所に出向いたところ、協議相手の米国籍の夫が持っていたナイフで刺されたのである。

 不幸な状態から抜け出すために離婚するのにもかかわらず、日本と結婚相手の国の制度の違いによるもつれから、離婚後は、さらに両者が幸せになれない事態に陥っているのである。

写真) 山下貴司法相 「共同親権」検討のため、24か国調査を外務省に依頼したと5月17日に公表
出典)法務省ホームページ

 こういった状況を受け、現在、日本でも「共同親権」の見直しに向けた動きは既に始まっている。5月9日に法務省により「共同親権制度」導入可否の検討に入ることが決まったことが発表された。「共同親権」に対する検討に先立ち、法務省は外務省を通じて7月末までに24カ国の制度を調査し、問題点を整理する方針だ。

写真) G20大阪サミット出席のため来日したマクロン仏大統領(2019年6月29日) 
出典)Élysée twitter

 また日本でG20大阪サミットが開催され、マクロン大統領が来日したことを期に、前出のフランス人男性たち、フィショさん、フルナスさんおよび、ランベルトさんがマクロン大統領にこの問題の解決を訴えた。それを受けマクロン大統領は、日本のフランス人コミュニティへのスピーチの席で、「われわれは彼らの側にいる」と彼らに寄り添う姿勢を示しており、フランスからなんらかのアプローチもあるかもしれない。

 「共同親権」の問題は、各国の間には数多くの制度の違いがあり、その制度の違いは、はざまに生きる人々を不幸にする場合があることを深く考えさせられる。また、時代の流れとともに、現在では日本国内でも「共同親権」を求める声が広がってきていることも事実だ。今後どのような調査結果がもたされ、日本がどのような判断を出すかはまだわからないが、こういった制度の違いが理由で不幸になる人々が、今後はもっと減少していくことを願わずにはいられない。

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