- 2019年06月29日 11:15
なぜ日本はブッダとイエスをイジれるのか
2/2仏教信徒が参加する「行事」は先祖供養と草むしり
例えば2012年の『曹洞宗檀信徒意識調査報告書』では、寺で行われる各種の行事への参加率が明らかにされている。盂蘭盆会(59.3%)、春と秋のお彼岸(それぞれ43.1%と40.1%)といった先祖供養には、多くの信徒が参加している。また、草取り・掃除(34.1%)や除夜の鐘(22.6%)といったイベントも、そこそこの参加率である。
だが、釈尊降誕会(23.5%)、涅槃会(18.6%)、成道会(9.6%)といった信仰と深く関わる行事、さらには坐禅会(8.8%)という曹洞宗の教えの根幹に関わる行事の参加率は低調なのである。要するに、寺の行事にかかわる動機は先祖供養が大半であり、報告書の表現を借りれば、信徒は「それを習慣として位置づけている」のである。
曹洞宗の掲げる葬儀の意味が浸透していない
さらに、相澤秀生・川又俊則(編)『岐路に立つ仏教寺院』(法藏館)は、2015年の調査データも踏まえながら、現代仏教の実態を描き出している。ここでは、日本人が最も仏教と関わる局面である葬式について見てみよう。
「葬儀はなんのために行うのか」を信徒に尋ねたところ、「故人を成仏させるため」(58.3%)という回答が最も多く、その次に「遺族が故人を弔うため」(30.2%)が多い。一方、「残された者の心の救済」「故人の死を世間に知らせるため」「慣例的な人生儀礼だから」といった回答は10%に満たない(第4章「人口減少社会における葬儀と寺檀関係」より)。
1位の回答には「成仏」という仏教用語が含まれており、宗教的な回答に聞こえなくもない。だが他方で、「死者が最終的にどのような存在になるのか」を聞いた質問では、「先祖」が32.3%で最も高く、「ホトケ」は17.7%にとどまる。さらに、「何かになることはないけれども存在している」(13%)や、「わからない」(12.1%)という回答もホトケに匹敵する割合を示すのだ。
こうした状況を分析した仏教研究者の相澤氏は、檀信徒にとっての成仏とは、曹洞宗の教えでいう仏弟子になることではなく、「曹洞宗の掲げる葬儀の意味が檀信徒に広く浸透していない実態が透けてみえてくる」としている。
大半の日本人は教えに共鳴したわけではない
そもそも、現在でも日本人の多くがどこかの寺の檀家になっているのは、江戸時代、幕府によって寺が民衆統制の出先機関に指定されたためである。どこかの寺に所属することで、当時禁止されていたキリシタンでないことを証明し、寺はそれによって檀家という比較的安定した経済基盤を獲得したのである。
このように、神道も仏教も、大半の日本人はその教えに共鳴して選択したわけではない。個人の信仰とは異なる次元で関わるのが両宗教なのだ。神道は地域というコミュニティ単位、仏教は寺という家単位で関わるものであり、個々人が神仏や極楽浄土についていかなる信念を持っているかとはあまり関係ないのである。
日本にはキリスト教の豊かな歴史がある
一方、キリスト教の場合、神道仏教とは事情が異なる。カトリックであれ、プロテスタントであれ、キリスト教には精緻に組み上げられた信仰体系が存在する。世界はいかにして始まり終わるのか、人の命はどのようなものであり、また人と自然がどのような関係にあるかも語られる。さらに、プロテスタントの宗教改革は、聖書を知的に受容する信仰が最重要であることを説いた。
フランシスコ・ザビエル来日以来、日本には豊かなキリスト教の歴史がある。江戸期に厳しい禁教と弾圧も行われたが、それを乗り越えた歴史文化が、昨年、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産登録された。その構成資産を見れば、本土だけではなく、五島列島のような離島にまでキリスト教文化が根付いていたことがわかる。
明治以降も、近代化の手本である欧米の宗教として、キリスト教は日本で大きな影響力を持った。キリスト教系の学校に名門が多いことは、そのひとつの証左だろう。上智大学、立教大学、聖心女子大学、明治学院大学、南山大学、同志社大学などだ。これらの多くは、明治期、宣教師たちが来日したことがきっかけで創立された。外国人居留地のあった築地には、こうした学校の創立を記念する碑がいくつも残されている。
また、筆者が暮らす札幌にも、藤女子大学、天使大学、北星学園大学などキリスト教系の大学は多い。国立である北海道大学でも、前身の札幌農学校の初代教頭を務めたウィリアム・スミス・クラークがキリスト教について講じていた。クラークの滞日は1年にも満たないが、農学校にキリスト教文化を根付かせ、のちに内村鑑三、新渡戸稲造、宮部金吾といった代表的なキリスト者を生み出している。
キリスト教信者は総人口の1%前後
だが現在、キリスト教の国内の信者数はふるわない。日本のカトリック中央協議会によれば、2017年の信者数は約44万人である。カトリックは、札幌から那覇まで大都市を中心に「教区」という単位に分割されている。東京教区は人口1980万人に対し、カトリック信者は約9万7000人。人口の0.5%未満だ。それでも16の教区のうち、2番目に割合が高い。最も信者率が高いのは長崎教区の約4.3%だが、そもそも教区人口が少ないため、信者数は6万人程度にとどまっている。
カトリックの44万人にさまざまなプロテスタント教会の信者数を合計しても、日本の総人口の1%前後と見積もられる。日本のキリスト教は、文化や芸術、あるいはクリスマスのようなイベントとしてはなじみがある。井上ひさし、遠藤周作、曽野綾子といったクリスチャンの作家も親しまれてきたし、国内外を問わず、旅先で高名な教会を訪れる日本人観光客は多い。しかし、「信じる」という形で接する人は常に少数であり、神道仏教とは異なる意味で、信者なき宗教なのである。
『聖☆おにいさん』はなぜロン毛とパンチなのか。2つの宗教が日本で禁止されていたり、まったく関心をもたれていなかったりすれば、細かい知識を前提とした面白さは失われてしまう。「信じないが知っている」という独特の関係でキリスト教と仏教に接してきた日本独特の宗教風土が、同作を成立させているのである。
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岡本 亮輔(おかもと・りょうすけ)北海道大学大学院 准教授
1979年、東京生まれ。筑波大学大学院修了。博士(文学)。専攻は宗教学と観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)、『江戸東京の聖地を歩く』(ちくま新書)、『宗教と社会のフロンティア』(共編著、勁草書房)、『聖地巡礼ツーリズム』(共編著、弘文堂)、『東アジア観光学』(共編著、亜紀書房)など。
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(北海道大学大学院 准教授 岡本 亮輔)
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