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群蟲の叡智 - 書評 - 群れのルール

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東洋経済新報社佐藤様より献本御礼。


これはすごい。


すごくない生き物が集まるとすごくなるという事実そのものがすごい。


そしてそれがすごくない、生き物でさえないものにも適用できる事実がすごい。


そしてその考えの行き着く先--それは本書からはみ出すことにはなる--がすごい。





本書「群れのルール」は、真の意味での「群集の叡智」を取り扱った一冊。群衆ではない。群集だ。


目次

序 章 困ったときはプロに聞け

第1章 アリ:ボトムアップの「自己組織化」で難問を解く

第2章 ミツバチ:「みんなの意見」で賢い判断を下す

第3章 シロアリ:「間接的協業」で驚異の構造物を生み出す

第4章 鳥:「適応的模倣」で群れが一つの頭脳になる


第5章 バッタ:暴走した群れの悲劇

終 章 賢い群れから何を学ぶか


そう。本書の「先生」は、アリであり、ミツバチであり、シロアリであり、鳥であり、そしてバッタである。第四章の鳥を除けば鳥獣ですらない。虫である。一匹一匹は、生き物というよりは機械のような、あの虫たちである。個々の彼らは観察すればするほど、知能と呼べるものは見つからない。彼らは単純なルールにのっとって、ゼンマイのオモチャのごとくふるまう。


ところが彼らが群れをなしたとたん、霊長類のそのまた長である我々にも出来ない芸当をやってのける。実に痛快ではないか。


ここまでは、ファーブル先生も知っていたはずだ。


本書はそこに留まらず、我々もまた彼らの真似が可能で、そして真似することにより個々の我々がいくら知恵を振り絞ってもできなかったことを、いとも簡単に、それも機械にやらせることが可能であることを示している。例えば資源の最適分配であればアリをプログラムすればよいし、探索であればミツバチをプログラムすればよい。


そしてもちろんこのことは、我々自身が個々の虫を真似しても、社会全体として成り立つ。


404 Blog Not Found:"Crowds"は「みんな」じゃない - 書評 - 「みんなの意見」は案外正しい


「群衆の叡智」は、「衆」の多様性が高ければ高いほど強くなる。著者は指摘していないが、これは物理現象を統計処理した人ならすぐわかることだ。ノイズが多ければ、時間積分してノイズを濾すことが出来るが、しかし観測装置にクセがあっては正しい結果は得られない。このクセを殺すためにも、「アンテナ」は離れていれば離れているほどよい。

「みんな」になってしまってはむしろ群衆の力をそぎ落とすことにすらなりかねない。


とはいえ、群集の叡智は上手くいくとも限らないこともまた、バッタ(grasshoppers)、いやイナゴ(locusts)が教えてくれる。個々のバッタは牛よりはるかにつつましく、我々の見えないところで草を食んでいるが、イナゴになった途端、バッファローの群れの暴走よりはるかにすさまじい災害をもたらす。これは彼らの生きる環境は元より、彼ら自身にとってもプラスとはいえないに関わらず、である。


分散システムの特長に関しては、以前紹介した「ヒトデはクモよりなぜ強い」も取り上げているが、同書では個体を比較していたのに対し、本書は群体を対象としているところが特徴的だ。


それで一つ不思議なのは、本書においても人間を個体として捉えていること。


実のところ、我々が個人と呼んでいるそれもまた、群体なのではないか。


数千億の脳細胞と、数十兆の細胞からなる。


ヒトはヒトデどころかクモと比較してさえ中央集権的な多細胞生物ではある。しかしだからといって、脳に中心があるわけではない。脳細胞を一つ取り除いても、「我々」はそのことに気づきもしない。個々の我々自身もまた、人体という群体による群集の叡智であるはずなのだ。



本書ではそこまでの飛躍はしていない。がそれはあえてしていないのだろう。そこまで進んでしまうだけの紙幅は本書にはない。しかしそのためのステップとして本書は実に得難い一冊である。


あなたという群体も、興味をしめさずにはいられないはず。

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