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犯罪加害者家族を孤立させても犯罪は減らない。1500件以上の相談から見えてきた課題—NPO法人 World Open Heart

仙台市を拠点に2008年、国内で初となる犯罪加害者家族の支援を始め、これまでに1500件以上の相談を受けてきた「NPO法人 World Open Heart」。理事長の阿部恭子さんに、加害者家族が直面している問題や支援のあり方、今回「中堅世代」に光を当てた理由や今後の支援の展望について聞いた。

理事長 阿部 恭子さん

メディアスクラムや脅迫状、加害者の家族が受ける差別

「World Open Heart」理事長の阿部恭子さんは大学院時代、憲法を研究テーマとし、人権の観点から、どんな人たちがサポートの網の目からこぼれているのかを調べていた。

「2004年に犯罪被害者等基本法、08年には被害者が刑事裁判に直接参加できる被害者参加制度ができ、09年から裁判員制度が始まるという、そんな時期でした」

 こうした制度の背景には、加害者(被疑者・被告人・受刑者)の権利が確立されている一方で、被害者という存在が放置されていることへの不公平感があったと阿部さんは言う。「では加害者の家族はどのような状況にあるのかと疑問に思い、調べてみましたが、殺人事件や交通事故の加害者家族が自殺したという記事が、わずかに出てきただけでした」

 そこで阿部さんは加害者家族の現状を知るために、学生仲間と調査を開始。その中で、加害者家族へのサポートや自助グループの必要性を感じ、08年12月から加害者家族のミーティングを始めた。

 このことを全国でも類を見ない取り組みとして地元紙の河北新報が取り上げ、ネットのニュースで広まったことから、相談の電話が殺到。その多くが、殺人事件の加害者家族からの「どこにも相談できなかった」「私たちの声を拾ってほしい」という切実な声だった。

「事件発生後に自宅を取り囲むメディアスクラム(※)を見て、加害者家族は日本中を敵に回し、この先、生きていけないような絶望感を味わいます。『出ていかないと殺すぞ』という脅迫状が届き、転居を繰り返したり、ネット上に運転免許証のコピーをさらされたりした方もいます。父親が詐欺事件で逮捕されたある女の子は、『詐欺のお金で学校に来てるんでしょ?』といじめられ、転校を余儀なくされました」

※ 報道関係者が大人数で取材対象者宅や関係地域に押しかけ、当事者や家族など関係者の日常生活を脅かすような過剰な取材をすること。

 欧米では加害者家族が自分の体験をもとに顔を出して活動しているが、犯罪発生率の低い日本では加害者に対するアレルギーが強く、家族が差別を受けるという。

「刑事事件を得意とする弁護士や不動産会社の協力を得たことで、弁護士費用や被害者への示談金に関する問い合わせや生活再建・転居の相談にも応じられるようになりました」

年間300件の電話や面談。加害者家族が集うミーティング

どう乗り越えていくのかを語る

 現在は年間約300件の加害者家族からの電話や面談による相談に乗るほか、警察署や刑事施設、裁判所への同行、仕事を休めない家族の代理で裁判を傍聴する支援などを行っている。さらに、仙台、東京、大阪、名古屋、熊本の5ヵ所で2ヵ月に1度ほど、加害者家族の会「オープンハートタイム」を開いている。そのうち大阪の運営は、連携先の「NPO法人スキマサポートセンター」に任せ、残りの会場には阿部さんが自ら足を運ぶ。

大阪の加害者家族支援団体「スキマサポートセンター」佐藤仁孝代表と講演

「トーキング・スティック(ここではクマのぬいぐるみ)を持った人が“私”を主体に、事件が起きたことの意味をどうとらえ直すか、加害者家族としてどう生きるかを順番に話していく。ほかの当事者が問題をどう乗り越えていったか知りたいという家族は多く、つらい時の仲間のあいづちは大きな力になります」

加害者家族のミーティング時に使用するトーキング・スティック

 会を続けるうちに、「加害者家族の中でも時間に余裕のある60代以上に比べて、中堅世代は仕事や子育て、親の介護に忙しく家族会への参加が難しい」という実態も見えてきた。

 そこで阿部さんはファイザープログラムに応募。助成1年目の18年は家族会に保育スタッフを配置し、参加しやすい環境を整えた上で中堅世代のニーズを調査したところ、仕事や子育てを続けながら、加害者家族として事件に向き合うことの過酷さが見えてきた。

「中でも少年犯罪加害者の家族に対する社会からのバッシングは激しくて、被害者への賠償やきょうだいの子育てに追われるうちに、自殺される方も少なくありません」

 また、「犯罪が世代間で連鎖すること」が世界的にも問題視されているが、そうでない人もたくさんいると阿部さんは言う。このことを明らかにするために、過去に相談を受けた「親が逮捕されたが、大人になっても犯罪行為をしていない人たち」約100人に調査を実施した結果、次のような共通する特徴が見えてきた。

「広い視野でものを見る知性がある」「家庭内のことをそのまま受け止めず、おかしいことはおかしいと気づける」「家の外に助けを求める能力が高い」
 学歴が高く、いい企業に就職している人もたくさんいた。一方で、「犯罪者の子どもだから」と言われないようにがんばりすぎて、その無理が自傷行為などの形で自分に向かうこともあるという。

台湾受刑者家族学会での講演の様子

家族にのしかかる再犯予防、

自助グループの広がりを願う

 助成2年目の今年はニーズをもとに、就労支援や子育て支援を行う予定だ。

「就労支援は、被害者への賠償などの社会的責任を果たすためにも必要です。また、子どもが幼い時に親が事件を起こした場合には、その事実をおいおい教えていかなければなりません。海外には、父親が刑務所にいることをわかりやすく子どもに伝える絵本がありますが、日本では伝えること自体をタブー視しがちです。親の犯罪のことで子どもがいじめに遭うケースもあります。今はSNSを使ったいじめも多く、親はなかなか気づけません。事件後の子どもとのかかわり方を、日本と状況が近い韓国の支援団体とも意見交換しながら研究していきたいと考えています」

 さらに、都心に比べると地方は引っ越しや転職が難しいという地域差もある。

「田舎では噂があっという間に広まり、村八分にされることもあります。交通事故を起こした加害者の中には恐怖心から運転できなくなる人もいますが、公共交通機関が発達していない地方では車がないと仕事も見つからない。地方での支援をどう組み立てていくかも今後の課題です」

 加害者家族には再犯の予防という役割も重くのしかかる。

「再犯の前には必ず予兆があるはずです。小さくても何かが起きた時に、丁寧な対応をすることが大事ですが、家族だけで立て直すのは極めて難しいので、第三者の介入が必要です」

 とはいえ、今のところ犯罪加害者支援を専門とする公的機関はないという。民間では、「World Open Heart」に続いて、昨年11月に山形県弁護士会が「犯罪加害者家族支援センター」を立ち上げた。「こうした弁護士会の相談窓口が各都道府県にでき、そこにプラスして、加害者家族の自助グループのネットワークが全国に広がっていくことを願っています」

阿部恭子さんの著書『息子が人を殺しました』『家族という呪い』(ともに幻冬舎新書)

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