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アジアの平和構築若手の人材育成こそ急務

(リベラルタイム 2019年8月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

日本財団が手掛けている奨学金事業の一つに「アジア平和構築奨学金事業(APS)」がある。地域紛争や宗教・民族対立が激しさを増すアジアで、国際的な視野に立って平和構築に貢献できる人材を育成するのが狙いだ。

開始は二〇〇七年。日本財団が授業料のほか渡航費、生活費を支援する人材育成プログラムで、フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学と南米コスタリカにある国連平和大学の修士課程で、アジアの情勢や平和構築に関する専門知識を十八・五〜二十一・五ヶ月間学び、両大学の修士号を取得する。

大学卒業後、二年程度の実務経験がある人が対象で、募集人員は毎年、最大三十人。これまでの卒業生は計二百九十二人、現在、十二期生と十三期生計五十五人が両大学で学んでいる。
卒業生の内訳は日本人が百十八人、フィリピン、インドネシア、タイなど東南アジア八カ国が計百四十六人と双方で全体の九割を占める。主な進路はNGO(非政府組織)三四%、国連および関連の調査機関二〇%、政府関係一三%などとなっている。

グローバル化が進む中、若者の活動なくして日本が国際社会の中でプレゼンスを維持していくのは難しい。ともすれば“内向き”が指摘される日本の若者に、アジアの若者との交流を通じ国際感覚と逞しさを身に付けてほしいー。
こんな素朴な思いで事業をスタートさせた。国連平和大学の修士課程はアフリカや南米、欧米の学生も含め一学年約二百人。世界の若者との交流を通じ、密度の濃い専門知識を身に付ける格好の場にもなっている。

最近、ミャンマーで事業の重み実感するケースもあった。北部のカチン州では、ミャンマー国軍と少数民族武装勢力・カチン独立軍(KIA)との紛争で十二万人に上る住民が州外に避難する事態となっており、ミャンマー国民和解担当日本政府代表を務める当財団の笹川陽平会長にとっても、避難民をどう元の村に戻すか、和平を実現する上でも大きなテーマとなっている。

そこで二月、KIAに影響力を持つNGO「カチン・バプティスト協議会」の代表者とヤンゴンで会談、協力を要請し、最終的に日本財団が三十万米ドルを支援し避難民の帰還を促すことで一致した。日本財団関係者によると、随行者として会談に同席したヌカム・バーク・ヌ・アウンさんはAPSの第十一期生。APSを通じた日本財団に対する彼女の高い信頼が、協議会幹部の重い腰を動かすことになったという。

日本財団では姉妹財団とも協力して世界四十四ヵ国六十九大学で展開する「笹川ヤングリーダー奨学基金」(Sylff)や日中笹川医学奨学金制度、スウェーデン・マルメ市に国際海事機関(IMO)が設けた世界海事大学(WMU)への支援などを通じて、途上国を中心に二万人を超す人材を育成し、成果を挙げてきた。

特にWMUでは世界七十二カ国で六百十一人に上る日本財団フェローが育ち、温暖化をはじめ海の危機に対し活発な活動を展開している。同じ大学で育った仲間意識、風通しの良さが相互協力・連携を後押ししていると見られ、筆者は六月六日、首都サンホセの西方二〇キロ、シウダード・コロンにある世界平和大学にフランシスコ・ロハス学長を訪問。新たに一億円の「卒業生ネットワーク活性化基金」(仮称)を設け、APS卒業生の今後の活動強化を図ることで一致した。

アフリカやアジアの紛争解決では、欧米の活動家が先頭に立つケースが目立つ。しかし、アジアにはアジアの価値観、風土がある。平和構築は何よりもアジアの人材、アジアの目線で行われる必要がある。そのためにも専門知識を備えた人材育成が何よりも急務。そんな思いを強くしながら、軍隊を持たない平和国家コスタリカを後にした。

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