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なぜ日本はブッダとイエスをイジれるのか

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NHKでドラマ「聖☆おにいさん」の放送が始まった。原作マンガはブッダとイエス・キリストの同居生活を描くというユニークな人気作だ。なぜ日本で宗教を「ネタ」にした作品が共感を呼んだのか。宗教社会学者の岡本亮輔氏は「仏教とキリスト教は、日本では『信じないが知っている』という独特の存在になっているため、ネタ化することができた」と分析する――。


ドラマ「聖☆おにいさん」(NHKウェブサイトより)

タブー視しがちな宗教ネタをゆるく扱う

ドラマ「聖☆おにいさん」(NHK総合)の放送が始まった。原作マンガは、立川の安アパートで暮らすイエス(キリスト)とブッダのゆるい日常を10年以上にわたって描き続けている。この作品の魅力は、なんとなくタブー視しがちな宗教ネタを正面から扱ったことだろう。

ブッダが横になってうたた寝すれば動物が集まってくるし、イエスがろくろ回し中に笑えば原材料が石の粘土はパンに変わってしまう。聖霊はハトで表現するといったキリスト教画の文法もしっかり踏襲され、ネタとして使われている。キリスト教についてはどちらかといえばカトリック寄りであり、仏教については日本独特の伝統や習俗も踏まえながらギャグマンガとして成功している。

しかし、なぜ『聖☆おにいさん』はイエスとブッダを題材にして成り立っているのか。ドラマの「製作」クレジットは、原作で2人が組んだお笑いコンビ名にちなんで「パンチとロン毛製作委員会」となっている。キリスト教と仏教についてはクレジットでまでネタ化されるが、両宗教とともに三大宗教の一つに数えられるイスラムは登場しない。「イスラムでは偶像崇拝がタブーだから」というのは十分な説明ではない。キリスト教でも偶像崇拝は禁止されているからだ。

真剣に信じる人がマジョリティなら成立しない

また『聖☆おにいさん』は、フランスでも『イエスとブッダの休日(Les Vacances de Jésus et Bouddha)』というタイトルで翻訳出版されている。フランスは世界でも最もキリスト教離れが進む国の一つだが、アマゾン・フランスには20以上のレビューがある。その多くはギャグマンガとして評価したもので、「このマンガは神々を人間として描いています。設定も登場人物も普通ではなく楽しい!」といった肯定的な内容が多いが、真剣に信じる人を前提としたコメントもつけられている。


フランス版『聖☆おにいさん』

キリスト教であれ仏教であれ、真剣に信じる人がマジョリティの国では『聖☆おにいさん』は成立しないだろう。宗教が社会のなかで特権的な地位を与えられ、世俗を超越したものとされるからだ。一定数の保守的なキリスト教徒を抱え、『ハリー・ポッター』ですら反キリスト教的として公開されない地域のあるアメリカや、初期仏教の戒律や伝統を重んじる上座部仏教の国では、『聖☆おにいさん』は厳しい批判を浴びてしまうだろう。

日本にもキリスト教と仏教を信じる人々は存在するにもかかわらず、なぜイエスとブッダのネタ化が可能だったのか。この点を考えると、「信じない宗教」という日本の宗教文化の特徴が見えてくる。

仏教と神道では「信じる」ことはさほど重要ではない

文化庁が毎年『宗教年鑑』という報告書を出している。2018年度版によれば、神道系の信者総数は約8616万人、仏教系は約8533万人であり、合わせて1億7000万人を超える。総務省の推計では、日本の総人口は約1億2631万人(2019年1月1日現在)であり、神道と仏教の信者が人口を超えてしまう現象が起きている。

これには、各宗教団体による報告数をそのまま掲載する『宗教年鑑』の調査法にも問題がある。だが、仮に信者数を半分に割り引いたとしても、日本人の2人に1人以上がなんらかの宗教の信者であるというのは、あまりに実感とかけ離れているのではないだろうか。

私見では、「イエスを救世主と信じる」というのと同じような意味での信仰は、日本の宗教文化にはなじまない。日本の伝統宗教である仏教と神道では、そもそも「信じる」ことはそれほど重要ではないからだ。

神道には信じるべき明確な“内容”がない

たとえば神道国際学会のウェブサイトには「神道とは何か?」を説明するページがある。要点を抜き書きすると、下記の通りだ。

・神道は古代から現代まで続く土着の民族宗教であり、アニミズム的な自然崇拝の性格が強い。
・各地にさまざまな慣習はあるが、宗教的体系はない。
・教祖もおらず、聖書のような教典もない。
・神道に神学はなく、氏子は信者ではない。

要するに、神道は信じるか信じないかという以前に、そもそも信じるべき明確な内容を有していない。だからこそ、明治維新以降の王政復古では、「神道は宗教ではない」というレトリックが可能になったのだ。そして現在でも、ある神社の信者数(=氏子)は、その地域の住民数として報告されるのである。

仏教の場合、神道よりも確固とした教学の伝統がある。大ざっぱに言えば、仏教が日本に伝来したことで、それまであった漠然とした自然崇拝があらためて神道という独特の宗教観として、それなりに形成された。

しかし、高い抽象度と論理性を備えた仏教の教義が一般民衆に浸透しているかというと、それはまた別の話だ。曹洞宗は定期的に自宗の調査を行っているが、そこから見えてくるのは、先祖供養という本来は仏教とは無縁の実践の広がりである。

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