- 2019年06月29日 21:52
医療の可能性と若手医師育成
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上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
【まとめ】
・医師の育成の在り方が議論されている。
・「兼業」は医師の生産性を上げる可能性がある。
・若手医師を育てながら地域医療を守っていかねばならない。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46462でお読み下さい。】
医師の育成の在り方が議論されている。本稿では詳述しないが、一般社団法人日本専門医機構が中心となって、カリキュラムおよび研修する病院を「統制」しようとしている。これは衰退する大学医局の復権を目論んだものだ。
さらに、医師不足に悩む地方からの要望に応える形で、厚労省が医師偏在対策を、この制度に盛り込み、東京などの都心部の定員は制限された。病院経営者にとって、若手医師は安い給料でよく働く貴重な労働力だ。医師確保は容易に利権化する。新専門医制度でも、日本専門医機構からはデータ改竄を示す内部資料が流出した。
当初、地方の医師不足を緩和するために、東京などの定員を制限したが、結果は正反対だった。すべての診療科で東京一極集中が加速した。例えば、内科の場合、東京は77人増加し、周辺の千葉(30人減)、埼玉(10人減)、神奈川(5人減)から医師を吸い寄せた。11の県(秋田、富山、福井、鳥取、島根、山口、徳島、香川、高知、佐賀、宮﨑)では内科志望者が15人以下となった。高知にいたっては5人だ。
このようになったのは、地域医療の中核である内科や外科ではへき地勤務を義務づけられるため、眼科や泌尿器科に研修医が流れたこと、および都市部の定員にキャップがかかるため、都市部の病院が過去の実績を「水増し」して要求したことが原因だ。なにやら喜劇のような話だ。
このような議論を通じて感じるのは、医学界の重鎮や厚労省が「若い医師はへき地勤務を嫌がる」と信じ込んでいることだ。必ずしもそうではない。日本専門医機構が推奨する大学医局の指示に従って関連病院をローテションするやり方が現状にそぐわないだけだ。やり方次第で、地方での勤務を希望する医師はいる。その代表が福島県浜通りだ。本稿では、福島県浜通りで活躍する若手医師をご紹介したい。彼らの働き方は、これからの医師の在り方を考える上で示唆に富む。
「南相馬と広島・上海で働かないか?」
坪倉正治医師は嶋田裕記医師に提案した。坪倉医師は福島県浜通りで診療する傍ら、福島県立医科大学の特任教授として、大学院生を指導している。坪倉医師の専門は血液内科。福島では震災直後から被曝対策に従事し、福島県立医大では公衆衛生学も教えている。嶋田医師は博士課程の大学院生の一人だ。
嶋田医師は2012年に東京大学医学部を卒業後、千葉県の名戸ヶ谷病院で初期研修を終え、2014年5月に南相馬市立総合病院に就職した。専門は脳外科だ。前述したように、昨年4月福島県立医大の博士課程に進んだ。南相馬市立総合病院で診療の傍ら、臨床研究を行う。

彼が研究テーマに選んだのは、遠隔画像診断だ。かつて脳卒中は「東北地方の風土病」と言われた。以前ほどではないが、現在も脳卒中の頻度は高い。
この領域の診断・治療は近年、急速に進歩したが、東北地方ではその成果が充分に患者に還元されているとは言いがたい。脳外科および放射線科の専門医が少ないからだ。
南相馬市内の民間病院に勤務した経験がある山本佳奈医師は「夜間、当直中に意識障害の患者にCTを撮っても、専門医に読影してもらうことは出来ません。転院を受けてくれる病院はほとんどなく、そのまま保存的に診るしかありません。(脳卒中の後遺症を大幅に減らす最新の治療である)血栓溶解療法などやったことはありません」という。これがへき地医療の実際だ。
遠隔画像診断は、この状況を変える可能性がある。萌芽的な営みは既に始まっている。山本医師は「脳卒中の患者でCT画像をスマホで写真にとって、嶋田先生に送ったことがありました。すぐに読影してくれて、そのときは南相馬市立総合病院に転院させてくれました」という。
これは山本医師と嶋田医師が旧知でスマホで連絡を取り合える仲だったからできたことだ。どこでも、誰でも利用できるようにシステム化するにはどうすればいいか。
この問題に取り組んでいるのが、広島市内で霞クリニックおよび株式会社エムネスを経営する北村直幸医師だ。CTやMRIの遠隔診断システムを開発している。

北村医師のことは、多くのメディアで取り上げられており、ご存じの方も多いだろう。総合情報誌『選択』は2018年9月号で「グーグルが支配を狙う日本の医療」という記事を掲載し、その中でエムネスのことを紹介している。北村医師の活動の世界的な意義が理解できる。ご興味のある方はお読み頂きたい。
ポイントだけを紹介すると、エムネスの売りは画像データをクラウドに集約していることだ。彼らが利用するのがグーグルクラウドプラットフォームで、グーグルはエムネスを「テクノロジーパートナー」に認定している。
エムネスのシステムを導入した医療機関では、撮影されたCTなどの画像はクラウドにアップされ、エムネスと契約する放射線診断専門医が読影する。結果は、画像に読影レポートをつけて、クラウドを介して、医療機関に戻される。
エムネスの売りは料金が安いことだ。それは画像の保管にはグーグルクラウド、やりとりにはインターネット回線を使うため、経費を圧縮できる。医療機関は専用回線や専用サーバなどの初期費用を負担する必要がない。負担する費用はMRIやCT 1台あたり月額3万円で、読影は一件で3,000円だ。
エムネスは急速に顧客を増やしている。楽天OBたちが銀座に立ち上げた「メディカルチェックスタジオ」という脳ドック専門のクリニックに導入されている。脳ドックの値段は1万8900円だ。通常の値段は4〜8万円程度であり、破格の安さだ。開業後1年半で2万人が受診したという。エムネスのシステムが脳ドック業界に革命を起こしていると言っていい。彼らの活躍は国内だけに留まらない。モンゴルなど海外からの画像も受け付けている。

こうなると大量の画像データがエムネスに蓄積される。これは研究者にとって宝の山だ。特に人工知能関係者からは注目されている。エムネスは、東京大学発のベンチャーであるエルピクセル社と共同で、人工知能診断を臨床現場に導入している。嶋田医師は、大学院のテーマとして、エムネスと協力して、この領域を専攻したいと希望している。
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